EVENT | 2021/02/02

「NiziUの本当の成功理由」は何だったのか。ビジネスパーソンが読み取るべきプロデュース戦略の要

NiziU公式サイトより

レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブ...

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NiziU結成以前から存在した「GLOBALIZATION BY LOCALIZATION」戦略

では、「AKB48が舗装してきた道」とはどんな道で、NiziUはそこをいかに「忠実に駆け抜けた」のか、J.Y.Parkの発言から読み取ってみたい。もっとも、ここで注目するのは、「NiziUの指導者としてのJ.Y.Park」ではなく、「JYPエンターテインメントを立ち上げた実業家としてのJ.Y.Park」である。

NiziUおよび彼女たちを輩出した「Nizi Project」がブレイクしたのは2020年だが、この構想が発表されたのは2019年の2月7日。プレス向け発表会で、J.Y.ParkはNiziUの活動の根幹をなす考え方について語っている。

「日本のアイドル文化は準備する過程からファンたちが一緒に応援してくれて、成長する姿を共有するため、アイドルたちが完成されていない状態、つまり未熟な姿も気にせず見せると思っています。反対にK-POPアイドル文化は、長い期間徹底的に企画して準備して、ある程度完成された姿を見せます。今回のプロジェクトではその2つを合わせて、準備は長い期間徹底的にしますが、その過程をファンたちにお見せする計画です」(※発言の書き起こし)

「未熟な姿も見せて成長する姿をファンと共有する」ことを重視する日本のアイドル文化と、「長い時間準備してある程度完成された姿を見せる」ことを是とするK-POPのアイドル文化。Nizi Projectではこの2つのハイブリッドを進めるということが、プロジェクト発表時点でクリアに言語化されている。

前者の文脈はまさにAKB48が活動を通じて体現してきたものであり、視野を広げればジャニーズ事務所のグループもそういったまなざしの中で活動を行っている。そもそも韓国においても「練習生」「オーディション」といったフォーマットを通じてファンの感情移入を生む手法は一般化しており、必ずしも「未熟さを愛でる日本/完成度を求める韓国」という線引きは当てはまらないという指摘もされているが(2019年のミュージック・マガジン増刊『K-POP GIrls』には、ライター/ブロガーの鈴木妄想氏による「韓国のアイドル・ファンは完成したものを好み、日本のアイドル・ファンは未完成なものを好む、という紋切型の言説は、もはや時代遅れだろう」という記述がある)、NiziUはこれまで多くの日本人が好むとされてきた「まだ足りない人たちが頑張っているストーリー」を『スッキリ』という地上波ワイドショーを通してさらに強調することで日本での浸透スピードを速めた。

そして、こういったNiziUおよび「Nizi Project」の戦略の下敷きになっているのが、2018年にJYPエンターテイメントが発表した企業ビジョン「JYP2.0」で語られていた「GLOBALIZATION BY LOCALIZATION」というコンセプトである。その内容についても、同社のYouTubeチャンネルで講演動画(日本語字幕付き)が配信されている。

韓国のコンテンツ自体を輸出する、韓国のグループに外国のタレントを取り入れる(2PMのメンバーでありタイ系アメリカ人のNichkhunなど)、その次の段階として「K-POPのノウハウを使って海外のタレント・グループを輩出する」ことを意図したこの考え方に基づいて、JYPエンターテイメントは中国でも全員中国人のボーイズグループ「BOY STORY」を立ち上げている。

「(BOY STORYは)平均年齢13歳の若い中国人6人のボーイズグループ。私は2カ月間中国全土をバンで回って、小さい街で将来のタレントを発掘するためのオーディションを行った。6人は我々の施設でトレーニングを行った後に正式にデビューし、中国でもっとも影響力があるとされているチャートで1位となった。これがK-POPの未来。次は日本人の女の子のグループを計画している」(英語での発言の要約)

NiziUを「GLOBALIZATION BY LOCALIZATION」に当てはめると、日本での「LOCALIZATION」を進めるために日本と韓国のアイドル文化の融合が企図され、

・まだ未熟だけどひたむきに頑張る少女
・先生的な立ち位置で若い世代を引っ張るプロデューサー
・その頑張りを描き出すための地上波とのコラボ
・かわいらしくてマネしやすい振り付け

といった要素が導き出されたということになるだろう。その方針は日本市場攻略のためのアウトプットとしては非常にロジカルであり、またそれを徹底的にやり切ったプロジェクトとしての実行力も素晴らしい。

ただ、「日本市場はこういうのが当たるよね」というセオリー丸出しで作られたコンテンツを前にして、普段であれば「ユニークな視座」を売りにしているビジネス界隈のインフルエンサーがまんまと「NiziUやNizi Projectは面白い!注目すべし!」と乗せられている状況に触れると、エンターテイメントの構造について批判的な視点も交えて解釈する作法をもっと社会全体として育む必要があるのではないか? という感想にならざるを得ない。

ビジネスパーソンがNiziUから本当に読み取るべきこと

Photo by Shutterstock

現時点においてNiziUはAKB48のような「同じCDを大量に売りつける」ようなビジネスにはそこまでフォーカスしていないし(と言ってもメンバー全員分のバージョンがリリースされているわけだが)、「性」を売りにするような側面も強くないのですでに女性からの人気も高い。秋元康とJ.Y.Parkの対比も含めて、誰もがエントリーしやすくなっている。

そういった仕組みの中で彼女たちを応援することは当然何ら問題ないわけだが、そこからビジネスパーソン向けに読み取ることが「J.Y.Parkが金言を発するから(人事評価に役立てよう)」「成長物語を見せるやり方が巧みだから(ファンとともに事業を作ろう)」ではあまりにも短絡的であり、NiziUやJ.Y.Parkを褒めているはずが「一連のコンテンツはこれまでの日本のカルチャーの連続性における焼き直しである」と指摘しているのと結果的には同じである。

NiziUが語りがいのあるものになるのは、前述したような「グローバルとローカルの掛け合わせ」や「育成システムを輸出して再現性を高めるスキーム」に注目してこそである。そして、その考え方は、グローバルなエンターテイメントビジネスにおける大きな潮流とも合致するものである。

たとえば、Netflixの成長は、グローバルプラットフォームとしてのブランド力を背景にした「各国の文脈にあったオリジナルコンテンツ」「字幕・翻訳からサポートに至るまでの丁寧な多言語対応」などのローカリゼーションによって支えられている。また、プレミアリーグのマンチェスター・シティを保有するシティ・フットボール・グループは、Jリーグの横浜F・マリノスをはじめとして世界中の11のクラブでネットワークを形成しており、その育成ノウハウや各国の有望な選手の情報を共有している。

「理想の上司としてのJ.Y.Parkとメンバーの成長ストーリーが魅力のNiziU」ではなく、「グローバル×ローカルをコンセプトに育成システムを輸出する、世界のエンターテイメントビジネスのトレンドを踏襲したNiziU」。グループの出自に注目し、隣接領域の事例と比較することで、そんな切り口をNiziUに対して見出すことができる。

自分たちが今支持しているものが日本のカルチャーのどのような連続性の中で生まれてきたのか?(つまり、別に目新しいものではないのではないか?)あるいは、グローバルなエンターテイメント産業のどんなうねりの中に位置づけられるか? 表面的な話題に引っ張られることなくより大きな構造に目を向けることで、読み取れる情報は一気に豊かになる。多くのビジネスパーソンがそういった視座を「最低限の教養」として備えたうえで、そのコンテンツの「ビジネス視点からの評価」が進むーーそういう状況に少しでも現実が近づいてほしいと切に願う。


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