文:角谷剛
IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)は今年8月に発表した最新報告書で、二酸化炭素などの温室効果ガスを大幅に減少させない限り、世界の平均気温が1.5度以上、上昇すると予想した。
世界各国がさまざまな施策に取り組む中、大気中の二酸化炭素を吸収する技術が地球温暖化対策の「最後の切り札」として期待されている。
動力は近隣の地熱発電所から供給
スイスに拠点を置く二酸化炭素回収専門のスタートアップ企業「Climeworks」は9月8日、大気中から二酸化炭素を直接吸収し、地下に貯蔵する世界最大の施設「Orca」をアイスランドで稼働開始すると発表した。アイスランドの炭素処理会社「Carbfix」とパートナーシップを組み、運営する。
Orcaは大型コンテナ8基で構成され、独自のフィルターとファンを使用し、大気中から二酸化炭素を吸収。そしてその二酸化炭素は水と混ぜられ、地中深くに貯蔵され、その後はゆっくりと時間をかけて岩石に変わるという。Orcaの動力は近隣の地熱発電所から供給される再生可能エネルギーを利用する。
Orcaでは年間最大4000トンの二酸化炭素を吸収できるとしている。国際エネルギー機関(IEA)によれば、昨年の世界全体の二酸化炭素排出量は315億トンだったとのことで、比較すると微々たる量と言わざるを得ないだろう。ただ科学者たちは、大気中から二酸化炭素を直接吸収する技術は、地球温暖化を抑制する足がかりになるだろうと考えているという。
さらに巨大な施設が建設中
この技術はまだ始まったばかりで、現時点での費用対効果は極めて小さい。しかし、二酸化炭素削減を目指す企業や個人が増加し、この技術を採用し規模が拡大することで、全体のコストが下がると期待されている。
IEAによれば、Orcaと同様の施設が現在、世界中で15カ所稼働しており、年間9000トン以上の二酸化炭素を吸収しているという。Orcaは現在のところ、その中でも世界最大規模であるが、その座は長く続かないと見られている。米国の石油会社「Occidental」は現在、年間100万トンの二酸化炭素を大気から吸収する工場をテキサスに建設中である。
巨大な相手に小さな存在が諦めずに抵抗することを「蟷螂の斧」と呼ぶ。ますます深刻化する地球温暖化を食い止めるためには、二酸化炭素の排出量を減らすだけでは足りない。二酸化炭素を大気中から回収する技術は、人類にとっての斧になれるだろうか。