CULTURE | 2023/06/13

最高傾斜37度の「世界一キツい400m走」の女子部門に参加してぶっ倒れそうになった話

Jason Halayko / Red Bull Content Pool
文:舩岡花奈(FINDERS編集部)写真提...

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Jason Halayko / Red Bull Content Pool

文:舩岡花奈(FINDERS編集部)写真提供:Jason Halayko / Red Bull Content Pool/一部写真FINDERS編集部

レッドブル・ジャパンが主催するタイムレース「Red Bull 400」が札幌・大倉山ジャンプ競技場で5月20日に開催されました。

本イベントは、国際大会にも使用される全長400メートルのスキージャンプ台を駆け上がるタイムレースです。スタートから100メートルを過ぎると傾斜30度、K点を過ぎると最高傾斜の37度となり、立ったままでは走れないほどの急勾配を駆け上がり、タイムを競います。

実はこのレース、「世界で最も過酷な400m走」とも言われるイベントだそうです。今回はそんな「世界で最も過酷な400m走」にFINDERS編集部員の舩岡が実際に参加してきました。どのぐらいキツい競技なのか、そしてそんな競技に自ら振るって出場する参加者の声をお届けします!

FINDERS編集部 舩岡。このあと地獄が待ってるとは知らずにスタート地点で余裕こいてる一枚(撮影:FINDERS編集部)

フェス感覚で盛り上がる”最も過酷な400m走”

競技種目は個人戦となる個人フルディスタンス(男女)と400メートルを4人1チームでバトンを繋ぐリレー(学生/男性のみ/男女混合)に分かれて行われます。それぞれ予選を勝ち抜くと決勝に駒を進めることができる形式ですね。

会場にはDJブースを積んだイベントカーやノリノリで会場を盛り上げるMCも登場。思ったよりもオーディエンスが多かったり、出場選手に配布されるお揃いのTシャツによって、スポーツの大会というよりフェスのようなムードに近い印象でした。

会場を盛り上げるMC(撮影:FINDERS編集部)

会場の様子(撮影:FINDERS編集部)

さてもうすぐレースもスタート。「少しキツい坂道」をサクッと駆け上がるだけだろうとお祭りムードに浮かれながら、いざコースに立ってみると”ほぼ崖”という印象。傾斜37度とは聞いていましたが、どのぐらいの角度なのか想像できていませんでした。下から見上げてもゴールが見えないのです。

陸上競技の400メートルが“究極の無酸素運動”と言われるほど、400メートルを走るだけでもキツい条件にも関わらず、”崖”を走るとなるとさらに過酷になること間違いなし。コース脇沿いには”もしも”に備えた救急救命士学科の専門学生がゴールまでズラリと並び、このあたりから薄っすらと「大変なレースに参加してしまったかもしれない…」と舩岡も気づくのでした。

開会式も終わり、選手たちの緊張も高まる中、第1レースとなる個人フルディスタンス男子予選から「世界で最も過酷な400m走」が幕を開けました。

個人フルディスタンス男子予選では、10代前半から、なんと70代の方まで、総勢660名の選手が年代ごと11レースに分かれて予選を行い、決勝に駒を進める29名が決められます。スタート直前には、これから過酷なレースが始まるという緊張感と決勝に進むぞという気合から走らないこちら側まで思わず息をのんでしまうような空気感に。

Jason Halayko / Red Bull Content Pool

レースでは上位入賞を狙うガチ勢もいれば、歓声や会場の雰囲気を楽しみながらマイペースに走る人の姿も見られました。競技としてスコアを狙いながら自分自身の限界に挑戦することも、純粋に”非日常的なイベント”としても楽しめるのがこのイベントの魅力かもしれません。

「キツい」を超えて味わう達成感からレース直後には来年も.....

Jason Halayko / Red Bull Content Pool

Jason Halayko / Red Bull Content Pool

個人フルディスタンス男子予選が終わると、いよいよ私、舩岡の出番である女子の予選に。

スタート前の舩岡はというと、男子予選の空気感に圧倒され、ただでさえ緊張しているなか、途中で脚がつってリタイアしないか、傾斜から転げ落ちないかなど不安で頭がいっぱいに。周りの選手たちはリラックスした表情を見せている方が多く、心臓バクバクでレースを楽しむ余裕がない私からすると羨ましいばかりでした。

そうして、MCのカウントダウンとともに、はるか彼方にそびえるゴールに向かって駆け上がる恐怖のレースがスタート!

