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近年、耳にする機会が増えたESG(環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉)/SDGsという言葉の本質を捉えられているだろうか。
そこで、ESG投資を通して、大企業に眠るアセットをスタートアップ企業が活用できるようにし、双方の企業価値を向上させるインクルージョン・ジャパン株式会社(ICJ)の代表取締役 服部結花氏と取締役 寺田知太氏に話を伺った。
森若幸次郎(John Kojiro Moriwaka)
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山口県下関市生まれ。19歳から7年半単身オーストラリア在住後、医療・福祉・介護イノベーションを目指す株式会社モリワカの専務取締役に就任。その後、ハーバードビジネススクールにてリーダーシップとイノベーションを学び、卒業生資格取得。約6年間シリコンバレーと日本を行き来し、株式会社シリコンバレーベンチャーズを創業。近年はNextシリコンバレー(イスラエル、インド、フランスなど)のスタートアップエコシステムのキープレーヤーとのパートナーシップ、そして英語での高い交渉力を活かし、スタートアップ、大企業、ベンチャーキャピタルなどの支援を行う。
服部結花
インクルージョン・ジャパン株式会社 代表取締役
京都大学法学部卒業。(株)リクルートに入社し人事部、新規事業開発に携わり、在職中にインクルージョン・ジャパン(株)を立ち上げる。リクルート卒業後、2014年にICJ1号ファンドを立上げ、シード期のベンチャーへの出資、大企業との連携による事業拡大支援を行う。現在ICJ2号ファンド組成中。
主な支援先:株式会社ココナラ、株式会社ispace、株式会社YeLL
UPGRADE with TOKYO審査員、林野庁主催アクセラレータープログラム審査員等
寺田知太
インクルージョン・ジャパン株式会社 取締役
1975年生まれ。京都大学工学研究科機械工学修了。野村総合研究所にて、情報通信・メディア領域における戦略立案・新規事業コンサルティングに従事。その後、英オックスフォード大との日本の49%の労働の人工知能による代替可能性の共同研究や、スタートアップとの協業による業務デジタル化支援に従事した後、インクルージョン・ジャパン社に参画。
取材・文:森若幸次郎
世界的なESGの流れに乗らなければ生き残れない
寺田知太氏
ーー ESG投資というと「社会貢献のために、利益を目的とせずに取り組むもの」という印象を持つ人もいると思いますが、どうでしょう。
寺田:確かに、そのような印象を持つ方も多いのですが、我々はソーシャルインパクトと経済リターンは両立できると本気で思っています。むしろ、世の中が「社会貢献や社会的インパクトを意識しないといけない」というルールに変化した今、この流れをいち早く捕まえることでビジネスチャンスの創出につながるのです。
服部:さらに言えば、ESG観点で業務改善を行わなければ、生き残ることすら難しくなっていきます。欧米諸国ではESGに対する意識が日本よりも高く、大手小売店などはESG/SDGsの観点から見ても問題のない製品のみを陳列するようになってきています。問題のある製品を陳列すると小売店が批判の的になるのです。この流れは加速するでしょうから、これまで陳列されていた製品でも、今後は「使用する材料がフェアトレードでない」等の理由で取り扱ってもらえなくなるのです。すると、製品が消費者の目に留まる機会は大幅に減少し、会社にとって大きなダメージとなります。実際に、ニュースでは「実店舗の売上が悪化していたところに、新型コロナウイルスのパンデミックにより追い打ちがかかって倒産した」と取り上げられた企業が、ESG業界では「ESG債務が原因で倒産した」と認識されているケースもあります。
ーー 会社の未来を考えた時に、ESG観点から見直さないと、思わぬ落とし穴がありそうですね。
服部:そうです。例えばですが、現在、日本の多くのスーパーで扱われている、輸入牛肉なども、そのスーパーにとって今後、ESGを問われることがありえます。米国産の牛肉に使われる試料として、ブラジル産の大豆があるのですが、これが大きな問題につながっています。牛肉1Kgをつくるために、大豆約20Kgが使われるわけですが、この大豆生産が世界的な牛肉需要が高まることで、ブラジルでは、より大豆をつくるために、森林伐採が進んでしまいます。
これは、ブラジルにとってもちろんのこと、世界的な脱カーボン化の動きに極めてネガティブなこととなってしまうため、「なんてことしてくれたんだ」という抗議が、ブラジルからすでに起きています。そして、その矛先は、日本でこうした牛肉を輸入し、販売しているスーパーなどに向けられます。
日本のスーパーとしては、廉価で質のいい牛肉を、ということで一生懸命にこの取引を開拓してきたわけですが、これが知らないシステムのつながりによって、重大な問題につながってしまう。
日本企業の多くは、このような意識していないグローバルなシステムの中で、似たようなことに加担してしまう危険性を孕んでいます。
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