「復興したか、していないか」の二択を乗り越えて語るということ
小松氏のデビュー作『新復興論』は、2021年3月11日に3万字超の書き下ろしを加えた増補版が出版される
―― この10年、小松さんが体験してきた「復興」は、どんなものだったんですかというお話を伺いたいです。最近はこの10年を総括するような本や記事、テレビ番組などが多数あり、自分も付け焼き刃的に少し触れてみたりするのですが、「東北」と一括りにしたものを「〇〇県〇〇市〇〇町の話」といった単位まで因数分解してもなお、あまりの物理的な広さと問題の多様さ、解決されていなさに圧倒されてしまいました。
小松:話を単純化して言えば、まずハード面の復興は非常に大きな規模で行われてきましたが、それが果たして本当に良かったのかはこれから問われていきますよね。皆さんもう忘れてしまっているかもしれませんが、ほとんど国民の税金でこれをやってきたわけです。
―― 通常の事業であれば地元自治体が負担する分の費用を「震災復興特別交付税」として国が負担し、自治体負担ゼロで多数のプロジェクトが展開されました。復興庁の設置期限も2031年まで延長され、今後5年間で復興予算をさらに1兆6000億円を投入する計画です。
小松:なんでこんなにお金を使ってきたかというと、復興基本法の条文に「被害を受けたものを復旧するだけにとどまらず新しい地域社会を構築する」といった趣旨の文章があるわけです。21世紀の新しい日本の再生を視野に入れた新しいまちをつくるから、復興に税金を使うんだよという理念で書かれているんですよね。
ところが、やっぱりやってきたのはハコモノ行政としか言いようがないものばかりだったし、新しくイノベーションが起きたかというとそういうわけでもなく、人口減少に歯止めもかからず、コンパクトシティみたいなものができたわけでもないみたいなところがやっぱりあって、むしろ僕みたいにウジウジと「復興って結局何なんだろう?」とか、「なんでこういう過ちを繰り返しちゃうんだろう?」みたいに考え続けている行為は、「いまだにそんなことを言っているんですか」みたいに疎まれがちです。
だから、復興したかどうかと言われたら復興したんですよ。分かりやすくまとめれば「ハード面は復興したけど、心の復興はまだだ」というのは正しい、今のところの現状認識だと思います。でも、「これからは心が重要なんだ」みたいな言説も簡単に言い過ぎだろうみたいなところがあって。
僕の場合、震災ですごく大変なことも多かったけれど、一方でこの10年の自分の人生は非常に刺激的だったし、いろんな人たちとも出会ったし、本を何冊も書くことができ、結婚して子どもも生まれたので日々楽しく暮らすことができてもいるわけです。なので「僕の復興」を言えばそれで話は終わりなんですけど、地域全体で見ると難しくなる。
それは、やっぱり東北として一括り、被災地として一括りに見てしまうし福島とかいわきで、僕の場合はせいぜい小名浜ぐらいだったら話ができますけど、いわき市は東京23区より広いので、その地域を一括りにして語ろうとしてしまうことの限界をすごく感じてきました。僕の住んでいる小名浜の場合だと、地域のハード面はもちろん復興した。新しくイオンのショッピングモールができた。毎週とてもにぎわっています。
ところが、漁業はさっき話が出たように試験操業というかたちが今年3月末まで続いており、水揚げ量は震災前の2割をちょっと下回るぐらいまでしか回復していないので、全然回復していない産業と回復したところの差が非常に分かれてきている。
人の心の話をしても、家族を失って今も大きな悲しみが続いている人もいるし、原発事故後に故郷を離れた人もいるし、逆に震災うんぬんという文脈関係なしに移住してくる人もいれば、うちの娘みたいに震災後に生まれた人もいっぱいいる。誰がどういう復興をしたとか、震災についてどういう思いを持っているのかということは本当にバラバラだと思いますけれども、大まかに言えばハード面では復興して新しい住宅地もできましたということです。
これからは、そうした個々の心に向き合うフェーズに入っていくと思いますし、それも含めて新しい社会のビジョン、復興の基本理念にあったような新しい21世紀のこれからの地方社会をつくるようなモデルがつくれたのかどうかということは、厳しく検証されないといけないだろうと思います。失敗したにしても成功したにしても、何らかの知見みたいなものは残しておかないといけないんだろうなと。
―― このインタビューの前日に、福島県双葉町にある「東日本大震災・原子力災害伝承館」に行ってきたんですが、東京駅から3時間ぐらいかけていわき駅まで高速バスで行き、そこから復旧した常磐線で双葉町まで行こうと思ったら13時から15時台まで運行がほぼ無いのを知らなくて、レンタカーを借りて片道1時間車を走らせてという行程でした。そこでようやく「本当に福島は広いな…」と体感できた気がします。
