文:角谷剛
日本が先進国のなかではもっとも遅れていると言われる新型コロナウイルスのワクチン接種。
しかし先行した米国でもワクチンを危険視し、反対する層は現在も根強く存在している。その背景にはネットに溢れる玉石混交の情報があった。
インターネットに溢れるワクチン反対派の罠
米国テキサス州ダラスに住むヘザー・シンプソンさんは、小さい頃から学校から求められるほとんどの予防接種を受けてきた。2015年、子どもを欲していたシンプソンさんと夫は予防接種について、インターネットで情報を探し始めた。するとまもなく、Facebook広告に9時間ものドキュメンタリーのリンクが現れたのだ。それは著名なワクチン反対派のドキュメンタリーだった。
その動画を見たシンプソンさんは、ワクチンが死産や乳児の突然死を引き起こすとする説に恐怖を覚えるようになった。シンプソンさんは「私たちは最後までそのドキュメンタリーを見てしまいました。そこではすべての悪いことはワクチンのせいだと決めつけていました。正直に言えば、これから親になることに不安で押しつぶされそうな人があのドキュメンタリーを見てしまったら、きっと洗脳されてしまうでしょう。私はそうでした」と『Texas Monthly』の取材に振り返る。
2019年のハロウィン、シンプソンさんの名はSNSで一気に有名になった。ワクチン接種が危険であると信じていたシンプソンさんは顔や全身に中に赤い斑点をつけ、はしか患者を装った画像を自身のFacebookに投稿したのだ。すると、瞬く間に何万もの「いいね」やコメントが殺到した。
一躍インフルエンサーになったシンプソンさんのFacebookには数多くのフォロワーを獲得。しかし、それと同時に罵詈雑言浴びせられるようになった。「5000個もの攻撃的なコメントをやり過ごす方法なんて誰も教えてくれませんでした」とシンプソンさん。
ハロウィンの投稿から1年後、シンプソンさんの子どもが猫に引っかかれた時、破傷風の感染予防のため、ワクチンを接種したことなどがきっかけとなり、ワクチン反対派の意見に疑問を抱くようになった。そして、シンプソンさんが「ワクチンを廃止したいわけではなく、より安全なものにしたいです」と投稿すると、今度はワクチン反対派から裏切り者と糾弾されるようになり、あまりの罵詈雑言にシンプソンさんはパニック障害を起こして救急病院に担ぎ込まれたこともあったという。
今年4月中旬、30歳になったシンプソンさんはダラスの病院でファイザー社製の新型コロナウイルスワクチンを接種した。「恐かったです。注射の針は嫌いです。でも私は科学を信用しています。私は今ではワクチンを信じているし、それこそがこのパンデミックを終わらせる方法だと信じています」とシンプソンさん。
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