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阿曽山大噴火
芸人/裁判ウォッチャー
月曜日から金曜日の9時~5時で、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。パチスロもすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。
※編集部注:本連載は被告人の名前をすべて本名と関連しないアルファベット表記(Aから順に使用し、Zまで到達した際は再びAに戻して表記)で掲載しております
※12月5日14:20編集部修正:記事公開時、東京拘置所の場所を「足立区」と記載しておりましたが、こちらは「葛飾区」の誤りでした。お詫びして訂正いたします
刑務官の指示で下半身を露出され触られる
罪名 特別公務員暴行陵虐
K被告人 無職の男性(26)
起訴されたのは、2021年12月28日午後7時35分にK被告人が東京都葛飾区にある東京拘置所のB棟11階44室で、収容者である被害男性(32)に対して陰茎を出すように指示して、K被告人が被害男性の陰部を触ったという内容。
「刑務官の男性が収容者にわいせつ行為をして書類送検になった」と報じられた事件です。その後の続報が伝えられることはありませんでしたが(朝日新聞は判決のタイミングで記事にしていました)、書類送検だけでは終わらずに起訴されて、ひっそりと11月に初公判が行われました。
罪状認否でK被告人は「間違いありません」と罪を認めていました。
検察官の冒頭陳述によると、K被告人は専門学校を卒業後に航空自衛隊に入り、2021年から東京拘置所で刑務官として働くようになったそうです。
K被告人は2021年6月の時点で被害男性に対して、「胸毛も結構濃いね。下の方も濃いの?」など声を掛けていたそうです。
そして、犯行当日の12月28日。見回りをしていたK被告人は、被害男性が収容されている独居房の前で、「今、自慰行為をしていたのか」と注意し、陰茎を出すように命令。被害男性が陰茎を出すとK被告人は独居房の食器口から手を伸ばして被害男性の下半身を触り出したという。そして、K被告人は「俺じゃ興奮しないか」と言い残して、その場を去ったとのこと。
翌12月29日の午前10時。被害男性が昨夜の被害をノートに書き、K被告人とは別の刑務官に渡したことで事件が明るみになったというのが流れになります。
官能小説やアダルトビデオなどでそういったシチュエーションの作品は昔から存在しますが、それはあくまでもフィクションの話ですよ。本件は東京拘置所内で実際にあった話ですからね。ちょっと信じがたい事件です。
被害男性がノートを提出したことで、今年の1月に調査スタート。6月には警察の捜査もあり、9月に書類送検となりました。
被害男性は取り調べに対し、「拘置所では刑務官の指示に従うことになっていたので、下半身を露出させられた。そして触られて、K被告人が一度手を離したので下着とズボンを履いたら、再び触ってきた」と述べているそうです。起訴されたのは1回だけ触った件についてですが、実際は2回触られていたようです。
一方、K被告人は取り調べに対し、「毛深くて野性的な男性に性的興味があった。犯行当日は、もし男性が認めたら自慰行為をさせて触ろうと思っていた。今年1月の事情聴取ではウソをついた。6月には警察の捜査があり、重大さを知った」と供述しているそうです。犯行当時は軽く考えていたのかなと伺わせる調書になっていましたね。
法廷にはK被告人の母親が情状証人として出廷。保釈後は同居をして今後の監督を約束していました。
「断るのは容易ではありません」
そして被告人質問。まずは弁護人から。
弁護人「まず一般的にですが、拘置所の中で看守からの命令を収容者は断れるものなんですか?」
K被告人「それは容易ではありません」
弁護人「もし断ったらどうなりますか?」
K被告人「懲罰などがあります」
まだ拘置所に入ったことがないので実際のことはわかりませんが、看守の命令は絶対のようです。
弁護人「被害男性は簡単に拒否できたと思いますか?」
K被告人「できなかったと思います」
