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文:赤井大祐(FINDERS編集部)
「英語はビジネスマンの必須スキル」と言われ幾星霜。今のところ、英語ができなくとも日本国内で食っていくことはなんとかできそうだ。
とは言え、世界的に見て実質賃金が下降線をたどり続ける日本よりも、賃金の上昇する欧米諸国や、東南アジア圏などの国々で仕事を探すのもアリではないだろうか。仕事の内容は同じでも給料がまったく違うことだってあるというではないか。
ましてやコロナ禍を経た現在。リモートワークが普及したことで、国内にいながら国外の企業で働くことだって以前ほど難しくはないはずだ。
もちろん、「英語」さえ扱えればだ。
そんな新たな可能性を探るべく、FINDERS編集部は再び、英語コーチングプログラム『PROGRIT』を運営する株式会社プログリットの門を叩いた。
すると、昨年6月から、シャドーイング特化型学習サービス『シャドテン』を開始したというではないか。いったいどのようなサービスなのか。なぜシャドーイングに特化しているのか。シャドテンのマーケティング・事業開発担当の新井瑠生(るい)氏に話を伺った。
新井瑠生
株式会社プログリット「シャドテン」マーケティング・事業開発
新卒で(株)セプテーニに入社し3年間、国内のさまざまな企業にデジタルマーケティングを支援。その後、1年半サンフランシスコを拠点として日本・韓国を行き来しながら北米ゲーム企業のプロモーション支援を担う。セプテーニ退職後はスタートアップ2社にて経営に参画したのち独立・フリーランスに。プログリットでは1年半ほどCMOとして「プログリット」事業のマーケティング責任者を行い、現在は新規事業「シャドテン」のマーケティング・事業開発の立ち上げを行っている。
日本人は英語の音を正しく聞き取れていない
――「シャドテン」はシャドーイングに特化したサービスとのことですね。そもそもシャドーイングとはどのような学習法なのでしょう?
新井:簡単に説明すると、音声を聴きながら少し遅れて発話を真似するトレーニングです。最近ポピュラーになってきた学習法なので、英語学習に取り組んだことがある人の中にはとりあえずやってみた、という人もいるかもしれません。
――なるほど。「正しい発音」を学ぶためのものということですか?
新井:いえ、自分の発音を向上させるためのものではなく、「正しい音の変化」を知り、脳内にインプット・蓄積させていくものです。
――音の変化?
新井:文中で変化する単語の音のことです。例えば「and a〜」という文は「アンド ア」ではなく、「エナ」と発音する。これは明確にdの音が消え、nとaが連結しているわけです。他にも、「better」は日本語では「ベター」と言いますが、単語内にtが2つ重なると「フラップのt」という音の変化になるため、「ベラァ」(発音記号はbéṭɚと、ラ行寄りのtの音)というふうに変化します。シャドーイングを通して、そういった法則を感覚的に身に着けていくことができる。言い換えれば「正しく聴き取る」ためのトレーニングです。
――なるほど、自分が「正しく」聴き取れているかどうか、英語学習においてもあまり意識してこなかったかもしれません。
新井:もう少し詳しく知ってもらうために、リスニングの構造についてお話しますね。リスニングには「音声知覚」と「意味理解」の2つのステップがあります。音声知覚では、発話を音として聞いて自分が知っている単語かどうか、頭の中のデータベースと照らし合わせながら理解していきます。例えば「ベラー」という音を聞いて「better」だと認識する過程です。そして意味理解では、さらにそれを「より良い」だとか、文意に沿って解釈する、というようなイメージです。
シャドーイングはその「音声知覚」を鍛えることに特化したトレーニングです。なので、言ってしまえば英会話の実力を鍛えるものではありません。
――あれ、そうなんですか?
新井:そもそも英語が聞き取れないことの原因は、音声知覚の精度とスピード不足、意味理解の精度とスピード不足、知識データベースの不足、の3つに集約されるます。なので、これらの能力を並行して伸ばす必要があるんですが、特に日本人は「音声知覚の精度とスピード」が不足しています。これはプログリット創業から5年間、1万名以上のお客様の英語学習支援を行ってきた中で、定性的にも定量的にもわかったことです。
――どれか一つだけやっていてもリスニング力は向上しないということですね。中でも多くの日本人が「正しく聴き取る力」を持っていないという。
新井:普段日本語で話している時って、それぞれの音や単語をつぶさに聴き分ける、ということはしませんよね。意味を理解することにほぼ全ての脳内リソースを使っていると思います。
でも英語になった瞬間に相手がなんて言ったか、単語一つ一つを聴き分けようとしてしまいます。それは「音声知覚」に集中しすぎている状態なので、結果的に「意味理解」に割く脳内リソースが不足してしまいます。だから英語になってもこれとまったく同じ状況を脳内に作る必要がある。言語学的には「音声知覚の自動化」といいますが、これを実現するためのトレーニングがシャドーイングなんです。
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