朝晩涼しくなってきたものの、まだまだ残暑が続いたある日。FINDERS編集長・米田が「今度は、檜原村にデジタルデトックスしに行きます……!」と言い出した。
片時もスマホを手放さず、1日の大半をPCの前で過ごす陰キャ揃いのFINDERS編集部員が、前回檜原村入りした時以上に語気強めにどよめいた。
都会で四六時中デジタルデバイスに囲まれ、あり余る情報の渦にまみれた生活を送る編集部員たち。今回は、あえてデジタル断ちして自然と向き合うのが趣旨だ。
当然ながら、当日はスマホもPCもポケットWi-Fiもすべて没収! スマホもPCも取り上げられた丸腰……、じゃなくて素のままの編集部員の行方やいかに!?
文・構成:庄司真美 写真:神保勇揮
武蔵五日市駅を出ると、目の前には小高い山が。
デジタルデトックス・デーにつき、全員スマホ没収!
例によって、JR新宿駅から中央線に乗り、立川駅で青梅線に乗り換え、トータル約1時間の電車移動で武蔵五日市駅に到着。檜原村に向かうには、隣町のあきるの市内にある武蔵五日市駅で降りて、そこからバスでの移動となる。
新宿から約1時間で檜原村の玄関口・武蔵五日市駅に到着した一行。当駅にて、本日瞑想を教えていただく瞑想インストラクターのつたがわのりこさん(写真左から2番目)とも合流。
ここから檜原村に向かう前に、まずはスタッフを含めた編集部全員のスマホを没収!
事前にわかっていたとはいえ、往生際悪くメールチェックなどを繰り返す編集部員たち。仕事中に仕事を放棄するのが苦手な日本人気質がこういうところに表れるのかもしれない。
グズグズする編集部員に業を煮やし、「今日何しに来たか、わかってる? デジタルデトックスだからね!」と、編集長・米田が喝を入れる。
ようやく駅前から檜原村役場行きのバスに乗り込む一行。
バスに揺られること約20分で檜原村役場に到着。ここで、森の演出家である土屋一昭さん(写真左)と合流した。
森林に囲まれながらの「五感セラピー」で自然を体感
そこから車でさらに山道を上がること約30分。向かった先は、神戸(かのと)エリア。まずは、ここから山の上にあるわさび田を目指して散策することに。同時にここでは、森の演出家である土屋一昭さんのガイドにより、「五感セラピー」のレクチャーをしていただく予定だ。
そしてこの日、散策中に道案内をしていただいたのは、昨年まで檜原村地域おこし協力隊で活動していた細貝和寛さん。
昨年まで檜原村地域おこし協力隊として活動していた細貝和寛さん。檜原村のわさび田の復元などを手がける。
五感セラピーをしていただいた森の演出家の土屋一昭さん。東京・奥多摩にて豊かな自然に囲まれ育つ。2011年、御岳にある築150年の古民家を拠点に「森の演出家」の第一人者として事業を開始。古き良き日本文化と自然体験ができるサービスを提供し、話題となる。
かくして山道の入口までたどり着いたものの、道らしきものはどこにも見当たらない。戸惑う編集部員たちの傍で、ためらうことなく「それでは出発します」と細貝さんが入って行った先は、なんと獣道のような道なき道。周囲の草木を鎌で切り分けながら前へ進んで行くではないか。
思わず、「えっ、ここからですか!?」と総ツッコミとなった編集部一同。引け腰気味に後に続く。
ちなみにこの日、事前に「目的地に向かうまでトレッキングがあるので動きやすい格好で」との指定はあった。あったのだが、なにぶん、そこはアウトドアにはめっぽう暗い編集部一同。うっかりお気楽な軽装で来てしまった者が続出。中には短パンで来てしまった部員もいる始末……。
すると山中、足元にやたらチクチク刺さるシソのような草が群生していて、なにかと思えば細貝さん曰く、「イラクサという草で、ギザギザした葉に刺さると30分くらいかゆみや痛みが出ますよ」とのこと。東京都内だと思って、檜原村の自然をなめてました……!