序盤は緩やかなコースということもあり「あれ?案外いけるぞ」と思った矢先、中盤のK点に差し掛かると傾斜は37度となり二足走行が辛い状態に。このあたりから四つん這いになり人口芝の上にかけられた格子状の網を手で掴んでよじ登る。400メートル走じゃなくてほとんど登山といった様相。この時点ですでに、脚は重くて上がらない、息切れで呼吸するのがやっと。序盤の余裕さはどこかに消え、精神的にはもうリタイア寸前……。

早くリタイアしたいと思いつつ「せめて、残りの距離が分かれば気合で乗り越えられる!」と藁にもすがる思いでゴール位置を確認しようとすれば、あまりの傾斜でゴールが見えず、ほぼ心が折れかけるという一番キツい展開に泣きそうになりました。コース横で観戦している方の「頑張れあと少し!」「ナイスファイト!」という声援に応えるべく、気持ちを立て直しラストスパートに向けてひたすらよじ登ります。

よじ登る出場者たち Jason Halayko / Red Bull Content Pool

踏み切り台に差し掛かればレースもいよいよ終盤。早くこのキツさから解放されたい一心で気合をいれ、残された体力を振り絞りなんとかゴール……!!体力を使い果たした舩岡は、ゴールした瞬間思わずゴール脇のマットに倒れこみました。タイムは11分6秒でトップのタイムは5分22秒と大きく離され50人中45位でゴール。完走できた喜びよりも傾斜からの解放となんとか登り切れた安心感からしばらく放心状態。

体力を使い果たしゴール脇のマットに倒れ込む(撮影:FINDERS編集部)

しんどかった……(撮影:FINDERS編集部)

レース直後はとにかく息を整えるのに必死で、「やっと終わった」という思いしかなかったのが、徐々に「走りきれた」という心地よい達成感へと変わってくるから不思議です。周りの参加者の方もみなさんやりきった表情を浮かべている様子でした。なかには、初対面同士の参加者で円陣を組み、ゴールしたことを称え合い「おつかれ!」「ナイスラン、きつかったね」など同じ苦しみを味わったもの同士だからこそ分かち合える「ゴールの喜び」を共有していました。ハードなイベントだからこその素敵な光景ですね!

レースの後はレッドブルで乾杯(撮影:FINDERS編集部)

レース後の疲れ切った身体に染み渡るレッドブル(撮影:FINDERS編集部)

参加者の方に走りきった感想を伺うと「レースは本当にしんどかったけど、この達成感が本当に気持ちいい」「また来年も参加したい」などレース直後からすでに来年を見据えて力強いコメントが。あれだけしんどいレースを終えたばかりで、また来年も挑戦したいと意気込む様子に驚きつつ、たしかにレースに参加した者同士で分かち合える喜び、イベント自体のお祭りのような楽しい雰囲気など普段感じることのない刺激や達成感を求めてしまう感覚は共感できます。

その後、リレーと男女個人戦の決勝戦が行われ会場の盛り上がりはピークを迎え、各種目の1位が出揃いました。

男子個人の部で驚くべき早さでぶっちぎりの1位となった田中さんはなんと3度目(!)の優勝。女子個人の部で優勝を勝ち取った戸井田さんも初出場とのことでお二人に感想を伺いました。

左から戸井田さん、田中さん(撮影:FINDERS編集部)

「今回で3回目の参加になりますが、もちろん3連覇を狙って参加しました。普段は自衛隊体育学校の学生としてクロスカントリースキーの競技をしています。優勝するために走り込みを強化するといった対策も行ってきましたので、結果に繋がってホッとしています。『この競技でしかジャンプ台を逆走することってできないよな』と気づき前々回の大会に参加してから、毎年楽しみにしてしまう不思議な刺激があるような気がします」(田中さん)

「初挑戦で優勝することができて嬉しいです。私は大学の陸上部で800メートル競技をしているのですが、昨年、大学の先輩が参加しているのを見て面白そう!と思い挑戦しました。来週に陸上部の大会を控えているのですが、勢いで参加しちゃいました(笑)。レース中はしんどいよりも楽しいという思いが強かったので、来年も機会があれば挑戦したいなと思います!」(戸井田さん)

ラストスパートをかける戸井田さん Jason Halayko / Red Bull Content Pool

会場には、ランニングシューズメーカーのONやモータースポーツメーカーのホンダ・レーシングなど協賛企業のブースや北海道名物である牡蠣やザンギが味わえるキッチンカー、北海道ハイテクノロジー専門学校の学生によるマッサージブースなどが設けられていました。

レース以外の時間も楽しめるフェスのような雰囲気で、観戦目的でも楽しめるイベントに。

ジャンプ台を駆け上がった先に待っていた達成感、頂上から見下ろす札幌の景色、参加者同士で称え合う様子、途中リタイアしたいと嘆くほどキツいと思いながらも「また来年も参加したい」と思わせてくれた「RedBull400」は、イベント参加前、東京のオフィスからモニター越しに想像していたものとは大きく違うものでした。現地に赴き、実際に参加するからこそ感じた「想像以上の体験」の数々に、多くの人がハマってしまうのも納得です。