本多カツヒロ
ライター
1977年神奈川県生まれ、東京都育ち。都内の私大理工学部を経てニートになる。31歳の時に、一念発起しライターに。サイゾー系のメディアでの執筆を経たのち、WEDGE infnity、東洋経済オンライン、週刊実話など多数の媒体で著者インタビューを担当。その後、Forbes JAPAN WEBやダイヤモンド・オンラインなどのビジネス系メディアでも執筆。現在、QJ Web (クイック・ジャパンウェブ)や週刊誌などで執筆中。また、自身の病気の経験から、闘病記を気が向いたら公開している。https://note.com/honda52
コロナ禍でより鮮明になる「日本のデジタル敗戦」
新型コロナウイルスの蔓延は、あらためて我が国の政治や行政の機能不全をまざまざと露呈する機会となった。突如公表されたワクチン不足、飲食店などへの時短営業協力金の支払いの遅さ、そしてなんと言っても二転三転するこの国の政治家たちの発言や無責任さ。
そうした中で、行政DX(デジタル・トランスフォーメーション)も昭和かと突っ込みたくなるほど進んでいない。大抵のことがオンラインに置き換わる昨今でも、筆者が所用で一駅隣りにある役所へ向かうと長蛇の列で待たされるし、ペーパーレスが叫ばれる時代にもかかわらず、紙でのやり取りも多い。
1990年代後半から始まったデジタル政府への取り組みは、20年経った現在もなぜ遅々として進まないのか。20年間に及ぶ失敗の歴史を整理・検証したのが『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか』(日経BP)だ。同書は、日経コンピュータ編集部に所属する専門性の高い記者たちが、20年間取材し続けたからこそ書くことができた“失敗の本質”と今後の展望が描かれている。
コロナ禍で顕になった行政DXの遅れを示す身近な例が10万円特別定額給付金のオンライン申請だろう。政府は、行政手続きの検索やオンライン申請がワンストップでできると謳う個人向けウェブサイト「マイナポータル」を利用して手続きを進めようとした。だが、結果は読者の皆さんも御存知の通り、受付開始日から大混乱に見舞われた。
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二重給付や不正受給を防ぐには厳格な本人確認が必要だが、マイナポータルは申請者がデータを入力した段階で誤りをチェックできない仕様だった。さらにマイナポータルから自治体に渡る入力データは一方通行であるため、申請者が世帯主ではなかったり二重申請だったりしてもマイナポータルからどんどん自治体に入力データが流れていった。これにより自治体は申請された個人情報が正しいのか、目視でチェックに追われる事態となった(P42)
これでは迅速な支払いが可能なはずもなく、職員の負担も重い。
また、新型コロナウイルスの一刻も早い感染拡大を防ぐため、急遽開発された「新型コロナ感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)」。いち早く感染者の情報を把握・分析し、保健所などの負担を減らすはずだった同システムは機能しなかった。具体的には「患者一人当たりの入力欄が約200と膨大で、必須項目の判別もできなかった」(P19)という。よくわからないシステムに、ただでさえ未知のウイルスの蔓延で、激務の真っ只中だった保健所の職員の方々にとって重荷になっていたことは想像に難くない。
加えて特に世間の注目を集めたのが、個人事業主や中小企業への持続化給付金オンライン申請システムだ。筆者も仕事が減少した個人事業主として申請したが、こちらはオンライン申請、支払いともにスムーズだと感じた。
しかし、問題となったのはその費用だ。中小企業庁は電通が中心となって組織されたサービスデザイン推進協会に769億円で委託(この金額には審査や各種サポート、広報などの業務も含まれる)し、そこから電通へ再委託、さらに電通の子会社へオンライン申請システムの開発と運用が再々委託されていた。委託金額も非常に高額であり、しかもネットでは悪の枢軸のように敵視される電通が担っていたことが火に油を注ぐかのごとく批判が殺到した。
果たして769億円のうち、システムの開発に費やした14億円は高いのだろうか。
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日経コンピュータが日本情報システム・ユーザー協会の見積もり手法で、同システムの開発費を見積もった。結果、標準モデルが3865万円、緊急時を想定した最大規模モデルでも4億8489万円だった(P41)
ただし、納期が極めて短期間だと開発費が2~3倍になることもあるという。それでも14億円と比べると「乖離が大きい」(P42)と言わざるを得ない。そして同事業は2020年9月から委託先がデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーへと変更となったが(支給業務やシステム開発・運用は博報堂および同グループ会社に再委託)、システム不具合により約5億円分の誤支給が発生したことが明らかになっている。
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