LIFE STYLE | 2023/11/14

自国で戦争が起こったらどんな風に働く?ウクライナ人アーティストが語る「戦時下の仕事とお金」の考え方

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ウクライナの民族楽器「バンドゥーラ」奏者・歌手として、日本を中心に国内外で活動を続けるカテリーナ氏による、祖国の美しい大地や、そこに生きる人々の姿を多くの人に知って欲しいという思いを込めて綴ったエッセイ『ウクライナ女性の美しく前向きな生き方 美人大国・ウクライナ女性の衣食住と恋愛・結婚のすべて』(徳間書店)が今年9月に出版された。

同氏は1986年にチェルノブイリ原子力発電所から2.5km離れた町「プリピャチ」で生まれ、生後30日で原発事故により被災、一家は町から強制退去させられることとなった。その後、6歳の時に原発事故で被災した子供たちで構成された音楽団「チェルボナカリーナ」に入団し、以来海外公演に多数参加。その際に訪れた日本の素晴らしさに感動し、2006年、19歳の時に音楽活動の拠点を日本に移している。

本書はタイトル通り、主にウクライナ人女性のライフスタイル紹介がメインではあるが、2022年に起こったロシアによるウクライナ侵攻によって被った影響についても多くのページを割いて記されている。

本記事では、カテリーナ氏が自国から遠く離れた日本でミュージシャンとして生計を立てられるようになる前の、アルバイト時代のエピソードから始まり、ウクライナ人の仕事観、そして侵攻発生後にそれがどのように変わったかを紹介する。

前回記事「戦場になったウクライナから母親を呼び寄せるも「帰りたい」と言われてしまう…日本で活動するウクライナ人アーティストが語る「国外避難生活」の難しさ」はこちら

※本記事はカテリーナ『ウクライナ女性の美しく前向きな生き方 美人大国・ウクライナ女性の衣食住と恋愛・結婚のすべて』の内容を再編集したものです。

カテリーナ (Kateryna)

ウクライナの歌姫・バンドゥーラ奏者。
1986年、ウクライナ・プリピャチ生まれ。生後30日でチェルノブイリ原発事故により被災。
6歳の時に原発事故で被災した子供たちで構成された音楽団に入団、故郷の民族楽器であるバンドゥーラに触れ、演奏法・歌唱法の手ほどきを受ける。海外公演に多数参加、10歳のときに日本公演のため初来日。
16歳から音楽専門学校で学んだ後、19歳の時に音楽活動の拠点を日本に移すため再来日。
日本で活動する数少ないバンドゥーラ奏者の一人として、また、ウクライナ民謡・日本歌曲・クラシック・ポップスのヴォーカリストとして、CDのリリース、国内ツアーやライブハウスでのパフォーマンスなど、精力的な活動を行っている。現在は、全国各地でチャリティーイベントを中心にライブ活動を展開している。
オフィシャルHP https://www.kateryna-music.jp/
X(旧Twitter) https://twitter.com/kateryna_music

さまざまなアルバイトをしたのは日本語を学びたかったから

カテリーナ氏によるバンドゥーラ演奏

日本に来て17年、これまでずっと音楽活動メインでやってきましたが、来日当初は中華料理店、シチリア料理店、寿司店など、さまざまなアルバイトをしてきました。

それは生活費のためというより、日本の方々とコミュニケーションを取って、日本語を学びたかったからです。

また、そこで出会った人たちにウクライナの音楽家ということをアピールしたい気持ちもありました。

日本で働いてみて、ひとつ、仕事に対しての価値観の違いに気づいたことがあります。それはある高級料理店でアルバイトをしていたときのことです。

場所が銀座にあることから、格式の高いお店でした。そのため、アルバイトとはいえ研修も厳しくて、料理のお皿の持ち方、運び方、テーブルへの料理の置き方など、何度も先輩から厳しく指導されました。