イラクサがいかに悪さをするかを説明する細貝さん。
山と格闘の末、さまざまな出会いを体感
この後、人1人通るのがやっとの険しい獣道が続いた。急勾配を登り続けること1時間近く。スニーカーどころか、登山用ブーツが必要なレベルで、紛れもなくこれは登山。運動不足極まりないインドア派の編集部員には相当きつい山行となった。
途中、あまりのきつさに辛抱耐えかねて、「一体どこで五感セラピーをやるんですか……!?」と息も絶え絶えに叫ぶ編集長・米田。米田を筆頭にバテまくりの編集部一同とは打って変わって、涼しい顔と軽い足取りの土屋さんと細貝さん。山歩きに慣れたお2人にとっては、これくらい朝メシ前の軽いトレッキングのようだ。目的地に着くまでの間、いかに編集部員が自然から遠くかけ離れた状態にいるかを思い知らされた。
慣れない山歩きに四苦八苦する編集部員たち。
わさび田に向かう道すがら、キノコやあらゆる植物を発見。
野生の鹿が角研ぎをした後が残る木。
ここで、土屋さんが教えてくれたのは、こちらのアブラチャンの実。その名のとおり、実を潰すと白っぽいロウのような油脂成分が出てきて、その昔、この界隈では灯油代わりに使われていたのだとか。土屋さん曰く、「虫よけにもなりますよ」とのことなので、香りを嗅いだり、体に塗ったりしてみた。油脂成分ながら、サラっとした感触だった。
途中、渓流にも遭遇。五感セラピーの一環として、土屋さんの「さわってみて水の冷たさを感じましょう」という呼びかけに従って実際に触れてみると、冷たく澄み渡り、水温は14度くらいとのこと。
「周りにあるいろんな苔もさわってみてください。種類によって全然さわり心地が違いますよ」と土屋さん。とりあえず、渓流側に生えている苔を恐る恐るさわってみる。
ふわふわで高級じゅうたんのようなさわり心地だった。思わず童心に帰ってあちこちにある苔をさわりまくる編集部員たち。
そんなこんなで途中、軽く休憩をはさみつつ、ようやく目的地のわさび田に到着した。
わさび田の麓に建てられた簡易小屋でようやくランチ休憩となった。ここでは、採取したてのわさびを試食させていただくことに。
おろしたてのわさびは、市販のチューブのものとは大違いで、ツンとした刺激はなく、さわやかな香りとまろやかな辛みに一同感動。このわさび田は、細貝さんらが地元の清流を利用して整備したものだという。
台風や大雨などで清流が濁ると、わさび田を整備し直す必要があるなど、わさび作りはとことん自然と対峙する必要があるし、手間暇かかるのだとか。そう思うと、台風シーズンを目前に貴重な山のアロマに出会った気分だ。
檜原村の清らかな渓流を利用したわさび田。わさびと似た葉のフキもあわせて育てられていて、一見見分けがつきにくいが、茎が太い方がわさび。
森の中で、自然と一体化する五感セラピーに癒される
休憩を終えた一行は、土屋さんのガイドにより、いよいよ本格的に五感セラピーに初挑戦。木に抱きついてみたり、酸素濃度の高い森の中で深呼吸してみたりした。
この時の体験について編集長・米田からは、「登山で汗をかいて疲れた体にしっとり冷たく心地よかったです。木の幹に耳を立ててみたら、静けさが心に染み渡って自然と一体化した気分です」という感想が。ていうか、松尾芭蕉?(笑)。
土屋さんのガイドのもと、思い切り息を吸い込み、深呼吸を実践。都会では決して味わえない森の香りを体感した。
山道を歩きながら、土屋さんが道すがら見つけたある実を差し出した。「これは、天然のまたたびですよ。地元では、焼酎に漬けて飲まれているので食べられるんですよ」。
勧められるままに編集長・米田が齧ってみると……。
ご覧の表情(笑)。相当苦かったようだ。
秋川上流に位置する檜原村の山だけに、所々渓流が見られた。ちなみにこの日ガイドいただいた土屋さんは、何十メートルも先にいる魚を見分けられるという。この日も魚を見つけては、「あっ、岩魚だ!」などとおっしゃるものの、都会暮らしで視野が狭すぎる我々編集部一同には、泳ぐ魚が遠すぎたり、すばしっこかったりして、残念ながら誰もまともに目視できずに終わった。
さらに土屋さんは、あらゆる鳥の鳴き声を模写する名人でもある。実際に森の中でやっていただくと、超音波に近い小さめの音で鳥の鳴き声をし始める土屋さん。「いやいや、そんな小さい音じゃ、鳥に聞こえるわけ……」とまたもや全員が総ツッコミするや否や、なんと遠くの林から呼応するように鳥の鳴き声がし始めたではないか。なんたる野生児。すごいよ!土屋さん!と、一同感動するひと幕も。
「鳥の鳴き声を鳴らすパートとして、楽器の演奏会に出演したこともありますよ」と、土屋さん。さすが生粋の奥多摩っ子である。
かくして、慣れない山歩きに格闘した末に、さまざまな発見をすることができた編集部一同。全員ケガなく無事に下山し、檜原村の大自然を舞台にした五感セラピーを終えた。
檜原村のパワスポで、マインドフルネス瞑想を体験
次に編集部一行が向かったのは、檜原村の重要文化財「小林家住宅」。ここでの目的は、檜原村屈指のパワースポットで瞑想をすることだ。
小林家住宅は、建築された場所にそのまま保存された古民家で、山岳民家としてはとても希少なものなのだとか。しかも標高750mのところにあると聞いて、「まさか、また登山するわけじゃないですよね?」と構えていたら、移動手段はなんとこちらのジェットコースターのような乗り物だった……!
