文:赤井大祐(FINDERS編集部)
「空飛ぶ車」は21世紀を象徴する未来のアイコンとして、『ブレードランナー』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『スターウォーズ』など、様々なSF作品に登場してきた。地面から少しだけ浮いているタイプや、上空まで飛べるタイプなどさまざまだが、数百キロの鉄の塊にプロペラなどを使わずに浮力を与える未知の技術は、テクノロジーの無限の進化を人々に期待させた。
近年、そんな未来のアイコンもアメリカや中国を中心に少しずつではあるが実現されつつある。そして日本でも、空飛ぶ車へと一歩近づく、「空飛ぶバイク」の開発が進んでいる。
毎週1社ずつ、気になるスタートアップ企業や、そのサービスをザクッと紹介していく「スタートアップ・ディグ」。第7回は、そんな「空飛ぶバイク」で話題を呼ぶ、『A.L.I. Technologies』(以下ALIテクノロジーズ)を紹介する。
空飛ぶバイクが物流を変える?
ALIテクノロジーズは、「ドローン事業」「演算力シェアリング事業」そして「エアーモビリティ事業」の3つの事業を主に手掛ける。2016年に株式会社エアリアルラボとして創業し、2017年に小松周平氏が代表取締役に就任。同氏は、2007年にAIAA(米国航空宇宙学会)の最優秀論文賞を受賞した経験を持ち、東京大学大学院にて先端エネルギー工学専攻を修了している。
ここでは、「ドローン事業」と「エアーモビリティ事業」に話題を絞ってお届けしよう。
まずはなんと言っても、今年10月26日に富士スピードウェイにてお披露目会が行われた、『XTURISMO』。同社の「エアーモビリティ事業」にて開発・販売が行われているものだ。テレビやSNSで動画を見たという人も多いのではないだろうか。
2019年には東京モーターショーにてプロトタイプの展示をすでに行っていた同機だが、先日のお披露目会の日に、なんとレーシングモデルの受注を開始した。そして2025年には、一般向けモデルも発売する予定だという。航続時間は30〜40分。最高速度は時速80kmに達するという。本体重量300kgに加え、100kgまでの積載が可能となっているため、合計400kgもの重量を浮かせる。価格は税込み7700万円だ。
XTURISMOは、そのインパクトもさることながら、実はかなり実用的なマシンかもしれない。河川や湖、砂漠、湿地帯など足場の悪い場所でもスムーズに移動することができるため、災害支援などにも向いているという。さらに将来的には、輸送インフラや公共交通機関が整備されていない、中東やアフリカなどの地域の物流にかかるコストなどを削減する手段にもなりうる。ただ技術を形にしただけでなく、移動や輸送の新たなあり方を探る側面も併せ持っているわけだ。
ソフト、ハードの両面から取り組むドローン事業
ドローン事業では、主にドローンの産業利用を推し進めるサービスを展開している。例えば、同社が開発、提供を行うドローン向けプラットフォームシステム「C.O.S.M.O.S.」は、複数台のドローンの航空ルート、機体情報、オペレーター情報を管理しつつ、リアルタイムモニタリングなどを可能とする。今後社会実装が進むとされるドローンの物流利用などの際、複数台のドローンの確実な運用と周囲の安全確保などのため必要となってくるものだとういう。
他にも、インフラ点検や農業、測量、空撮などさまざまなニーズに対応するドローン操縦士の提供も。現在同社と契約する操縦士は100名を超えるとのことだ。
また、同社では大手企業と共同で自社のドローン開発を行っており、機体総重量が200g未満のため、航空法の規制対象外となる小型のレーシングドローンや、最大50kgの荷物を20km先まで運ぶことのできる重量物流ドローンの開発も行っているということだ。
ALIテクノロジーズは「エアーモビリティ社会」の実現を目指す、と代表の小松周平氏が語るように、ソフト、ハードの両面からドローン、そしてXTURISMOのようなモビリティの社会実装を目指しているようだ。元国土交通省事務次官の安富正文氏を特別アドバイザーに迎えるなど、制度面でのアップデートに臨む姿勢も伺える(むしろ日本においてはこちらが本丸とも言えそうだが)。
まずはXTURISMOがどのように社会に受け入れられていくのか。そして「エアーモビリティ社会」はどのように実現されうるのか、引き続き注目していきたい。