註:記事公開当初、「Xbox Cloud Gaming」について850円で利用できる旨の内容を記載しておりましたが、正しくは月額1100円のサービス「Xbox Game Pass Utimate」への加入が必要であったため、情報を修正いたしました。申し訳ございませんでした。
ゲーム産業における三大プラットフォーマーといえば、任天堂、SIE(以下、ソニー)、Microsoftを置いて他にないだろう。
しかしその三社の中で、唯一アメリカからやって来たMicrosoftのXboxシリーズは、日本国内において低い評価を受けてきたことは否定できない。事実、2019年のCESAゲーム白書の中にPlayStation 4、Wii Uと並んでXbox Oneは記載さえなかった。
ところが近年、Microsoftは驚くべき復活を遂げている。Xbox Series X/Sという最高水準の新たなゲームハード、魅力的な独占ゲームソフトに加え、かつてない充実度を誇るゲームのサブスク「Xbox Game Pass」の配信に、更にそのサブスクをクラウドによってどこでも楽しめるようになる「Project xCloud」を立て続けに発表した。
Microsoftは従来ゲーム企業の基本戦略である高性能なハード、魅力的なソフトという「二本柱」に、さらにサービスという「三本目の柱」を加えることにより、任天堂やソニーなどライバルに対抗するだけでなく、5年後には新興国という未開のマーケットを開拓することでゲーム業界そのものを変革するかもしれない。
今回はそのようなMicrosoftが起こそうとする変革の兆しについて論じたい。
Jini
ゲームジャーナリスト
はてなブログ「ゲーマー日日新聞」やnote「ゲームゼミ」を中心に、カルチャー視点からビデオゲームを読み解く批評を展開。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」準レギュラー、2020年5月に著書『好きなものを「推す」だけ。』(KADOKAWA)を上梓。
何故Xbox OneやWiiUは奮わなかったのか?
日本でこそ過小評価されがちなXboxだが、もともとXboxブランドがPlayStationや任天堂ハードに劣っていたわけではない。
Xboxハードは常に価格と性能においてPlayStationに見落とらなかったし、『Halo』シリーズや『Gears of War』シリーズもゲーム業界全体に大きなイノベーションを起こした傑作である。Xbox 360は世界で約8600万台を売り上げるなど、この時点で任天堂やソニーと並ぶだけの実績を達成していたのである(Wiiは約1億台、PS3は約8700万台)。
Xboxを代表する『Halo』シリーズ最新作オフィシャルトレイラー
それでもXbox 360後期からXbox Oneの世代、つまり2010年代のMicrosoftは決定打に欠けていた。理由はいくつか考えられるが、『Halo』シリーズを構築したBungieや『Gears of War』を作ったEpic GameなどXboxをソフト面から支えたクリエイターたちが、相次いで独立したことが理由の一つに考えられる。各シリーズの開発、一部スタッフはは343 industriesなど他の企業に引き継がれ、そうして開発された新作はそれぞれ売上と評価を得たものの、決定打となりえるほどではなかった。
脚注:Bungieの成功作『Halo 3』の売上は約1450万本、343 industriesの最新作『Halo 5』の売上は約1000万本以上。
ただXbox Oneの経験は、Microsoftにとって自分たちが今まさに戦場とするコンソールゲームのビジネスモデルの限界について考える上で、重要な機会となったのかもしれない。
コンソールゲームは、伝統的に最初に各ハードメーカーが安価かつ高性能なハードを開発し、後は自社(及び関連企業)で開発した人気の独占タイトルをセットにしてハードを普及させる。そのようにして開墾した自分たちのプラットフォームに他社のゲームを販売させ、その売上の一部を徴収してソフトとハードの開発費を回収する……。このような封建社会のような囲い込みが基本の戦略であった。
こうしたプラットフォームビジネスはハイリターンだが、同時にハイリスクでもある。何故なら最初にハードが普及しなければ、大きなコストをかけてソフトを用意しても売れず、従ってサードの展開も難しくなり、コストの回収もままならなくなる……つまりハードとソフト、どちらかがコケるだけで経営が一気に苦しくなるからだ。
事実MicrosoftはXbox One時代、BungieやEpic Gamesといったカリスマの独立でやや苦しい経験を味わった。一方同時期の任天堂「WiiU」もまた、期待されていた(3D)マリオやゼルダ新作の展開が間に合わず、世界でも約1300万台とあまり奮わなかったなど、その「リスク」はコンソールゲームの宿命のように思われた。
業界を震撼させたゲームサブスク「Xbox Game Pass」
