株式会社アプデエナジーの園田敏明氏(ファウンダー 取締役会長/写真左)と王本智久氏(ファウンダー 代表取締役社長/写真右)
提供:株式会社アプデエナジー
谷畑 英吾
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前滋賀県湖南市長。前全国市長会相談役。京都大学大学院法学研究科修士課程修了、修士(法学)。滋賀県職員から36歳で旧甲西町長、38歳で合併後の初代湖南市長(4期)。湖南市の発達支援システムがそのまま発達障害者支援法に。多文化共生のまちづくりや地域自然エネルギーを地域固有の資源とする条例を制定。糸賀一雄の発達保障の思想を社会・経済・環境に実装する取組で令和2年度SDGs未来都市に選定。
日本の「経済安全保障」「脱炭素」のどちらも大きく妨げるのに放置される資源問題
立命館大学びわこ・くさつキャンパスのラボ内に設置されたショッキングピンクのスズキ軽自動車とビートルのお尻
新型コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻を経て、ウッドショックや半導体不足、食料やエネルギー価格の高騰など、この数年「資源」をめぐる問題が大きくクローズアップされてきたが、わが国では「レアメタル/レアアース」に関する深刻な問題を抱え続けている。現状のまま放置すれば、早晩わが国の脱炭素化の努力を致命的に阻み、その影響は地方自治体においても避けがたくなるが、今回はその解決策のひとつを紹介してみたいと思う。
師走を目前にして、私は滋賀県草津市の立命館大学びわこ・くさつキャンパス(BKC)にいた。BKCは1990年代の大学の郊外展開戦略の一環として1994年に開設され、当時は東の慶應大学湘南藤沢キャンパス(SFC)と並び称された西の雄であった。その後も学部が増設され、広大な構内には様々な建物が林立している。
実はあまり知られていないことではあるが、滋賀県は人口10万人当たりの大学生数で全国3位を占める高等教育集積地でもある。昭和の時代には滋賀大学と滋賀医科大学だけという大学過疎地だったが、平成に入ると龍谷大学、滋賀県立大学、長浜バイオ大学、聖泉大学と多くの大学が陸続として立地し、その量的質的中核がBKCなのであった。
正門からかなりの距離を移動してたどり着いたのが、独立行政法人中小機構による大学連携起業家育成施設「立命館大学BKCインキュベータ」の建物である。大学敷地内にレンタルオフィス、ラボが開設されていることで、ベンチャー企業は大学スタッフの支援も受けながら新事業の創発を試みることが可能になっている。
出迎えてくれたのは株式会社アプデエナジーの王本智久社長。実はここBKCの卒業生でもある。旧知でもある王本社長はどうしても私にこのラボを見てほしいということだった。いったい王本社長はここで何をしているのだろうか。
ラボに入って最初に視野に飛び込んできたのは、ショッキングピンク一色のスズキの軽自動車。そして、その向こうには懐かしいフォルクスワーゲン・ビートルの姿が。手前には打ち合わせのテーブルとその横に3Dプリンター。王本社長はこの不思議な空間で日本のエネルギー社会をアップデートしようと目論んでいるのだ。
その物語を咀嚼するためには、まず「日本・中国間でのレアアース、レアメタル問題」を理解しなければならない。
リチウムイオン電池の輸入も破棄も中国に依存し続ける日本
今年11月30日に中国・元国家主席の江沢民死去が報じられたが、その前の権力者であった鄧小平は1980年代からレアメタルを戦略資源と定めて世界中で権益を買い漁った。その結果、中国は電気自動車やハイブリッド車(以下総称してEV車と記載)に使用されるレアアースの80%、レアメタルであるリチウムの59%の供給源を握っているといわれている。
輸出統制に関する中国の国家的意思を感じる動きは今も存在する。2021年1月15日には国家利益と戦略資源産業の安全確保の観点からレアアースの一元的管理を行うために工業情報部が全29条で構成される「レアアース管理条例」案を公表(リンク先PDF)し、意見を募集した。ただし現在のところ当該条例は施行されていないとされる。
一方、日本はレアメタルやレアアースの国産化がほとんど出来ておらず、レアアースの60%以上を中国からの輸入に頼っている。EV車に不可欠のリチウムイオン電池には、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガン、銅などが必要であるにもかかわらず、常にその供給不安にさらされているのである。
そのことを痛いほど思い知らされたのは、民主党政権下の2010年9月7日に、尖閣諸島近海で起きた中国漁船による海上保安庁巡視船への衝突事件であった。海保が船長を逮捕・送検し司法当局での拘留が続くと、それに対抗した中国は9月21日から日本向け輸出レアアースの通関手続きを厳格化し滞らせる措置を取った。両国の法規範の違いからくる誤解を政治レベルで解消するべく、日本側譲歩の形好で和解が行われたが、こうした問題が「経済安全保障」というテーマとして国内で注目されだしたのは2020年に入ってからである。
本稿で話題としているリチウムイオン蓄電池に関していえば、2020年における輸入相手国は66.1%が中国、13.5%が韓国とされており、輸入相手国の集中度であるハーフィンダール・ハーシュマン指数(最大値100の場合は輸入相手国が1か国で、数値が低いほど輸入相手先が多角化されている)も46.6と高い値を示している。
輸入相手国の多角化ができていないことによる問題点は早くも噴出している。リチウムイオン電池の原材料となるリチウムは、サプライチェーンのボトルネック(大手工場が8月の熱波の影響で操業停止)が生じたことにより供給が圧迫されて価格が過去10年で17.5倍、中国における炭酸リチウムの価格もEV需要増のためここ1年でも4倍に高騰しているという。EV車メーカーのリチウム供給確保競争は過熱を続け、各自動車メーカーは二大産地である中南米と豪州でリチウム確保に動いているが、2022年4月にテスラは2024年までに自らリチウム精製施設を商業稼働させると表明しているほどだ。
このように、世界はリチウムの獲得と国外流出の防止に努力しているのであるが、日本ではEV車用のリチウムイオン電池の多くを中国から輸入し、しかも廃車となったEV車搭載のリチウムイオン電池は中国に廃棄処分を委ねている。まさに高値で買ってきた希少資源であるリチウムを高い金を払って中国にくれてやっているようなものなのである。
EV車に積載されたリチウム電池は、何枚もの蓄電池モジュールがひとつのボックスに仕組まれているが、その中でたった1、2枚が寿命を迎えただけで残りはまだまだ使用できるにもかかわらず一括して処分されており、使用可能なリチウム電池が国内で十分リサイクルされていないのが実態なのである。つまり、貴重なリチウム資源にも関わらずほとんどが無駄に国外流出しており、これからは地域で電力を地産したとしても蓄電できなくなる状況が目前に迫っているとも言える。
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