音楽フェスにてテクノロジーとの共生、身体拡張の未来を表現
一般社団法人WITH ALSは、ALS啓発を目的とした音楽フェス 「MOVE FES. 2024」 2024年を11月24日(日)に開催した。
2016年にスタートした 「MOVE FES.」 は、ALS当事者でありながらクリエイター・アーティストとして活動を続けるWITH ALS代表の武藤将胤が、企画・演出を務めるALSの啓発音楽フェス。
今年は 「WE CAN EXPAND. 僕らは拡張できる。」 をテーマに開催し、来場合計約823名、配信・メタバースを含めて合計約1,300名が参加した。ステージではMOVE FES.の趣旨に賛同したアーティストによるライブステージに加え、EYE VDJ MASA (武藤将胤) のパフォーマンス、ボーダレスなアーティストとのコラボステージ、ALS支援の最前線について対談するALSトークショーなどが行われた。
公開実験、脳波でロボットアームを操作。
脳波研究者で、東京大学大学院特任研究員WITH ALS脳科学技術アドバイザーの荻野幹人からは、直近の脳波研究の成果をプレゼン。脳波を使ったコマンド操作のスピードが上がったことや、脳波を使ってドローン操作をテスト操縦した実験など、技術の進歩を報告した。これまでは技術研究段階だったものを、2025年からはALS患者を対象に広範囲実験を開始することを発表し、今後一般化していきたい意向も話した。
またムーンショット型研究開発事業で身体拡張を研究している慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 南澤孝太は、テクノロジーが人の体験や行動を拡張できるという考えのもと、VRで触ったものを肌で感じられる触覚コミュニケーションをはじめ、身体拡張の研究について発表。身体拡張の結果、例えば八百屋で果物をつかむ、通りすがりに挨拶するなど、日常のさまざまなシーンで障がいを克服できるテクノロジーと共生した未来について、動画で紹介した。
南澤は 「テクノロジーが一般化されていき、新しい技術の恩恵を誰もが受けられる未来を目指している。」 「メガネがファッションになったように、新しい腕、新しい服、いろんな姿の人が街を歩いているような未来が来ると良い」 と話し、「数年後には簡単だね、と言えるように開発をしていくことが僕らのミッションかなと思ってます」 と研究開発への想いを語った。
また、パフォーマンス中の掛け声は、武藤将胤の声を音声合成で復活させたもの。今回はNTTの技術協力のもと、わずか数秒間の 「少量の音声データ」 からでも合成音声を再現できる技術を活用した。これまで音声合成技術は、指定された文章を読み上げて合成音声を作成するものが定番だったが、本技術は思い出の映像などに少しでも音声が残っていれば、 音声を再現出来るという新しい技術。さらに、日本語の音声から英語などの多言語表現が可能になる 「クロスリンガル音声合成技術」 を活用して、英語での呼びかけも実現した。徐々に声を出せなくなるALS当事者にとっては、録音に対する労力の負荷から声を残すことを諦めてしまう人も多い中、この技術は朗報だ。
さらにステージ上では、ロボットアームと脳波を掛け合わせた公開実験を披露。
武藤が頭皮につけた8個の電極を通じて、脳波でロボットアームをコマンド操作。「指さす」 を選択し、実際に車椅子に取り付けたロボットアームが人差し指をまっすぐ伸ばす動作を行う流れを披露した。「拍手」 では頭の上で手拍子のパフォーマンスを行い、そのなめらかな動きに会場からも大きな拍手が起こった。
また荻野研究員はロボットアームについて、「動かせるだけでなく、実際に触覚を感じられることがポイント。脳に刺激が来ることで、脳が変わる。脳波を動かしやすくなる。そういった良い循環にもつながる可能性がある」 とコメント。
オリィ研究所 兼 WITH ALS 特別顧問の吉藤オリィからは、「武藤はマルチタスクできるまでに各ツールを使いこなしてはいるが、すごい人のためだけのものじゃない。これを世界中の子どもたちが当たり前のように使っている未来をつくりたい」「自分の体を自分で介護する、という未来は本気で実現できると思う」「障がいは次のテクノロジーを生み出す過程になる。体を動かすことはできないけれど、じゃあ視線入力を、じゃあ脳波を、と選択肢を広げていきたい。」 と、テクノロジーが一般化した先の未来について具体的なビジョンが語られた。
