CULTURE | 2021/05/04

コスパ抜群の「手作りハンバーグ・しょうが焼・カレー」、親子二代・36年続く「にな川(武蔵境)」【連載】印南敦史の「キになる食堂」(4)


印南敦史
作家、書評家
1962年東京生まれ。 広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、 音楽雑誌の編集長を経て...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

かつて存在した「同名のラーメン店」にまつわる親子二代のストーリー

二代目店主の蜷川幸男さん

「この辺は大学が多いので学生はいっぱい来ますし、あとはサラリーマンの方も。基本的には地元の人が中心ですけど、お客さんは幅広いですね」

そう話してくださったのは、お店を切り盛りする二代目店主の蜷川幸男さんだ。

現在49歳。料理の専門学校を卒業後、修行先の立川グランドホテルなど複数のホテルで洋食を学んできた。そののち、先代の父親から店を引き継いでから26年経つ。

「うれしいのは、20年前に学生だった人が、大人になってからふらっと訪れてくれたりすることです。『なんだか見たことあるなあ』と思ったら、『実は、大学の頃に来てたんですよ』とか。見た目もすっかり一人前のサラリーマンになってたりして、感慨深いですよね」

全盛期には蜷川さんのお父様とお母様、そしてアルバイトと、店内に4、5人のスタッフがいたという。店の外に行列ができた当時にくらべれば人の数はやや減ったが、とはいえ常連さんを筆頭とする人たちにとって重要な店であることに変わりはない。

ところで地元の方はご存知かもしれないが、少し前まで、この店の前には同名のラーメン店があった。いつか食べに行こうと思っているうちになくなってしまったので残念に思っていたのだが、どうやらその店にもストーリーがあるらしい。

「元々は親父が、地元の武蔵小金井でラーメン屋をやってたんです。けど、小金井だと全然商売にならなかったんですよね。そんなころ、たまたま物件を探してたらここが見つかったので移ってきたんです。ところが、親父はなぜか、『ここではラーメン屋ではなく定食屋をやる』と言い出したんですよ。でも、それがヒットしたというか、軌道に乗って」

やがてお父様は、「お前も所帯を持ったし、ここは任せる」と幸男さんに店を譲り、自身は向かいでラーメン「にな川」を開業した。

数年前にお父様が逝去されたため閉店したが、昔ながらの素朴な東京ラーメンは、ラーメンマニアにも好評だったようだ。

幸男さんに引き継がれた定食の「にな川」は、昼の営業が11:30〜14:30、休憩を挟んで17:30に再び店を開け、23:00まで営業を続ける(土曜日は22:30まで)。なお緊急事態宣言中は営業が20時までとなっている。

忙しい時間帯にはお母様も手伝うものの、それ以外は幸男さんがひとりで切り盛りする。休みが日曜だけだというので大変そうだが、唯一の休日にもすることがあって忙しいらしい。

「バンドですよ(笑)。子どもも手が離れたし。一緒にどこかに行こうとはならないんで、休みの日は暇じゃないですか。だからバンドでもやろうかなと。まあ、たまたま仲間がいたからなんですけど。店にギターが置いてあったりするから、『やってるんですか?』って話しかけられるんですよ。そこから仲間になったりして」

ロックからJ-POPまでを幅広く聴く音楽ファン。ギタリストとして、複数のバンドをかけ持ちしている。

「還暦くらいの人たちとやってるんで、僕がいちばん若いぐらいなんですよ。そういう人たちと最近やってるのは、はっぴいえんどとか、山下達郎とか。でも、たまに若者とやる時は完全に洋楽のハード・ロックとかで(笑)」

ちょっと意外な気もしたが、いわれてみれば、マスクの向こうの表情はちょっとロックっぽくも見える。

いずれにしても、ジャンルを横断したバンド活動が老舗食堂を続けていく活力になっているのだろう。


にな川
住所:東京都武蔵野市境南町3-1-6
営業時間:11:30〜14:30、17:30〜23:00(土22:30)
※緊急事態宣言中の営業は20時まで
定休日:日曜日

prev