断れない関係性なのはわかった上での犯行だったということですね。
弁護人「今年1月の拘置所の調査では、男性に対して性的興味はないって答えていますよね。何故ですか?」
K被告人「隠そうとしました」
弁護人「何故隠そうと?」
K被告人「他の刑務官に話していなかったので」
今年1月の時点で事件についてウソを言っていたのは、事件をゴマかすためではなくて、同性愛を周りに告白していなかったという主張です。
弁護人「今、被害男性に言いたいことは?」
K被告人「つらい時間で大変申し訳ないことをしました」
弁護人「東京拘置所の仕事はどうなりました?」
K被告人「依願退職です。被害者に申し訳ないのと職場に迷惑を掛けたので」
弁護人「職場の処分はどうだったんですか?」
K被告人「停職2カ月と退職金の差し止めです」
懲戒免職とかじゃなく、2カ月の停職という程度の出来事みたいですね。退職金の差し止めもあるので、遠回しに辞めろという処分なんでしょうけど。
続いて検察官からの質問。
検察官「刑務官と収容者。許されることだと思ってました?」
K被告人「被害者が言わなければ、と」
検察官「申し出ることはないだろうと思った?」
K被告人「可能性は低いなと」
検察官「それって他の収容者と比べてですか?」
K被告人「はい」
検察官「半年間、様子を見てたってこと?」
K被告人「一緒に暮らすと言うと変ですが、拘置所内に一緒にいれば収容者がどんな性格なのか、どんな人物なのか知ることになりますので」
検察官「性的な対象として観察していた部分もあったんですか?」
K被告人「そうかもしれません」
職務上、拘置所で身柄拘束を受けている人の性格とかは知ることになるんだろうけど、性的な目でもチェックしていたようです。
検察官「『今年1月の調査の段階では大したことないと思っていた』と供述してますけど、本当にそう思ってたんですか?」
K被告人「ここまで大きくなるとは…」
検察官「東京拘置所の中でこんなことがあれば、ニュースになるとか大騒ぎになるとか考えないですか?」
K被告人「1月の時点ではそんな大きくなるとは思ってませんでした」
検察官「その感覚がおかしいのでは?」
K被告人「そう思います」
検察官「相手の気持ちを考えるといったことができてなかったんじゃないかと思うんです。被害男性がズボンとパンツを上げた後にもう一度触ったのは何故ですか?」
K被告人「欲に勝てませんでした」
検察官「被害を届けていなかったら、その後もやっていたと思いますか?」
K被告人「かもしれません」
当時は大したことないと思ってたんだから、バレなければ繰り返していた可能性は高いですね。
検察官「1月4日に調査があって、それ以降の職務ってどうなってたんですか?」
K被告人「別の業務に変わりました」
1月の時点ではK被告人は「男に興味ない」と言ってたけど、東京拘置所としては被害男性の訴えがホントだと判断して、K被告人の業務を変更してるんですね。そういう意味では東京拘置所も動きが速くてしっかりしているという見方もできるけど、警察の捜査が6月で処分が9月と時間がかかっているのは隠そうとしていたのか?という見方もできますね。
最後は裁判官からの質問。
裁判官「相手をイヤな気持ちにさせることを何故平気でできたんですか?」
K被告人「欲を抑えられなかったです」
裁判官「犯行時、刑務官全体の信頼を失わせる行為だったとは思いませんでしたか?」
K被告人「よく考えてませんでした」
と述べたところで被告人質問は終了です。
この後、被害男性が書いた意見陳述が朗読されました。「職員から被害届を出すのはやめてと言われた」など衝撃的な内容でしたが…。
検察官からは立場を利用した悪質な犯行であるとして懲役1年6月が求刑されました。
そして、11月9日。K被告人に対して、懲役1月6月執行猶予4年という判決が言い渡されました。
この数年、セクハラ、パワハラが世間的により厳しい目に晒されて話題に上がることも多くなっている印象を受けます。その中でも公的機関で絶対逆らうことのできない状況で行われた本件って、もっと注目、問題視されてもいいのになぁと感じました。
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