CULTURE | 2022/02/15

劇団もうひとりの『浅草キッド』【連載】藝人春秋FINDERS(4)

Illustration by Makoto Muranaka

水道橋博士
お笑い芸人
1962年岡山県生れ。...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

ビートたけしと師匠・深見千三郎の師弟愛

この映画のテーマは「師弟愛」ですが、そもそも、深見千三郎師匠は、テレビ出演がほとんど無かっただけに、たけしさんが売れなければ、世間には知られぬままだったはずです。

深見千三郎師匠の生前の舞台の様子は、96年10月25日に放送されたテレビ番組『驚きももの木20世紀』の、「たけしの師匠・深見千三郎物語」と題された回で5秒ほど取り上げられています。

テレビに背を向けたと言われる、深見千三郎師匠のテレビ出演は、調べたところ、実際は何度かあったようです。

この『驚きももの木20世紀』にゲスト出演している高田文夫先生さえも、最近まで、この番組の出演のことすら忘れられていたそうですが……。

番組の中で、「舞台は見たことはないが、ラジオで、必ず、たけしさんが『深見のとっつあん』と呼んで逸話を話していたことを思い出します」と発言されています。

実際、80年代に放送されたビートたけし×高田文夫のANNのファンはたけしさんが語る、師匠・深見千三郎さんのエピソードは周知の事実ですが、実際にコントをしている姿は見たことがないはずです。

そして、今回、ボクも高田先生もすっかり忘れていましたが、たけしマニアの好事家の指摘で思い出したのは、『ギャグ狂殺人事件』(作品社)というタイトルのビートたけし名義のミステリー小説の存在です。

この本は、1984年の2月、深見千三郎さんが亡くなられた翌年に高田文夫先生をゴーストライターにして書かれています。

しかも序章は、「深見のオトッアンが死んだ」と題されて、生々しく、師匠が亡くなられた当日の出来事を、高田先生の軽やかに話す口調のままに、振り返っています。

この本を読むと、映画でも描かれた、たけしさんが正月番組のフジテレビ『放送演芸大賞』受賞後の、師弟の最後の晩餐シーンの意外な新事実がわかります。

それだけではありません。

このNetflix版を契機にして、ボクは、自分の秘蔵コレクションから、深見師匠が亡くなった翌日、83年の2月3日の深夜に生放送された、ビートたけしのANNのテープを発掘しました。

今、聞き返すと、師匠の死の翌日に、ここまで笑い話だけで追悼トークが出来るのも、神がかったトークだと思いました。

ライブでは触れませんでしたが、深見千三郎を描いたノンフィクション本、伊藤精介『浅草最終出口〜浅草芸人・深見千三郎伝』(1992年・晶文社)も絶版にはなっていますが、現存していますので、お好きな方は是非、古書店をお探し下さい。

このライブを終えた後も、Netflix版『浅草キッド』の感想、批評をたくさん読みました。その中で最も唸ったのは、演芸評論家の西条昇(江戸川大学教授)さんの原稿です。

西条さんは、Netflix『浅草キッド』配信後に3回に渡って、「深見千三郎という男」と題して『日刊スポーツデジタル』に綴っています。

またコラム内で言及されている、西条さんが見た公演のデータをTwitterでこういうふうに記録しています。

Netflix版『浅草キッド』の中で、深見千三郎の弟子筋になる社長が、師匠の再就職先のお世話をしますが、それは実在の人物であり、東MAXのお父さん、52歳で夭折された東八郎さんの贔屓筋の社長なのです。

浅草フランス座の大先輩・萩本欽一さん、東八郎さんは、深見の師匠の弟子筋にあたります(この映画では萩本欽一さんとの師弟関係は触れていないのも、特徴だと思います)。

その関係で、東MAXが、深見師匠とよく銭湯に行っていた話も、以前本人に聞いたことがありました。

その話を確かめるため先日、東MAXと電話でやりとりをしたところ、貴重な証言を得ました。

「ボクは子供の頃から師匠に可愛がってもらいました。自分の家と師匠の家は超ご近所だったので、師匠部屋が焼けた時に、その火事を目の前で見ていましたからね」という話には絶句しました。

そして、西条さんが見た舞台の話になると……。

「実は、そのテレビ放送のテープが家にあるんですよ」とのこと。

その後、東MAXから、秘蔵されたテープをMP4に焼いたDVDが送られてきました。

メールの文章には──。

「テレビでの放送は、昭和55年4月25日6時半からになってますね。局はわかりませんが、『花王名人劇場』や『てなもんや三度笠』『新婚さんいらっしゃい』などで有名な元ABC、後の東阪企画の澤田隆二さんがプロデューサーで作った番組ですね」

東MAXには事前に伝わっていませんでしたが、ボクは昨年、時代劇チャンネルで、急逝された澤田隆二さんの『てなもんや三度笠』の秘蔵ビデオを再現するお仕事に関わっています。

そして、早速、玉手箱を開くような気持ちで、このDVDを自宅のパソコンで再生した時。驚きました。

鮮明な画像で、あの深見千三郎が、話し、動いているのです。

欠損した左手は包帯を巻いたままに──。

著作権の関係で、ここではこの映像を見せられません。

この事実をブログにあげたところ、さらに好事家仲間が、調査してくれて、放送局もわかりました。

読売新聞縮刷版の昭和55年(1980年)4月号の25日(金)付ラテ欄によれば『爆笑タッチダウン』はTVKテレビで放送されていたようです。ラテ欄の狭いスペースに出演者が1名だけ「東八郎」とあります。

多くの人には無駄な情報だと思います。

今回、声を大にして言いたいことは──。

Netflix『浅草キッド』の公開に合わせて、長く埋もれていた映像資料を発掘、「Find」することができました!!

この資料は、多くの人と共有したいです!!

何時か後世の人が、この映像にも目に触れて、ボクの師匠ビートたけしと、その師匠の深見千三郎のピカピカな伝説を、明日に語り継いで下さい。

Illustration by Makoto Muranaka


過去の連載はこちら

prev