文:岩見旦
耳が不自由な方にとって欠かせない補聴器。最近では小型化が進み、装着しても目立たないものも登場している。
そんな中、固定観念を覆す新たな補聴器がSNS上で大きな話題となっている。
デコ補聴器がSNS上で反響
重度感音性難聴である松島亜希さんは、自身が開発した「デコ補聴器・デコチップ」をSNSに投稿した。これらの補聴器はラインストーンを散りばめた可愛いものや、和柄のシックなものなど、今までの補聴器のイメージとはかけ離れたデザインだ。
補聴器を隠したいと思っているユーザーが多いという実情があるという松島さんは、「私にとってのデコ補聴器・デコチップは『世の当たり前』を変えていきたい希望や夢、意志そのものなんよ」と綴った。
9月18日に投稿したこの投稿は1万2000件以上のリツイートを記録。「これめっちゃいい!素敵なデザイン」「前向きに捉える発想が素晴らしい」などの大きな反響を得た。
今回FINDERSでは松島さんにメール取材を行った。
こだわりの服を選ぶように補聴器も
―― 今回のSNSの反響の感想をお聞かせください。
松島:近年の補聴器の開発は、目につくことのないようにコンパクトに、また肌に馴染み目立たないようにベージュ色ということを念頭に置いた開発が主流です。一方で時代の流れに伴いメガネがおしゃれアイテムとなったり、車イスもホイールやフレームにこだわったかっこいいものが出たりとポジティブな動きも出てきています。それぞれの人が持っている補聴器のイメージを、良い意味で裏切るようなものを世に出せたのかなと嬉しく思います。
今は補聴器を必要としない人にも希望を感じてもらえたと実感しています。補聴器って、音を頼りに生活をする人にとって身近なヒーロー的存在のはずなのに、付けることに抵抗を感じる流れが根深くあるんだなと改めて強く感じました。
昔も今も、「聞こえ」に関して困っている人がいるということを改めて感じた今、ますますデコチップで革命を起こしていきたいという気持ちを再確認しました。
―― デコチップを作ろうと思ったきっかけをお教え下さい。
松島:私は生まれつき重度の感音難聴で、1歳半すぎくらいから補聴器を両耳装用しています。そうした中で大学生のころからレクリエーションキャンプのリーダーをやっており、子どもと接する機会がとても多かったのですが、子どもの視線が耳に向くものの、私が気づくとパッと目をそらされることがたくさんありました。私は補聴器を見られることや耳について聞かれることに抵抗はまったくないのですが、必要以上に気を遣われる場面が多いと常に感じています。もっとポジティブで気軽かつ身近なものになり、「なんか、それいいね!」という話題を自然に引き出せるようにできないかなと考え始め、デコレーションすることを思いつきました。
洋服はそれぞれの場にふさわしい装いに着替えますよね。補聴器の装いも、洋服を着替えるように手軽に変えられたら、こだわりの服を選ぶようにこだわりの補聴器にできたらという思いから、着せ替えチップの開発を始めました。
失敗を重ねてブランド設立
―― ブランド「彩希(あき)〜Beautiful Ear〜」はどんな経緯で立ち上げたのでしょうか?
松島:デコチップのイメージは最初から頭にあったのですが、試行錯誤を繰り返す中でマニキュアを補聴器に垂らしてみたところ溶かしてしまうという失敗もあり、専門家と連携しなければダメだと痛感していました。そこでデコ補聴器に興味のありそうな人をSNSで探したところ、ひときわ溢れる熱意を感じられたのが西部補聴器の店長で認定補聴器技能者の北村美恵子さんです。もともと服飾デザイナーを目指しており、アパレル業界にもいらっしゃった方で、デコチップのデザイン・製作も手がけてくださっています。
今年4月に私と北村さんによる共同開発がスタートし、5人の補聴器・人工内耳ユーザーに協力していただいたサンプリングモニター試用期間を経て、 7月より販売開始。そして9月にブランド立ち上げの話がまとまったという流れです。
―― デコチップの制作にあたって工夫した点があれば教えてください。
松島:補聴器ユーザーのみならず、人工内耳ユーザーも含めた複数人のサンプリングモニターの協力を得て、色んなタイプの補聴器、人工内耳での装用チェック、改良を進めてきました。製品の重さは1gなんですが、極力、薄く軽く!を実現することが最初の難関でした。その他にもハウリング対策をしつつマイク集音機能を落とさない工夫、操作性を落とさない工夫、また機種によって形状と電池蓋の開閉方向が違うため、チップ形状にも変化をつけています。
―― デコチップはどこで購入することができますか?
松島:すでにデザインがなされた既製品はBASEで販売していますが(色の変更は可能)、先述の北村さんが勤務している西部補聴器(東京都福生市熊川1696-3)でも販売しています。私が使用しているような和柄のデザインはフルオーダーメイドで、個別にデザイン画のやり取りが必要になりますので、西部補聴器までメールをいただければ対応いたします。
――今後のデコチップの展開、展望を教えてください。
松島:着せ替えデコチップは、補聴器が大きければ大きいほど映えます。耳掛け式補聴器は、耳穴式補聴器と比べて目立ちますが、それを逆手にとってのおしゃれをぜひ取り入れていただきたいです。また高齢化により、補聴器が必要になってきたけれども抵抗のある方も、シックなデコチップで上品な補聴器を装うことが可能です。
お好きなイメージ、デザインをヒアリングしてからオーダーメイドで作成するので、世界で一点物の補聴器に仕上げることができます。 デコチップは一枚ずつ手作業で製作しており、一度購入すれば繰り返し使用できます。プライベートや特別なお出かけ、パーティに参加する時には、 補聴器もファッションの一つとして着飾って、シーンに合わせて装いを変えることを楽しんでいただけたら嬉しいです。
私はデコチップに関連だけでなく、障害者と健聴者の垣根を取り払い、幸せづくり・居場所づくりをするためのさまざまな活動を行っています。私が設立した兵庫県宝塚市の里山を拠点とする自然塾「いころ」の活動もそうですし、U21デフバスケットボール(聴覚障害者によるバスケ)世界選手権の日本男子代表監督を務め、真言宗の僧侶でもある上田頼飛さんと共同で年に1度、デフバスケのチャリティーイベントも開催しています。イベントの情報はTwitterなどで発信しているので、ぜひご覧ください。