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文:岩見旦
菅首相は昨年10月、2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする方針を表明した。現在、日本だけでなく、世界各国で地球温暖化に向けたさまざまな取り組みが行われているのは周知の通りだろう。
そんな中、アマゾンの熱帯雨林に関する気になる調査結果が今月14日、英科学誌『Nature』に掲載された。
炭素吸収源としての能力を低下させた要因
ブラジル国立宇宙研究所が率いる研究チームは2010年から2018年に掛けて、アマゾンの熱帯雨林の上空4.5キロの高さで、約600回にわたり二酸化炭素濃度と一酸化炭素濃度を測定する調査を行った。その結果、熱帯雨林は吸収量より多くの二酸化炭素を排出していることが判明した。その量は年間10億トンにも上るという。また、アマゾンの熱帯雨林の東部は西部より二酸化炭素排出量が多く、特に南東部は大幅に増加していることが分かった。
この半世紀の間に、二酸化炭素の排出量が50%増加したが、植物と土壌はその排出量の4分の1以上を吸収してきた。中でもアマゾンの熱帯雨林は4500億トンもの二酸化炭素を蓄えてきた。その熱帯雨林が排出する側になったというから、地球環境に与えるダメージも甚大だ。
研究チームは、この原因について「森林減少と森林劣化が、アマゾンの炭素吸収源としての能力を低下させました」と明かす。1970年以降、アマゾンの熱帯雨林は17%減少したが、その多くが牛の飼育や、牛の餌を育てるための作物を栽培が目的の森林伐採だったという。とりわけ野焼きは、大量の二酸化炭素を排出する結果となった。
この他の大きな要因としては気候変動が挙げられる。乾季の気温は産業革命以前に比べ、約3度上昇しており、これは世界の年間平均気温の上昇の約3倍に相当する。
負のループに陥ったアマゾンの熱帯雨林
今回の調査を率いた同研究所のルシアナ・ガッティ氏は「1つ目は、森林火災は、森林が吸収する量の約3倍の二酸化炭素を排出しているということ。2つ目は森林破壊が30%以上の地域は20%以下の地域と比べて、二酸化炭素の排出量が10倍になる」と述べている。森林が減少すると雨が減少し、気温が高くなる。すると乾季が悪化し、さらに森林が減るという「負のループに陥っている」と指摘する。
アマゾンで生成される材木、肉牛、大豆の多くはブラジルから輸出されるため、「アマゾンを救うには世界的な合意が必要である」とルシアナ氏。
今回の研究結果は、地球温暖化防止を実現するために、国際的なサプライチェーン全体の構造改革や、環境負荷の低減に地球規模で取り組む段階に来ていることを具体的に示したものであると言えよう。二酸化炭素排出量実質ゼロに向けた対策が、より多くの注目や関心を集めることに期待したい。