2020年、Microsoftは次世代ゲームプラットフォームのため、スペックとコストパフォーマンスに応じて2パターン用意した画期的なゲームハード「Xbox Series X/S」に、『Halo』シリーズ最新作などのゲームソフトに加え、「第三の矢」ともいうべきゲームサービス「Xbox Game Pass」の日本サービスを開始した(米国では2017年にスタート)。
ゲームパスは一言で言えばゲームのサブスクリプションだ。同様のサービスは既にいくつか存在するが、中でもゲームパスは様々な点でバリューを持ち、今ではXboxを利用しないユーザーの間でも話題となりつつある。ではどのようなバリューがあるのか、以下の3点から説明しよう。
①ラインナップが広い。
えてしてサブスクサービスといえば「遊び放題というけど、そもそも遊びたいゲームがない」なんてことがありがちだ。しかしゲームパスには現状400本以上のゲームが登録され、しかもそれらは
・ 『Halo』『Gears of War』『Forza』など、Microsoftや同社関連のシリーズが発売当日から遊べるうえに、同社が買収したBethesdaの『Fallout』シリーズや『The Elder Scroll』シリーズも含まれる。
・サードも充実しており、アメリカのEA(『Battlefield』『FIFA』シリーズ)のサブスクが丸ごと入ってる上に、日本からもスクエニ(『 ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』『NieR:Automata』)、カプコン(『BIOHAZARD 7 resident evil』)、セガ(『龍が如く7 光と闇の行方 インターナショナル』)なども。
このように、Xbox Game Passは広く、充実したラインナップを揃えている。
②安い。
原則、数あるエンタメの中でゲームのパッケージは最も高価であり、漫画が1冊400円、映画が1本2000円で楽しめる時代において、ゲームは1本8000円からが基本だ(もちろん長く楽しめるし、最新のテクノロジーが費やされているというのもあるが)。当然、そのサブスクであるゲームパスも月々それなりに高いのだろうと予想できる。
しかしゲームパスは現状、1カ月あたり850円で8割型のゲームに、月額1100円の「Xbox Game Pass Ultimate」に加入すれば、すべてのゲームにアクセス可能だ。しかも2021年10月25日現在、初月に限り100円で楽しむことができる。仮にゲームパスに加入して、たった1本しか遊びたいゲームがなかったとしても、その1本が8500円する大作なら同じ金額で10か月分も楽しめるのである。Netflixですら最低990円、HD画質を楽しもうと思えば1490円必要なことを思えば、あまりにも安い。
③どこでも楽しめる。
ここまで挙げた「安くて、しかも色々楽しめる」というゲームのサブスクリプションは、ソニーの「PS Now」や任天堂の「Nintendo Switch Online + 追加パック」など、既に他社からも同様の試みは展開されている。
それら同業他社と比較してもなお、ゲームパスの最も評価すべき点、ゲーム業界を革命しうる点、それこそが「どこでも楽しめる」という点だ。
先ほど話したように、コンソールゲームとは高性能なハードと、魅力的な独占ソフトをセットにして、ユーザーを囲い込むことによる、一種の封建制度が基本戦略にある。だからハードがどんなゲームも遊べるようになったり、独占ソフトが他ハードで出ること……例えば、マリオの新作がPlayStationでも発売される、またその逆は、まず起きない。自分たちで囲い込んだ柵を壊してしまうことになるからだ。
ところが、「ゲームパス」はサービス開始時点から自分たちのXboxは無論、PCまでもがサービス対象となっていた。その上、「ゲームパス」は「Xbox Cloud Gaming(旧Project xCloud)」なるMicrosoftのクラウド計画を活用することで、スマートフォンやタブレットでもアクセスできるようになった。
よって、Xbox Game Passという名前にも関わらず、Xboxを持っていない人でも……そしてほとんどの人が持っているはずのスマホで楽しめてしまう。それもたったの月1100円で、だ。金銭に余裕のない学生、あるいはゲームに興味のない社会人でも、スマホと1100円があれば、世界中のゲーム企業が開発したハイエンドの大作ゲームからアバンギャルドなインディーゲームまで、全て、今この瞬間から楽しむことができる(現在ベータ版)。
かくしてMicrosoftはゲームパスとクラウド技術を融合させ「Xboxを持っていないユーザーでも、Xboxゲームを楽しめる」状況を作り始めている。ゲーム業界の慣習上、これは信じがたいほどの、イレギュラー中のイレギュラーだ。
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