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阿曽山大噴火
芸人/裁判ウォッチャー
月曜日から金曜日の9時~5時で、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。パチスロもすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。
過去に同様の事件を起こした被告人
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9月2日、14時半に閉廷予定だった詐欺の公判で被告人質問がダラダラと長引き、時計を見ると閉廷予定時刻を大きく回っていました。法廷を抜け、急いで529号法廷に移動です。静かにドアを開けると、すでに検察官の冒頭陳述が大方終わってしまっている段階でした。
この裁判を傍聴しようと思ったのは、被告人の名前を検索したところ、とある男性アイドルグループの1人とまったく同じ名前だったから。少なくとも事件自体は報道されていないので同姓同名ってこともあるだろうし、本人ってこともないとは言い切れないわけです。
ただ、被告人席に座っている男性を見たところで本人かどうか判別できるほどアイドルに詳しくないもので。途中から傍聴した検察官の冒頭陳述をつなぎ合わせると、事件はこんな感じ。
今年2月のある日。深夜1時1分。東京都内のマンションの前で、被告人が被害女性(20)の背後から抱きついて、着衣の上から乳房を揉んだという内容。
取り調べに対し、被告人は「専門学校生の頃、地元で同じようなことをして逮捕されたのが前歴。お酒を飲んで理性を失い、6人の女性に対して後ろから胸を鷲掴みにした」と前科はないものの、似た事件での前歴について述べ、「犯行前日の午後10時に帰宅して、性欲を解消するため外出した。彼女みたいな女性は3人いて、女性には困っていなかったが、この日はセックスができなかった。今までバレなかったので、今回もバレないと思った」と供述しているそうです。
この後、弁護人から被告人が書いた謝罪文と被害女性と示談が済んだことを示す書面が提出されて閉廷。続きは1カ月後に行われることになりました。
入廷した時は焦っていたこともあって、気づかなかったんだけど、傍聴人が20人ほどで、半分以上が女性でした。しかも、パッと見、若い感じ。時期的に大学生の傍聴人が増えるので珍しくはないんだけど、事情を知ってやってきた女性ファンだったのかもしれませんね。
示談金50万円は所属事務所が用意
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そして、ちょうど1カ月後の10月2日。罪名強制わいせつと書かれた法廷に入ると、傍聴人は10人でうち8人が女性。どうなるのか見届けたいというファン心理なんでしょう。
今日は被告人のご両親が情状証人として法廷に立っての証人尋問と被告人質問が行われる予定なんだけど、開廷するとまずは弁護人から、「僕のうた」というタイトルの反省文が提出されました。ポエム的な文章なんでしょうかね。なかなか変わった題名ですよね。裁判所に出す文面としては。
まずは、父親への証人尋問から。
弁護人「今、どう思っていますか?」
父親「被害者とご家族にはご迷惑をお掛けしたと思っています。社会に戻ってきた後は(被告人と)一緒に生活します」
今後は、同居して監督すると約束です。
弁護人「あなたは18年前に離婚して、そちらの傍聴席におります元奥さんが親権を持つことになったと。その間、被告人と連絡は?」
父親「いいえ」
弁護人「被告人には少年時に事件を起こした前歴については知ってました?」
父親「いいえ」
弁護人「実家から上京していることについては?」
父親「知ってました」
弁護人「会ったりはしました?」
父親「(被告人が)上京してすぐ、少しだけ一緒に住んでました。その後に一人暮らしを始めたので、イベントと時に連絡があって会うことこともありました」
弁護人「コンサートとかも行ってた?」
父親「3~4回。連絡あった時に」
18年前に離婚してから会う機会がなかった息子と、芸能活動で東京にやってきたことで再開するというのはなかなかドラマチックな話です。数カ月に1回のペースで会っていたらしい。
弁護人「示談金50万円は誰が用意したんですか?」
父親「事務所の方が立て替えてくれていると思います」
弁護人「その後起訴されて、被告人の仕事は?」
父親「解雇されたと聞いています」
なので、アイドルグループは脱退しているようです。
弁護人「再犯させないためにどうしますか?」
父親「同居。知り合いのところで働かせて、更生させたいです」
弁護人「職種は?」
父親「(被告人が)建築の仕事をしていたので、その関係からですね」
弁護人「もし、芸能の仕事をしたいと本人が言ったらどうしますか?」
すると、ちょっと考え込んで、
父親「……ひとまず反対します。時間が不規則で寝不足だったと……。同じ生活状況では再犯の可能性もあるので」
職業選択は本人の自由だけど、なかなか応援しにくい心理は理解できますよね。
次は、検察官からの質問です。
検察官「被告人は社会に戻ってからですけど、東京に残るんですか?」
父親「私の希望で手元に置いておきたいと」
普通は親と同居するため田舎に帰りますっていうのが多いんだけど、本件に関しては実の親だし検察官もそんなに怒らなくても。
検察官「被告人の仕事は決まってるんですか?」
父親「周りの人が声を掛けてくれているので」
息子のために声掛けたんでしょうね。とにかく、今後は監督すると誓って、質問終了。
アイドル活動で女性観が歪んだか
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続いて、母親への証人尋問です。
弁護人「被告人はどんな仕事でした?」
母親「芸能の仕事をしていたんですが、朝早く、寝る暇もなく働いていたと思います」
弁護人「実家にいた時に女性に抱きつくという強制わいせつの事件、起こしてますよね。その後、保護観察になってからどうしてましたか?」
母親「“もう大丈夫だよね”とたびたび本人に訊いてました」
再犯がないようにチェックしていたようです。
弁護人「先ほどの証人と被告人について訊きます。2人の関係は?」
母親「(被告人が)東京行くまではまったくでしたが、上京後は実の父ですし、自由に」
弁護人「前の事件については?」
母親「伝えてませんでした。本人がもうしないって言ってたので……」
ここが何ともつらいところですね。息子を信用したんでしょうけど、伝えていれば多少父親も何か監督できたかもしれないという後悔がね。性犯罪は繰り返す被告人も多いけど、もちろんスパッと二度とやらない人もたくさんいるわけで。
弁護人「被告人と手紙のやりとりは?」
母親「10通くらい。謝罪の内容でした」
弁護人「原因はどこにあると思います?」
母親「生活環境がチヤホヤされて、女性を軽く見ていたのかなぁと思います」
アイドルという仕事柄、女性観が歪んでしまったんじゃないかという母親の分析です。もちろん、男性アイドルが全員こんなことをするわけじゃないけど、親から見るとそう思うんだと。
弁護人「最後に被告人に言いたいことあれば」
母親「繰り返すようなら親子の縁を切ります。人のためになるようなことを見つけて、一生償いなさい。あと、(留置所での)4桁の番号忘れないようにして反省しなさい」
と、感情的ではなく、淡々と叱責して質問終了。わざわざ証言するために飛行機か新幹線に乗ってここまで来たと思うと、なかなか刺さるものがありますね。
そして、被告人質問。被告人席から証言席へと移動すると、弁護人から質問開始です。
弁護人「どう思ってますか?」
被告人「被害者様には一生消えない傷をつけてしましました。彼氏もおられたということで本当にとんでもないことをしてしまったと反省しています。家族には忙しい中、面会や法廷にも来てもらい、メンバーにはリーダーとしてツアー中にも係わらず、すべての関係者に迷惑かけて申し訳ないと思ってます」
と、たくさんの人への謝罪からスタートしたんだけど、続きは次回。