CULTURE | 2021/08/07

「SDGs」と「五輪支持」を掲げる矛盾。日本人と企業はSDGsにどのように取り組んでいくべきか

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「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉が盛んに飛び交うようになった昨今。最も...

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「ウォッシング」を行う企業たち

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一方で、企業による建前と現実が乖離しているのに、それを宣伝に使うことを「ウォッシング」という。気候変動に取り組むと言いながらCO2排出量を減らす努力をしないことは「グリーンウォッシング」だし、ジェンダー平等を目指すというマーケティングをしながら、社内で女性差別を許していたらそれは「ピンクウォッシング」だ。

日本政府が難民条約に署名しながら99%以上の難民申請を却下し、その上で五輪で難民チームを持ち上げることは「人権ウォッシング」だし、SDGsを表明している企業が、国民の命を守ることよりも経済を優先して強行される五輪をスポンサーしてきたことは、究極のウォッシングだと言える。

また、今、私たちが歓迎する「良いこと」を推進している企業が、すべての面で持続性をクリアしているとは言い難い。ジェンダーバランスはクリアしていても、プラスチック商品を多用していたり、環境方針を見直していても、役員は全員男性であったり、ということも、残念ながらよく見かける現実だ。

こうした数多くの欺瞞が、五輪の開催によって、さらに白日のもとに晒されている。選手村で大量の食糧が廃棄されたり、エアコンなどの設備の再利用の目処が立っていないことが明らかになった。多様性を掲げながら、歴史修正主義の作家が作曲した楽曲が流れたり、セネガル人のミュージシャンが排除されたことも国際ニュースとして配信されている。これらの出来事を通して、掲げられていた持続性のスローガンが実のないものであることが明らかになった。

こうした欺瞞や矛盾はすべて地続きであり、これからの時代において確実に文化や企業バリューにマイナスになる。この状況をどうしたら改善できるのだろうか。

労働者たちがもつ力とは?

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昨年12月に上梓した『Weの市民革命』では、気候危機や所得格差といった問題に危機感を持ったZ世代、ミレニアルズの購買力とその影響について書いたが、少子化が起き、低賃金問題が進んだ日本では、若者たちは不利な状況にあるという現実は否めない。財布をパワーに使う「エシカル消費」のコンセプトもまだまだ浸透度が足りない。とはいえ、自分が財布を開く対象の企業に、実質的な持続性追求や社会責任を求める消費者は増えており、その潜在的市場に気付いている企業は依然として少ない。

本では消費者の財布の力を強調しすぎてしまったが、アメリカ社会の進化は、消費者だけが推し進めてきたものではない。プログレッシブな消費者に支持される企業のケーススタディを見ると、社内で倫理性や社会責任を推し進める企業内アクティビストや、時には、アクティビスト経営者がいて、企業理念や価値観に一貫性があることも多い。

私たちは、消費者と企業労働者を二項対立構造で考えてしまいがちだが、現実には、企業労働者もまた生活者であり、つまり消費者である。企業の中には、必ずジェンダーやセクシャリティにおけるマイノリティの当事者がいるし、そこには多様性が存在するはずだ。そして、気候変動においては、気温上昇に影響を受ける私たちひとりひとりが当事者だと言える。企業の理念や人事、マーケティングのあり方に、企業内の多様性、そして地球人としての当事者性を反映させることは、企業バリューを高めることになる。

第二に、(これは『Weの市民革命』を書き終えた時には気がついていなかった視点であるが)、アクティビズムのツールは財布だけではない、ということ。今、アメリカでは空前の労働運動・組合運動が起きている。パンデミックとともに生きる期間が長引くにつれて、リスクを背負って働きに出る末端の労働者と経営者の賃金格差の不公平が可視化され、労働者たちが自分たちの武器である「労働」を人質に、待遇の改善を要求し始めたからだ。

そう考えると、日本の労働者たちも自分たちの正当な権利を訴えるためのパワーを持っているはずなのだ。少子化によって若い労働人口が縮小していく中ではなおさらだ。労働者たちは企業の中から、より責任ある商習慣を追求するよう要求できるポジションにある。

私自身、ここしばらくの間に、ウイグルの強制労働がサプライチェーンに入っている疑惑のある企業、女性蔑視言論を容認している企業、CO2排出削減どころか、新たに環境持続性への配慮のない商品を発売した企業との仕事から身を引いた。

一介のフリーの業者を失ったところで大勢に影響はないだろうとしても、労働もまた投票用紙であるし、誰かが踏みつけられていることを知りながら、その企業からお金を受け取ることはできないと思うようになった。なにより自分の執筆活動の内容とターゲット・オーディエンスを考えた時に、ウォッシングに従事する企業と付き合うことは、自分の価値を損ねるビジネス・リスクにもなりうる。

社会の進化にコミットする企業が日本にも

『Weの生活革命』を書いた背景には、加速する気候変動はもちろんのこと、2020年代に入っても未だに根強いジェンダー不均衡や人権軽視に自分自身も危機感を抱き、そうした社会問題に対し、一人の市民、消費者として何ができるかを考えたい、そして読者に考えてほしいと思うようになったことがある。

そして、本を書いただけで終わりにしてはいけない、そんな気持ちが、読者と対話するZoomミーティングに駆り立て、それが、読者とともに「私たちにできること」を考え、発信するニュースレターSakumagにつながった。

SakumagのSlackのコミュニティでは、企業による環境政策や社会問題への取り組みを、メンバーたちがシェアしてくれる。タイガーが人権と環境を重視して、真空断熱ボトルの生産に、紛争鉱物、丸投げ生産、フッ素コート、プラスチックごみに「4つのNO」を約束していること。ウイグルで起きているジェノサイドに反応して、カゴメがウイグル産トマトの使用取りやめを発表したこと。パナソニックが早い段階から、同性のパートナーを持つ従業員を、異性夫婦と同様に扱い、LGBTQのインクルージョンに積極的に取り組んでいることを、ここでのシェアによって教えてもらった。

こうしたことは、今、日本の消費者の中でも、社会の進化にコミットする企業の商品にお金を使いたい、人権蹂躙に加担している企業にはお金を使いたくない、という心理が少しずつでも広がっていることを示唆している。


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