未だ紙中心の世界。デジタル化の旗はどこにいったのか?
あれから四半世紀。それでも役所の仕事は人間中心、紙中心の世界であり、デジタルデータもプリントアウトして各自が保管していることも多いだろう。下手をすれば、プリントにゴム印を捺していたり、こよりで綴じたりしているところもあるかもしれない。世の中はデジタル一色になりつつあるのに、ひとり役所だけが旧態依然とした仕事ぶりだったりする。それは、仕事の進め方をデジタルに合わせず、デジタルを仕事の進め方に合わせようとするところから生じる誤謬でもある。わら半紙にガリ版刷りをしていた頃の仕事の進め方をデジタル化したところで、成果は時短くらいなのである。
それでは役所が目指すところのデジタル化の成果とは何か。それは、地方自治の本旨である住民自治と団体自治がしっかりと発揮されたうえでの住民福祉の向上である。すなわち、住民が地方自治の主人公として主体的に意思決定に加われる仕組みとともに、役所が効率的な意思決定を行い、効果的な行政サービスを提供できる仕組みの構築、そうした明確なゴールを設定した上でのスタートでなければならない。Society5.0の理念を基本に、地域においても経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会の構築を目指していくことになる。
ディープラーニングによるAIの導入やRPA(Robotic Process Automation)の活用は、役所の仕事の進め方を大きく変えていく。とりあえず、住民に対するサービスの利便性を高めるとはどういうことかということについてイメージを提示してみよう。2021年9月29日の朝日新聞は「『書かない市役所窓口』始めます 本人確認→口頭で申請」と愛知県小牧市のスマート化の事例を報じた。小牧市は人口15万人。山下史守朗市長は47歳、3期目で脂の乗った市長である。その小牧市が、2022年2月から証明書の発行や住民異動(転出入や出生・婚姻・死亡など)の窓口で申請書類を書かずに手続きが行える『こまきスマート窓口』を導入するとしたのだ。
『こまきスマート窓口』では、免許証や健康保険証などで利用者の本人確認をしたうえで用件を聞き取り、窓口の職員が用件にあった申請書をシステム上で直接作成することになる。これまで役所の利用者は、必要とする証明書ごとにいちいち住所、氏名などを申請書に書き込む必要があった。これは「申請主義」や「書面主義」いう明治以来の行政ルールなのだが、そうした記入作業を強要されることなく、口頭で窓口の職員に直接申し出れば、職員が聞いた情報を端末に打ち込んで申請書を作成し、利用者は打ち出された申請書を確認して問題がなければサインをするだけで手続きを済ませることができるのである。職員による代筆の問題性をクリアしたうえで、利用者にとってはあの窓口でのイライラが軽減されるようになる。
しかも、引っ越しや婚姻などの住民異動をするときに同時に生じる国民健康保険や介護保険、障がい福祉などの各手続きでも「書かない」スマート窓口を導入することとしているが、全体を通じて、書かないということにより悪筆の手書き文字の判読ミスや書き誤りについての補正などにかかる職員の作業負担も軽くなるし、そのうえでシステムが必要な手続きを自動判定して窓口案内票を作成することで手続きに漏れがないようになり、利用者の負担も軽くなるのである。デジタルを活用して役所の効率化や住民福祉の向上など一石何鳥もの課題解決の成果につなげる。こうした取り組みを始める地方自治体も徐々に増えてきた。
政府はデジタル社会形成基本法等に基づき、9月にデジタル庁を発足させた。地方自治体においても、地方自治体情報システム標準化法などに基づいて、これからさらにAIやRPA等の導入によるスマート化、クラウド化など情報システムの標準化が進められていく。地方創生の時代に地方自治体には、作業を単にデジタルで補完するのではなく、仕事の進め方そのものを成果がでるようにデジタルに合わせて見直すというデジタル・トランスフォーメーションが求められているのである。