LIFE STYLE | 2021/01/28

就任3日間で30の大統領令に署名。バイデン政権の「後片付け」が始まった(2017年のトランプはどうしていた?)【連載】幻想と創造の大国、アメリカ(22)

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渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott
エッセイスト...

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2017年、就任直後のトランプは何をしていた?

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4年前の同時期、新任のトランプ大統領は何をしていたのだろう?

過去の主要新聞からは、トランプが最も時間を割いていたのはツイッターのようだ。就任から3日過ぎた2017年1月23日のニューヨーク・タイムズ紙によると「トランプ大統領任期の最初の週末は、選挙中とほぼ同じような形で展開した:ツイッターでの怒りのメッセージ」とある。トランプはメディアが就任式に集まった群衆の人数を実際より少なく報じたと信じて怒りを顕にし、それを受けてホワイトハウス報道官のショーン・スパイサーがトランプの就任式に集まった人数を「史上最大だった」と発表した。当時撮影された写真などの多くの客観的情報からは、明らかに事実と異なるのだが、ケリーアン・コンウェイ大統領顧問もNBCの政治番組「ミート・ザ・プレス」で「Alternative facts(代替的な事実)」と反論した。その発言にソーシャルメディアやメディアは「事実にオルタナティブ(代替)なんてあるのか?」と騒然としたのだが、トランプ政権の4年間で、主要メディアよりも「代替えの事実」のほうを信じる者が増えたのである。それが、2021年1月6日の議会議事堂乱入事件に繋がったことを考えると、大統領の姿勢の重要性をしみじみと感じる。

また、トランプは就任後10日間で7つの大統領令を出したが、それらからは、この政権がオバマ大統領の達成を覆すこと、特定の移民の締め出しを優先することがうかがわれる。イスラム教徒が多い国からの入国禁止の大統領令は経済や学問の分野にも直接の影響を与えるものであり、共和党議員の中からも反対意見が出た。

トランプがまだ就任式の観衆の人数について一日中怒りのツイートをしていた時から4年経った2021年1月23日。バイデンが任命したジェン・サキホワイトハウス報道官は、記者会見で新しいエアフォースワンの塗装デザインについて尋ねられ、苦笑しながら「大統領がエアフォースワンの彩色について一瞬たりとも考えたことがないというのは確かです(I can confirm for you here the president has not spent a moment thinking about the color scheme of Air Force One)」と答えた。

話題になっているエアフォースワンのデザインは、トランプが提案したもので、トランプ・オーガナイゼーションが所有しているジェット機と同じ色彩である。それをジョン・F・ケネディ大統領時代から続くオリジナルのデザインに戻すかどうかという質問なのだが、サキの回答からは「バイデン大統領はもっと優先順位が高い難問に取り組んでいるのに、そんなことにこだわっている暇などはない」というメッセージが伝わってくる。パンデミックと1月6日の議会議事堂乱入事件の影響で、近代で最も地味な就任式を行ったバイデンだが、それについても一言も苦言は呈していない。

こういったところにも、バイデン政権がトランプ政権とはまったく異なる実務的なものになることが現れている。


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