実際に乗ってみると、頭から体からリュックからすべて重力で後ろに持っていかれるほどのきつい急斜面を上って行くではないか。45度くらいの傾斜らしいが、体感では「壁でも登ってるの!?」と思えるほどの絶壁であった。
急斜面を上り、小林家住宅に向かう編集部一同。
もはや姿勢を正して乗るのは不可能なほどの急な傾斜。
そんなこんなで全員無事に小林家住宅たどり着いた。
ここでは、中の広間をお借りして、瞑想インストラクターのつたがわのりこさんご指導のもと、瞑想とヨガに近い整体体操でクールダウン。
教わったのは、南房総でのワーケーションでもお世話になった、一般社団法人コーポレートウェルネス研究会代表理事であり、瞑想インストラクターのつたがわのりこさん。
歴史を感じさせる趣のあるロケーションでの瞑想体験は、デジタルデトックスにはうってつけだ。関節や肩をまわしたり、寝転がったり、体全体をねじったりすることで全身をほぐす編集部員たち。
仕上げに座禅を組んで、瞑想。最初は深い呼吸でリラックスしてから、自分の鼻呼吸に意識を向けて、雑念が湧いたらまた呼吸に意識を向けるのを続けること15分間。だんだん都会でやさぐれていた心身が内側から鎮まってきたような気がした。
マインドフルネス初体験のアルバイト赤井は、「あっと言う間で、眠ってしまいそうになりました」と感想をもらす。瞑想中に寝るのはNGで怒られるかと思いきや、つたがわさんからは、「眠ってもOK。瞑想よりも眠る方が優先ですから」と優しいお言葉が。
なんだったら瞑想中は、座禅を組まずに、なすがままの自然体なスタイルでもOKだという。「足が痛くなったら足を組み直したり、壁に寄りかかったりしてもOKです。座禅が組みにくければ、座布団を重ねて体制を整えて、背筋が伸びるように調整してもいいですよ」とのこと。古民家での瞑想とストレッチは、登山で疲労した体にとても心地よかった。
野趣あふれる谷川のロケーションでBBQ
夕方近くなり、本日の締めくくりに檜原村の谷合バーベキュー場で打ち上げをすることに。ここでは事前に予約すれば、食材などの用意もしてくれるので、手ぶらでバーベキューが可能だ。ところが、この後問題が勃発する……!
肝心の炭火が点かない問題が発生。アウトドアの達人である土屋さんでさえ手を焼くほどだ。今回、日帰りでの弾丸スケジュールを組んでの檜原村ロケであったが、バーベキュー場は無慈悲にも18時で閉まってしまう。残り1時間ちょっとで大量の肉や野菜を焼きまくり、食べまくらないと本日のデジタルデトックスは終わらない。
煙ばかりがくすぶり、いつまで経っても焼けない肉や野菜。すでに1時間切ってしまい、焦る編集部一同。
キャンプをしたことがある人ならわかると思うが、炭を燃やすのはけっこう時間がかかるのだ。現代人の感覚だとじれったくも不便さを感じるが、こうした時間を楽しむのもデジタルデトックスの一環である。土屋さんのがんばりの甲斐あって、ようやくパチパチと赤く燃えてきた。
炭火が燃え始めると、一気に肉や野菜が焼けていく。時間がないこともあって、急ぎめにBBQ網を囲んで肉をほおばる編集部一同。苦労した末に味わう肉は実においしかった。
檜原村でのデジタルデトックスの1日を終えて
最後は、沈みゆく夕日の中でキャンプファヤーをして締めくくり。燃えるたき火を見ながら、しばし感慨にふける編集部一同。今日1日デジタルデトックスしてみた感想を聞いてみた。
「朝早くから登山をして、むちゃくちゃ疲れましたが、自然の中で五感セラピーと瞑想をあわせ技で体験できたことはとても貴重でした。いつも時間に終われ、PCとスマホに囲まれた都会暮らしの僕には、心身を動かし、リフレッシュするいい機会になりました。本当に来てよかったです」(編集長・米田)
「登山中は特に、道を踏み外さないかイラクサに刺されないか、熊に襲われないかといった、普段は使わない緊張感がありました。常に神経を研ぎ澄ませることで、野生の本能が呼び戻された気がします(笑)」(編集部員・神保)
「檜原村に行く前は不安もありましたが、自然と触れあえてリフレッシュでき、都会では味わえないギャップを楽しめる檜原村って本当に素敵な所だと思います。東京都の本土唯一の村・檜原村と都会のいい意味でのギャップを体感することができました」(編集部員・岩見)
「子どもの頃からアウトドアが好きなので、今回の檜原村でのロケはとても楽しめました。山の香りや自然の中で味わう体験など、普段東京では使わない五感をフルに使った気がします。森のガイドのおかげで、森に対する解像度が上がって、一層楽しむことができました」(アルバイト・赤井)
なんと当初の不穏などよめきから一転、蓋を開けてみたら全員、檜原村でのデジタルデトックスへの満足度が高いことがわかった。そう思うと、東京都心からわずか1時間半で行ける檜原村の立地は、日帰り圏内としてあらためて穴場と言える。
特に東京近郊で働くビジネスパーソンは、ワーケーションやデジタルデトックスなどを目的に訪れてみることを編集部一同、身を持ってお勧めしたい。