ステージにはVRアーティストのせきぐちあいみも登場、介護施設や看護施設で新たな体験を提供してきた活動を紹介。寝たきり状態の方も、アバターを通じてVR世界を楽しんでいる患者さんの姿を紹介した。そして国内外を回る中で、武藤が作曲やDJプレイなどあらゆる作業を視線入力でこなしていることを紹介すると驚かれると話し、「武藤の活動は “こんなこともできるんだ!” と見ている人の希望も拡張する」 と可能性を語った。
また、治療薬研究開発のファンドレイジングの分野からせりか基金の黒川久里子は、これまでの寄付で集まった研究費7,950万円により、ALSの原因研究が大幅に進んでいると報告。「治る未来も近い」 と伝えた。
さらに、ロボットアームを装着しながらファッションを楽しめるようにと開発した 「MOVE WEAR」 プロジェクトについても発表。MOVE WEARは武藤のために開発したユニバーサルデザインの衣装で、ロボットアーム用の袖や、上半身と下半身での着脱可能のコート、ジャケット、パンツのマルチデザインで、それぞれ寝たままでも脱ぎ着できる機能性を持ち、なおかつタウンウエアとしても着用できるファッション性も兼ね備え、「車いすごと着る服」 という新たなスタイリングを提案している。 衣装に施したオリジナルプリントは夜間視認性を向上させる再帰性反射の中でもオーロラ色の光を放つスペシャルな手法を採用。ロボットアームに着用させる袖パーツにもリフレクタープリントを施し、腕を動かした時の視覚的インパクトを高めている。
身体拡張パフォーマンスを組み込んだライブ演出
武藤将胤自身が視線コントロールでDJ・VJを操作する 「EYE VDJ
MASA」 のライブステージでは、筋電センサーでコントロールするデジタルアバターや、脳波でコントロールするロボットアーム演出など、最先端のテクノロジーを融合した世界初の身体拡張ライブに挑戦。また、EYE VDJ MASAのステージ楽曲は、すべて視線入力で作詞作曲したオリジナルのものが披露された。
出演アーティストは、清春、androp・内澤崇仁、HOME MADE家族・KURO、NOBU、和合由依、かんばらけんた、MORIKO JAPAN、Celeina Ann、せきぐちあいみ、 M++DANCERS。また、ALS当事者による音楽ユニット 「たか&ゆうき」 もゲスト出演。車椅子ダンサーや白杖ダンサーをはじめ、今年も多様なアーティストとのコラボによるボーダレスなステージで、それぞれが熱いメッセージを表現した。
アーカイブ配信 & ダイジェストムービーも公開中
尚、当日ライブ配信した映像は、12月23日(月)までアーカイブ視聴することができる。ステージパフォーマンスだけでなく、トークショーやアーティストのステージコメント、バースデーサプライズも含め当日の臨場感そのままに楽しむことができる。
配信チケットはこちら
また、当日の映像を2分強にまとめたダイジェストムービーも公開されている。
武藤 将胤
一般社団法人WITH ALS 代表理事 / COMMUNICATION CREATOR / EYE VDJ / 株式会社オリィ研究所 当事者顧問
38歳、ALS患者。ALSの課題解決を起点に、クリエイティブの力でBORDERLESSな社会を創造することをミッションに活動している。全ての人が自分らしく挑戦出来るBORDERLESSな社会を目指して、エンターテイメント、テクノロジー、介護の3つの領域で、課題解決に取り組んでいる。
クリエイターとして、2020年東京パラリンピック開会式や2022年CANNES LIONS、2024年SXSW出演など国際イベントにも多数出演。「EYE VDJ MASA」名義で様々なアーティストとコラボレーション作品を制作する。
難病ALS (筋萎縮性側索硬化症) は、 2024年現在、有効な治療法が確立されていない指定難病。意識や五感は正常のまま身体が動かなくなり、やがて呼吸障害を引き起こす。延命のためには、人口呼吸器が必要。平均余命は、3~5年。呼吸器を装着する事で生きることはできるが、身体能力に加え発話能力も失っていく。現在年間約10万人に1人が発症しており、世界で約40万人、日本には約1万人の患者がいる。
MOVE FES. 2024
会場:LINE CUBE SHIBUYA (渋谷公会堂) (東京都渋谷区宇田川町1-1)
日程:2024年 11月 24日(日) 16:30~21:00
主催:一般社団法人WITH ALS
問い合わせ:info@withals.net
一般社団法人WITH ALS
https://withals.com/