CULTURE | 2021/11/03

海上に浮かぶ牧場、オフィス、マンション!?海面上昇対策から生まれた「浮かぶオランダ」の世界【連載】オランダ発スロージャーナリズム(38)

筆者が撮影した海の上の牧場「フローティングファーム」
今年の夏も、地球上至るところで自然災害が猛威を振るいました。米国...

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筆者が撮影した海の上の牧場「フローティングファーム」

今年の夏も、地球上至るところで自然災害が猛威を振るいました。米国の西部の山火事は手が付けられなくなり、煙霧は国内の広範囲を覆ったそうです。ギリシャやトルコ、スペイン、イタリアなどの欧州南部でも、山火事が頻発した一方、ドイツ、ベルギー、オランダそれぞれの国境付近では、異常に長引く雨が原因で洪水が起きました。中国でも大規模な洪水がありました。アフリカと中南米、中東では干ばつが長期化の兆しを見せており、「いずれ食糧不足になるのでは?」と言われています。

海面上昇もこのような異常気象がもたらす甚大な自然災害の一つ。温暖化により、グリーンランド、南極、北極などの氷河がものすごい勢いで溶け出しており、世界各地で海面上昇は現実のものになっています。アメリカのマイアミでは海辺では潮が引かなくなってきているエリアが出てきているそうです。

海面上昇が世界で最も現実的な危機として差し迫っているのが、オセアニアにあり、9つの島で構成されているツバル。独立国としては人口が世界で2番目に少ない国で、元々海抜が最高点でも5mと低いので、すでに20年以上前から海面上昇によって国が水没してしまいかねないと言われており、実際には、オーストラリアやニュージーランドへの難民申請がなされていたりします。

筆者の住むオランダも国土の1/4は海抜0m以下。干拓をして国土を作ってきた歴史から、「世界は神が造ったが、オランダはオランダ人が造った」と言われる所以なのですが、海面上昇は全く他人事ではありません。この国ではなんと「建物を海上に浮かべる実験」が次々進んでいるんです。

吉田和充(ヨシダ カズミツ)

ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director

1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/

海の上の牧場、フローティングファーム

オランダの国土は狭いながらも、農業輸出額が世界第2位。国中に畑や牧場が広がっています。チューリップなどの花の栽培も多いですし、チーズの国とも言われています。しかし、その広大な牧場が海面上昇で沈んでしまったら大変です。ということで、海上に牧場を造ってしまったプロジェクトがこちら。ヨーロッパの海の玄関口でオランダの第2の都市、ロッテルダムにあります「フローティングファーム」。

筆者撮影

単に海に浮かんでいるだけではなく、地産地消の推進、家畜(乳牛)の餌を都市から出るオーガニックウェイスト(いわゆる生ゴミ)で賄えないかを検討、そもそも海上で牧場を運営できるのか? などなどの、実験的な要素が詰まったプロジェクトです。牧場の隣には海上太陽光パネルが設置されており、使用する電気はすべて再生可能エネルギーから賄われています。

フローティングファームで搾った牛乳

海の上の住宅、Schoonschip

いや、ちょっと待て。牧場が海に沈むのなら、もっとその前に沈んだら困るものがあるだろう、というもっともなご指摘が聞こえてきそうなので、次にご紹介するのが、こちらのフローティングハウス「Schoonschip」。合計60戸のもはや住宅街は、エネルギーのオフグリットも目指すべく、文字通り海上に浮いております。

公式サイトよりキャプチャ

こちらはアムステルダムの北側に位置しておりまして、元々は、2008年に世界を襲った金融危機がきっかけ。当時、市内では多くの建物が空っぽになったにもかかわらず、住宅価格の高騰が収まらず人々は家を持てなくなってしまったのです。こうしたミスマッチを解消するために、自分たちで事態を打開できないか?と同じ志を持つ仲間が集まって作ったのが、この海上住宅。TV局のプロデューサーが建築家に声をかけたところから始まりました。

この住宅街はかなり環境に配慮したサステイナブル住宅でもあります。太陽光発電パネルつきの屋根と、屋根の断熱材を利用したヒートポンプでエネルギーを生産しています。太陽光で電気を作りそれをバッテリーに蓄え、そのバッテリーは近隣をつなぐネットワークとして、近隣の人々と送電網を共有しています。いわば、個々が消費者でもあり生産者でもあるこのネットワークは、常に十分なエネルギーを提供できるほど強力です。

屋根にはたくさんの植物があり、屋根に降った雨水によって、これらの植物は豊かに育っていきます。水の上にあってもとても緑が多い住宅街なのです。加えて、木、藁、麻など、できるだけ再生可能なバイオ素材、自然界に還るものを住宅に使用することで、CO2排出量を最小限に抑えています。

公式サイトよりキャプチャ

そして、運河の上に浮いているにも関わらず、地上の住宅以上に社会的持続性についても考えられています。このプロジェクトグループは、皆の知識、才能、時間、そしてお金を使って一緒にプロジェクトに取り組んだことで、コミュニティの意識が高まり、グループ内のソーシャルキャピタルも非常に高いというのです。互いに協力し合い、互いに面倒を見ようとする強力な社会的ネットワークになっているとのこと。

筆者もこの住宅の中に入れてもらったことがあるのですが、中に入ると「水に浮いている」ということは全く忘れてしまうほど安定していました。ただ、住人が言うには、家の中でバランスが均等になるように家具の配置を決めたりしているようです。時に、屋内重量のバランスが偏ったりすると、シャワーが流れる水の向きが変わったり、扉の噛み合わせがズレたりするようです。

このプロジェクト自体、各国の海面上昇を見越して、既にグローバルで展開が計画されているとのこと。近い将来、皆さんも水の上に住むことになるかもしれません。

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