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ハーバード大教授のエズラ・ヴォーゲルは1979年に『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を出版し(バブル崩壊後の2004年に新版として復刊)、日米でベストセラーになっている。アメリカ人読者に向けて日本を説明するための書籍だが、もちろん日本人から見ても示唆に満ちている。
高須正和
Nico-Tech Shenzhen Co-Founder / スイッチサイエンス Global Business Development
テクノロジー愛好家を中心に中国広東省の深圳でNico-Tech Shenzhenコミュニティを立ち上げ(2014年)。以後、経済研究者・投資家・起業家、そして中国側のインキュベータなどが参加する、複数の専門性が共同して問題を解くコミュニティとして活動している。
早稲田ビジネススクール「深圳の産業集積とマスイノベーション」担当非常勤講師。
著書に「メイカーズのエコシステム」(2016年)訳書に「ハードウェアハッカー」(2018年)
共著に「東アジアのイノベーション」(2019年)など
Twitter:@tks
描かれる病んだ大国アメリカと新興国日本
本書で描かれるアメリカは国内で
・労働者と経営陣の争い
・企業同士のシェア争い
・既得権益のせいで設備やプロセスが改善されない非効率
などが蔓延し、経営者と労働者の差が開きすぎたうえにどちらも自分の利益しか考えない、ギスギスした病んだ大国だ。
一方で当時の日本は戦後の高度成長期を終えて教育水準が高く、労使が協調し、企業同士や企業と政府がよく連携して「競争よりもシェアを」望んで社会をアップデートしていく新興国だ。根回しで時間がかかるし、意思決定者が多すぎるので何事も時間がかかるが、全員が納得しているので結局は速く、個々の競争にかまけないぶん長期的な計画がたてられる。
ヴォーゲルの分析の面白さは、日本の成功の中に「アメリカと同じようにやったから成功した」という部分でなく、アメリカに無いものをきちんと見つけ出そうとしたことだ。描かれる美点は今では欠点に見えるものも多いが、物事を歪んで捉えているようなものは少ない。1979年の書籍を、バブル崩壊後の2004年に新版として復刊した際も、30年経っても取りあげた多くの点は変わらないものだった。
いつの時代も「日本は終わった」「日本スゴイ」論はどちらも大人気だが、時事的なテーマを取りあげながら30年後も耐えうる書籍をまとめたのは見事なものだ。
構造はそのままでも、経済は予測と大きく異なった
一方で、2004年時点でウォーゲルが抱いていた「日本はすぐ復活して、アメリカよりも成長するだろう」という予測は大外れになった。
文中の「最近の20年間、日本は一連のショック、危機に見舞われ、また成長率たった5%」「今後10年間に日本の経済成長率は、アメリカのそれを上回る毎年4-7%を維持するだろう」と言ったあたりの予測は大外れになった。失われた20年は30年になり、ここ20年の成長率平均は1-2%といったところ。平均3%超のアメリカよりもさらに悪く、両国の経済格差はますます大きくなってきている。リーマンショックからの回復期や近年の株高など、悪い材料ばかりではないが、2004年当時よりも先行きは暗いものになっている。
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