EVENT | 2023/08/07

無印良品の「大麻(ヘンプ)」で作ったシャツやブラウスが好調。法改正を前に「産業用大麻」の活用が続くワケ

【連載】大麻で町おこし?大麻博物館のとちぎ創生奮闘記(9)
連載9回目です。世界各地では近年、産業用大麻(※)の研究・...

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【連載】大麻で町おこし?大麻博物館のとちぎ創生奮闘記(9)

連載9回目です。世界各地では近年、産業用大麻(※)の研究・開発が活発になっています。中でも繊維の利用はパタゴニア、リーバイスといった有名なグローバルブランドが環境負荷の低減という観点から、積極的に商品化する挑戦を続けています。

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※産業用大麻:別名ヘンプ。向精神作用をもたらす成分THCの含有が低い品種を指す

実はこの潮流は日本にも大きな影響を与えています。住宅、家具、衣料品、雑貨、食品などを扱う「無印良品」を展開する会社、良品計画は今年2023年から、ヘンプを用いたアパレルラインを大きく展開しているのです。このプロジェクトの中心人物である、産地開発部の樋口直人さんに話を伺いました。

樋口直人

株式会社良品計画産地開発部

1997年入社、店長、エリアマネージャー、海外事業部を経て、2012年から衣服・雑貨部で商品開発に携わり、2022年から産地開発部(現職)。

大麻博物館

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日本人の衣食住を支えてきた「農作物としての大麻」に関する私設の小さな博物館。2001年栃木県那須に開館し、2020年一般社団法人化。資料や遺物の収集、様々な形での情報発信を行うほか、各地で講演、麻糸産み後継者養成講座などのワークショップを開催している。著作に「日本人のための大麻の教科書」(イーストプレス)「大麻という農作物 日本人の営みを支えてきた植物とその危機」「麻の葉模様 なぜ、このデザインは、八〇〇年もの間、日本人の感性に訴え続けているのか?」。日本民俗学会員。
https://twitter.com/taimahak
https://www.facebook.com/taimamuseum/
https://www.instagram.com/taima_cannabis_museum

アジアでも多く栽培されているヘンプはより環境負荷を抑えられる

無印良品が展開するヘンプ製品の一部。写真左はメンズの「ヘンプ洗いざらしオープンカラー半袖シャツ」、写真右はレディースの「ヘンプ洗いざらし七分袖チュニック」

大麻博物館:大麻という植物、素材に着目したきっかけを教えてください。

樋口:私が所属する産地開発部は、その国や地域では当たり前のように使われているが世の中ではまだあまり知られていないような素材を見つけ、サステイナブルとビジネスの両方の視点で商品化し、拡大していくことで産業化につなげ、その地域やコミュニティに貢献していく、というミッションを持っています。元々無印良品は創業した1980年代から、ずっと上記のようなグローカル(※)視点での商品や素材の開発の取り組みを続けてきています。サステイナブルという観点が重要な時代になっている中で、さらにこのような取り組みを強化しています。そういった中で出会ったのが素材が、例えばヘンプであり、カポックです。

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※グローカル:グローバルとローカルを合わせた造語。地域性を考慮しながら、地球規模の視点で考え、行動することを表す

また無印良品は長年、リネン(※)を使っています。製品表示上の「麻」ですね。アパレルだけでなくファブリックもリネン(※)を使っており、他社と比較しても全体に占めるリネン製品の売上比率が高いです。リネンもヘンプと同様、成長が早く、コットンのように大量の水を必要とせず、サステイナブルな素材と言えます。

無印良品がヘンプに着目した大きな理由の一つは、栽培されている場所です。リネンの主な原産地はフランスをはじめとしたヨーロッパなのですが、それを紡績するために中国やアジア諸国の工場に輸送する必要があります。しかし、ヘンプはアジアでも栽培できます。私たちの製品は中国・黒竜江省(※)のヘンプを用いていますが、紡績や縫製工場までの移動距離が短く、輸送に掛けるコスト、エネルギー、時間を削減できます。コロナ禍の影響でなかなか訪問できませんでしたが、つい先日、ヘンプの畑や紡績、スカッチングといった繊維にする工程の視察に行ってきました。

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※黒竜江省:中国の最も北東部に位置し、省都はハルビン市。中国は嗜好用途、医療用途の大麻を厳格に規制する一方、ヘンプ(産業用大麻)の栽培や利用は積極的に推進している

大麻博物館:無印良品さんが「産業用大麻」ではなく「ヘンプ」という表記で統一されているのは、どんな意図があるのでしょうか?

樋口:洗濯表示では「植物繊維(ヘンプ)」、社内では「ヘンプ」と表記しています。海外ではヘンプ=サステイナブルという認識が定着している地域もあるので「さすが無印良品」という評価をいただくこともあります。

売れ行きは上々。さらにラインナップを拡大したい

大麻博物館:今回のプロジェクトについて、その経緯や反響などを教えてください。

樋口:栽培契約をスタートしたのは2021年からで、10か所の農場と契約し、8000ha(2400万坪、東京ドーム1600個分)の土地で栽培を行っています。21年の春夏シーズンから一部店舗でヘンプ製品の販売を開始しましたが、23年春夏に商品ラインナップを拡大し、本格的なプロモーションも含めた形でスタートしました。

女性向けは七分袖ブラウス、男性向けは半袖シャツが人気です。売上も評判も良いですし、本部へのネガティブな問い合わせも聞きません。

リネンとヘンプは夏向けの天然素材として同じ売り場で展開しているのですが、多くのお客さまは「リネンかヘンプか」では商品を選んでいないと思います。素材の風合いや肌触りなど、素材自体の良さを総合的に踏まえて気に入った方が買っているのではないでしょうか。

都内店舗で展開されているヘンプ製品(筆者撮影)

一方、店頭でお客様に質問された際に、きちんと答えられることも重要です。そのため、店舗スタッフ向けの解説資料を作り、適宜レクチャーもしています。産業用ヘンプと、いわゆるマリファナとは品種が異なり、産業用ヘンプには酩酊する成分がほぼ入っていない点、先ほど話したサステナビリティに関する点、また日本でも昔から繊維として利用してきた歴史がある点などを紹介しています。

大麻博物館:日本でも、ようやく大麻取締法の改正が検討されています。GX(グリーントランスフォーメーション)の文脈で、ヘンプの利用についても規制緩和されそうな状況です。今後の展望を教えてください。

樋口:ヘンプについては商品ラインナップの充実を含めて、今後も継続的に展開していくつもりです。リネン製品の取り扱いもこれまで通り行う予定です。ヘンプ活用の現状の課題はコスト面です。リネンの工程と比較すると、まだ一部手作業で行っている工程もあるので効率がリネンより若干悪い。しかし、何をどう改善すれば良いかは見えているので、ゆくゆくはリネンと同程度のコストになっていくのではと考えています。

また、リネン=ヨーロッパ、ヘンプ=アジアというイメージがあります。私たちはアジアに多くの店舗がありますし、無印良品とヘンプは親和性も高いと感じています。現在はヘンプの繊維だけを用いていますが、私たちは食品や住宅も扱っていますので、ヘンプシード(麻の実)やヘンプシードオイルを使った食品、茎を利用したヘンプハウスなども、機会があればチャレンジしていきたいと考えています。法律やコストといった条件がクリアできるなら、国産のヘンプも可能性はあると思っています。


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