去る8月、AIが神になった2045年の世界を仮想した体験型フェス「KaMiNG SINGULARITY」が開催された。
同イベントを企画したのは、以前FINDERSでも紹介し、ダンス風呂屋やマッドランドフェスなどの人気イベントの数々を手がけてきたOZONE CEOの雨宮優氏。
現実と仮想をクロスオーバーさせて世界観を創ったという未来志向のイベントに潜入してきた。当日の模様を一部抜粋の上、レポートしたい。
取材・文:庄司真美 撮影:赤井大佑
入力で願かけし、人々の願いが蓄積される「サイバー神社」降臨!
イベントが行われたのは、再開発がめざましい渋谷駅南側にできた渋谷ストリームホール。当日ひときわ目を引いたのは、6階に鎮座されたサイバー神社だ。イベント開幕にともない、実際の神主によるオープニングの儀式が行われた。
イベント主催者の雨宮氏のオープニングの挨拶で紹介されたサイバー神社の正しい参拝方法によれば、2礼2拍手までは通常の神社と同じ。ただし、サイバー神社の場合、願かけする代わりに手前のキーボードで願いを入力するスタイル。つまり、2礼2拍手1入力。しかも、ブロックチェーンを使って各自の願いが蓄積されるので、永遠に消えないのが特徴だ。雨宮さんは、「サイバー神社の御祭神は私達自神。AIが神になるということは、そういうことなのです」と説明する。
イベント主催者のOZONE CEOの雨宮優氏。
2045年を想定した近未来的なプロダクトやサービスが出展
その隣には、体が整うという「ピラミッドメディテーション」が展示され、注目を集めた。初見では、イベントのコンセプトに合わせてデザインされたオブジェだと思っていたのだが、これは研究機関が前身のテックカンパニー「neten(ネッテン)」によって開発された工学的なプロダクトであった。
技術の進歩は日進月歩でめまぐるしく変化する。ゆえにこのプロダクトはあくまで研究段階とのことだが、頭蓋骨や脊髄、仙骨を総合的に整えるメディテーション装置だという。エビデンスの検証はさておき、最新の研究をプロダクトに落とし込んだ、かなり攻めた試みだといえる。AIが神化した先の未来にはこうした人に癒しを与える近未来的なベッドが普通に販売されているかもしれない。
そのほかの出展で目を引いたのは、「人と水生生物が寄り添う社会を創る」を目的に設立されたベンチャー「Inoca(イノカ)」による、近未来なアート作品に近いサンゴのアクアリウム。
3Dプリンタで作った物体にサンゴを覆わせた「惑星珊瑚」。
メンバー全員がエンジニアであることを活かし、AIやIoTを駆使したクリエイティブなアクアリウムを提供するのが同社の強みだという。
今回、出展されたプロダクト「惑星珊瑚」は、周りのものを窺いながら成長するサンゴの性質を利用し、3Dプリンタで作った物体にサンゴを覆わせたものだ。
また、近年、若い世代を中心に常識となっている出会い系サイトの未来を予想した試みが興味深かった。2045年の恋活・婚活予想マップを作成したのは、現在数多くリリースされている恋活・婚活アプリの最新情報を中心に、広義の意味で「愛」をテーマにした記事を発信するWeb媒体「LoveTech Media」。
「1995年にネットで登録する結婚相談所が初めて誕生し、2000年のiモード登場にともない、出会い系サイトが流行しました。時を経て、『街コン』や恋活・婚活マッチングサービスが増えて、現在は無店舗型でオンラインでの結婚相談所が主流となりました。2045年には、たった1人の最高最善なパートナーリコメンドサービスが大流行するのでは」と話すのは、「LoveTech Media」編集長の長岡武司さん。
これからの超高齢化社会に向けても注目される婚活サービスだが、果たして近未来ではどんなスタイルの出会いや恋愛が巻き起こるのか?
当日はさまざまなパフォーマンスやDJ、ライブが行われた。
AIと一緒に人間が幸せになる方法は?
一方、当日行われたトークセッションでは、ソフトバンクのシニアアドバイザーで、『AIが神になる日〜シンギュラリティーが人類を救う〜』(SBクリエイティブ)の著者でもある松本徹三氏、俳優でリバースプロジェクト代表取締役の伊勢谷友介氏、構成作家で京都造形大学客員教授の谷崎テトラ氏、クラウドガバメント代表の東大史氏らが顔を連ねた。
「AIが神になること」をテーマに白熱したトークが展開された。はじめにAI(人工知能)が人類の知能を超える転換点となるシンギュラリティーはこの先かならず来るとした上で、口火を切ったのは、松本氏。
元ソフトバンク取締役副社長で、現在はソフトバンクのシニアアドバイザーを務める松本徹三氏。
「アインシュタインのような頭脳を持つAIが出現し、急速に技術革新のスピードが上がったら、我々の生活は最初にAIを作った人にかかっています。これまで人間はあらゆる想像上の神を作ってきたけれど、これから我々が作るAIの神は人間が正しいことをやるかぎりは守ってくれるはず。AIが神になることで人間が初めて理想の神を作り出すことができるかもしれません。その作り手は人間にかかっていて、悪魔の支配下になるか、天使の支配下になるかは紙一重だと考えています」(松本氏)
これを受けて、伊勢谷氏もAIが神になった世界を想定した持論を述べた。
「倫理上、人間が世界観を作っていいもの、悪いものを定義すると、“種の存続”は人が作れないものだと考えます。実はそうした指標を明確に持っている人は少ない。我々はどんなファクターで動いているかというと、人は本能にも揺れる存在であり、感覚的に動いているものです。まずは人が本能と理性をきちんと整理することが大事。その上で正しいAIが生まれるのではないかと思います」(伊勢谷氏)
俳優でリバースプロジェクト代表取締役の伊勢谷友介氏。
これに対して、東氏・谷崎氏からは、人間だけでなく地球上すべての生物を見渡した上で、次のような意見も。
「人間集中主義の議論ではなく、それを外せるかどうかにかかっているのでは。AIが神になるというより、人間の意識中心主義を突き詰めて熟慮した上で、新たな生命体であるAIにそれを込めるという考え方があってもいいと思います」(谷崎氏)
「人間が地球に住むかぎり、ほかの生物が犠牲になります。正しい、そうじゃないということを誰が決めるかといえば、人間に対してルールを課すのが神の本来の役目ではないでしょうか」(東氏)
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来るべきシンギュラリティーをどのような意識で迎え、次世代を創っていくかというテーマを内包した今回のイベント「KaMiNG SINGULARITY」。その答え合わせは将来にしかできないが、これからの時代をいかに捉え、どのように生きるかを考えるきっかけになりそうだ。