一番難しかったのが、お皿になみなみと注いだ熱湯を入れて、お客さんに料理を提供する練習をさせられたときです。熱いお湯をこぼさないように両手でお皿を持つと、

「ダメよ、お皿がどんなに熱くても片手で持たないと。こぼしてお客さんにかかると問題

になるよ。指先まで意識してきれいにね」

と先輩から注意されて、誰もいない従業員用の部屋で何度も何度も練習させられました。そのうち、私自身、「この練習、本当に必要?」と疑問が湧いてきてしまいました。確かに、片手で料理を差し出したほうが見栄えは良いかもしれませんが、「慣れないうちはまずはこぼさないように両手でお皿を持って提供してもいいのでは?」と思ってしまったのです。

実際に店内で働き始めても、先輩方から、

「これやりなさい。これはやっちゃダメ。あっちに行きなさい。そっちに行っちゃダメ」

とあれこれ言われ、おまけに、

「なぜうちの店に来たの? 他に働く店、あるでしょう?」

とまで言われて、結局、1週間働いてその店は辞めてしまいました。

これは私の価値観なのですが、まずは楽しく働きたい、というのが気持ちの根底にあります。

楽しく働きながら、日本語や料理のことを勉強したかったのですが、働く楽しさよりも、ただただ厳しく「このやり方しかやってはいけない」というルールに縛られるのはどうかと思ったのです。

これはウクライナの考え方ではどうかという話ではありません。私自身は「決められたルールは絶対に守らなければいけない」「どんなに苦しくても途中で辞めてはいけない」「先輩や上司から言われたことには従わなければいけない」ということに縛られる必要はないと思っています。

これはよくウクライナの女性たちが話すことですが、

「すごく好きだった男性と付き合えなかった、結婚できなかった」

ということにすごく悩んでいるなら、

「世界中を探せば、きっともっと素敵な男性はいる。この人がダメなら、違う人を探せばいい」

という考え方をします。それは仕事に関しても同じです。

「この仕事、この職場じゃないとダメというわけではない。自分に合わないのなら別の環境を探せばいい」

世界は広いのです。もしウクライナでできなかったら、違う国に行ってみればいいのです。

戦争が起こってから環境は変わりましたが、それでも自分が本当に望むなら、世界で挑戦できることは多いのだと気づくことです。

それなのに、人の目を気にしたり「親や友人から反対されるから」と気にするから、辛い環境から抜け出せないのです。

「自分はそれでいい。自分の考え方で正しい」

と思えて、自分で生活できているのであれば、他人の目は気にしなくていいと思っています。

人生は一度きり。今の仕事はしたくない、というのであれば、我慢し続けるのではなく、違う場所でもっと楽しく生活できる仕事を探せばいいのです。

例えば音楽活動を日本で始める時に「日本でバンドゥーラを弾ける人は他にもいるので、今から活動を始めても難しいと思うよ」

と言われました。でも、私はひるみませんでした。やってみなければわからないことを、やる前から「できない、無理、難しい」とあきらめるのは違うと思ったからです。

とにかく他人に言われて自分の行動を決めるのはとても苦手です。「失敗するかも」と思って何もやらないのではなく、とりあえずやってみて、調べて挑戦してみて、その中でまた違う可能性を探っていけばいい。

だから私はつねに自分の中のアンテナを研ぎ澄ませて、自分の中の違和感を放置しないようにしています。

来日した当初、アルバイト先で違和感があったから、私は別のバイト先を探して、今度は楽しく働くことができました。

もし今、仕事で悩んでいるのなら、「ここしかない」という縛りから自分の意識を解放してみるといいかもしれません。

ウクライナの女性に人気の職業

日本では女性が働きたい仕事のランキング上位に、「WEBデザイナー、コンサルタント、薬剤師」が多いと聞きます。

ウクライナの女性たちには、「学校の先生、幼稚園や保育園の先生、音楽専門学校の講師」がとても人気があります。

とくに都市部よりも田舎で生まれ育った女性たちは、大学で勉強したあと、田舎に戻って地元の学校で先生として働くことを理想としています。

ちなみに、新卒の学校の先生の給料は1万〜1万4000フリヴニャになります。日本円だと4万円から5万5000円ほどです。

会社勤めなら、秘書も人気です。とくに若くてきれいな女性だったら、勉強ができなくても秘書になるケースは多いです。

ちゃんと稼ぎたいという上昇志向が強い女性では、税理士やIT企業への就職を目指す人もいます。

海外に行く機会が多い旅行会社に勤めたり、不動産会社に勤める女性たちも増えました。海外で働きたい女性たちは、私と同じように子どもの頃から音楽を続けてミュージシャンになったり、プロのダンサーになって稼ぐ女性もけっこういます。