小松:やっぱり、実際に見てもらって、その時に感じたものを持って帰ってもらうということしかないんですよね。いろんな経済的な指標も調べれば出てきますが、どうしたってデータから抜け落ちてしまうものは大量にあるので。
ただ、ここから思い出してもらうには被災地も頑張らなきゃいけないと思うんですよね。「緊急事態なので助けてください」という時期ではもうないですし、被災していなくても少子高齢化の影響がない地方なんてないですし。だから僕は原発自体を多くの人が視察できるような体制づくりをした方がいいと考えていますし、復興したかしていないかで言えばまだ全然足りていないけれども、より良い地域をつくるというミッションは延々と残り続けるので、それをずっとやっていくしかない。
ーー 「共事者」の話にもつながると思いますが、『新復興論』『地方を生きる』でも、賛否両論あった巨大防潮堤の話などを引き合いに出し、復興やまちづくりにおいて、その地域で買い物をする、観光で遊びに来る、何かを食べに来るという「外部の人」がいないと経済活動が成り立たないんだから、地域住民の考えだけに基づいてハードを作り直しても、外の人から見える魅力がなければサステナブルではないといった趣旨の話を書かれていましたね。
小松:本当にそうなんです。その地域づくりをやっていくためには外の人たちに来てもらい移住してもらったりとか、若い人の声を聞いたりとか、地域のそれまでの歴史とか文化というものをちゃんとしっかりリサーチしたりしていくしかないんだろうなというようなことなので、結局やるべきことは変わらないなという感じになってきましたね。
「小さな存在」が支え合い独立して生きていける社会を
―― 小松さんが今後こうしていきたい、こうしていく予定があるということは何かございますか。
小松:僕は基本的に「規模の大きさ」というものに疑いの目を持っているので、5000人が来るイベントなんて絶対に企画できないし、だったら50人規模のイベントが100カ所で別々に行われている状態の方が圧倒的に豊かだと思うんです。その50人のイベントを企画できる人を、外から連れてきたり育てたりというようなことを僕はしていきたいんですよね。
だから、どれだけこの仕事を続けていけるかということだし、これで食えなかったら普通に就職してもいいと思ってますし、お店を自分でやってみることだってあるかもしれません。まずは相変わらず僕自身が興味・関心のあることと、地域の課題みたいなものを結び付けて輪をつくっていきたいし、外から来る人たちを呼び込みたいということがあります。あとは、さっき少し話しましたが原発事故を含め、震災について体験学習できるツアーもやっていきたいですね。コロナ前は自分の車に乗せて人を案内するっていうことも結構やっていたので。
ーー 「都会の豊かさとは高層ビルや大きなスタジアムがあることじゃなくて、ニッチな趣味に対応する小さなお店やイベントが無数にあることだ」みたいな話がありますよね。
小松:その50人のイベントを企画できる人材は都会にめちゃくちゃいっぱいいるわけです。そういう人たちにどんどん地方に移住してもらったりとか二拠点生活をやってもらいたい。僕は42歳になったんですけど、そろそろもっと若い人たちに向けて強く発信していかないといけないなとも思っています。
原発産業という、ある種の大きな存在に依存してきた福島の社会の中に、アメーバみたいな小さい活動体みたいなものがいっぱい広がってくるような、そうしたネットワークの社会みたいなものができてくると面白いのかなと思っているんです。
地方創生において「大きな存在に養ってもらおう」という考え方をすると、どうしても文化の収奪みたいなことが起こってしまいます。例えば観光を頑張ろうと思ってどこかの廃校をホテルにリノベーションしようとなっても、本当は地元資本で回せればいいのに、経済のことだけ考えて他地域のリゾート会社に売っ払っちゃって、それが10年後に採算ベースに合わないから捨てられちゃった、みたいなことが何度も繰り返されてきたじゃないですか。
これは日本全体でも言えることで、日本というローカルを活性化させないとどんどんGAFA的なるものに飲み込まれていっちゃうわけですよね。地方の小さい村とか町の中に面白いコンテンツが生まれて、それをちゃんと守り育てていくようなものが、結果として日本の文化の生態系みたいなものを守っていくことに絶対になっていくと思うので。
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