ITEM | 2021/08/13

Win95・iモード・YouTuber…平成30年間が教えてくれる「変化を完璧に予測なんかできない」ということ【NHK『平成ネット史(仮)』取材班『平成ネット史 永遠のベータ版』】


神保慶政
映画監督
東京出身、福岡在住。二児の父。秘境専門旅行会社に勤めた後、昆虫少年の成長を描いた長編『僕はも...

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最大の教訓は「変化を完璧に予測することはできない」ということ

スマホが登場したところで、本書は今一度平成16年(2004年)に戻る。Chapter6のタイトルは『SNSで世界はどう変わったか?』。会員制SNS・mixi(ミクシィ)の登場から、フェイスブック、ツイッターが台頭し、東日本大震災をきっかけにメッセンジャー・アプリのLINEが開発されたこの時期は、mixi社会長やLINE社取締役のインタビューと共に振り返られている。

個人からの情報発信が強力になっていった先のChapter7は、平成23年(2011年)以降の『炎上とフェイクの時代』についてだ。言論が肥大化していった先には、文脈の無理解・すれ違い・衝突による「炎上」や、ユーザーを惑わせる「フェイク」が蔓延することとなった。

しかし、個人や企業がマスメディアに頼らない宣伝や発信をするのにSNSほど便利なツールはない。ジャーナリストの津田大介は本章のインタビューで、プラットフォーム事業者や広告業界が、SNSのパワー増大による混乱をおさめるための対策を収益事業と併行して行うべきだとコメントしている。

Chapter8は、平成25年(2013年)以降の『ユーチューバーがヒーローになった』という現象についてだ。このあたりからコメンテーターたちの見解がそれぞれ少しずつ異なってくる。たとえば「なぜユーチューバーが子どもに人気なのか?」というお題目に対して、博報堂DYメディアパートナーズの森永真弓は「よくわからない誰かが作っている完璧なものがテレビ、自分の知っているお兄さん・お姉さんがつくっている身近なものがYouTube」、堀江貴文は「身近にあるスマホやタブレットを単純にずっと見ているだけで、意図・意向は子どもたち自身にはなく、関連動画の提示によってコンテンツに引き込まれている」と意見が別れている。そこに落合陽一は「自分の子どもは、他の子どもがおもちゃで遊んでいるような内容のコンテンツを、1日5〜6時間YouTubeを見ている」という堀江貴文の見解に近い実例を示す。

ヒャダインは、倖田來未が2010年に発表したラッツ&スターのカバー曲「め組のひと」のTikTok向け高速アレンジが女子高生を中心に予想外の大ヒットをするという展開に対して、他のアーティストが同様にTikTok向けアレンジの曲をつくるとスベってしまうという現象を例に、下記のように語っているが、この点もまたコメンテーターの中で見解が別れている。

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やっぱりユーザー自身が「自分たちで見つけた」感、自然発生感がないとダメなんですよね。自分たちで作っている感がないと、アーティストや出演者、レコード会社から押しつけられているものと捉えられてしまう。たとえばテレビとかが仕掛けると、特にそう思われますよね。(P205)

落合陽一は「メディアがかわるとブランドがきかないということだと思う」と意見する。堀江貴文は「押し付けているかどうかは関係なく、おもしろいかどうかが判断基準だ」と意見した上で、メディアそのものよりも、プレイリストを作ったり「何が面白いか」を決めるキューレーターが力を持っている時代だと結論づける。

本書の内容をざっとまとめてきたが、もっと具体的に掘り下げられた各時期の現象や出来事はぜひ書中で確認いただきたい(例えば2ちゃんねる・ニコニコ動画・初音ミクなどには触れることができなかった)。

最後に、本書の大前提に立ち返りたい。つまり、なぜ平成という時代について今振り返る必要があるのかということだ。堀江貴文は本書の序文で「時代の変化は大きいため予測がつかないので、予測しようとしても無駄だ」ということを理解する意義を語っている。

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大切なのは、わからないから「不安がる」のではなくて、「何が起こっても大丈夫」なようにしておくことです。
具体的には「ふだんと違うことをつねにやっておく」ことです。
毎日同じことをルーティンでやるのではなくて、毎日のように違うことをする。全然知らない人、全く別のジャンルの人と会ってみる。それが練習になるわけです。(P6-7)

引き続き予測困難なことが予測される令和の時代を「何が起こっても大丈夫」にするために、ぜひ本書を手に平成を振り返ってみてはいかがだろうか。


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