今は戦争中なので、仕事も限られたり、海外に出るのも制限されていますが、ウクライナも日本も若い女性たちの仕事に対する考え方は、あまり変わらないように思います。

ウクライナの男性はどうでしょうか。女性と同じように、学校の体育の先生を目指している人は多いです。

ただ会社勤めに関しては、家族から引き継いで会社を経営したり、仲間と共同で事業を興す男性たちが多いです。また、エンジニアや建築家も憧れの職業です。

これは日本と共通していますが、ひとつの会社でずっと勤め上げるよりも、キャリアアップしながら転職を繰り返すパターンのほうが増えてきているようです。

自分の好きなこと、やりたいことを探して、仕事も変えていくのです。それが増えたのは、ウクライナではリストラも多いからです。

日本のように1か月前に解雇を告げるというルールはなく、いきなり会社の都合で、

「もう明日から来なくていい」

とクビにするのです。

一生懸命仕事をしていても、新人で会社に入ったばかりの人でも、ウクライナではリストラは突然、行われます。

このような社会環境もあり、会社に対しての愛社精神よりも自分がやりたいことを優先する考えが主流になっているように思います。

ウクライナ人の金銭感覚

仕事に関してはリストラが多くあったり、長引く戦争で失業者も増えました。昔からウクライナの人たちには、しっかり貯金をする人が多かったのですが、やはり世の中が不安定になっているので、何かあったときのために貯蓄をしっかり続けている人がより増えました。

ウクライナ在住の友人が教えてくれたのですが、貯蓄に関しては戦争で銀行にお金を入れておいても銀行自体がどうなるかわからない状況なので、お金をダイヤモンドなどの宝石に替えている人が増えているそうです。

ウクライナの通貨は「フリヴニャ」ですが、札束だと持ち歩くのは不便だし、戦火にあえば燃えてなくなってしまいます。その点、宝石などに替えておけば、移動のときにも最悪、ポケットに入れて持ち歩けます。

ウクライナの通貨だと価値が変動しますが、ダイヤモンドなどの宝石だと海外でも価値が大きく変わることが少ないのも、大きな魅力です。

ウクライナ国内でも、通貨と宝石を交換するお店がどんどん増えていると聞きます。ウクライナ女性の金銭感覚は、お金持ちと結婚して楽な生活を夢見る女性がいる一方で、結婚しても自分で稼いで金銭的に自立していたい、と思う女性も多いです。

私も両親からそのように教えられて育ったので、男性から食事に誘われても、自分の分は自分で払うことが多かったです。

ただ結婚してからも、私の稼ぎからお金を出すことが多いことに関しては、母から、

「なぜ、あなたばかりお金を出しているの?」

と言われることもあります。

基本的にウクライナでは、男性がお金を出すことがマナーになっています。私のように割り勘にするのは稀で、レストランの支払いは男性がしますし、基本はレディファーストです。

日本に来て驚いたのは、ある女友だちが、付き合っていた男性と別れた際、相手からプレゼントされた品物や使ったお金の分の請求書を渡されて、全部、返すことになった、と聞かされたときです。ウクライナでは、ちょっとあり得ません。でも、彼女は、

「日本では別れたら、もらったものを返すのはよくある話よ」

と話していました。最近の日本ではそれが常識なのでしょうか。

飲み会での割り勘も当たり前だと言っていました。ウクライナでは割り勘は考えられないと思う女性が多いです。

でも、その友人から、「将来、あなたの息子が彼女とのデートですべて奢ることなったら、どう思う?」と聞かれて、

「デートで男性が奢るのは当たり前!」と言ったそばから、

「絶対、無理!」

と言ってしまいました。

他人のことと、息子の場合は「全く別の話」になってしまうことに、思わず友人と笑ってしまいました。


カテリーナ『ウクライナ女性の美しく前向きな生き方 美人大国・ウクライナ女性の衣食住と恋愛・結婚のすべて