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ダンス風呂屋に屋台ディスコ、無音夏祭…ソーシャルフェスデザイナー・雨宮優氏に聞く、 人気イベントの作り方
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  • 2018.07.03
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ダンス風呂屋に屋台ディスコ、無音夏祭…ソーシャルフェスデザイナー・雨宮優氏に聞く、 人気イベントの作り方

Photo By Shutterstock

日本で“フェス”といえば、ライブ・パフォーマンスが主流だが、海外に目を向けると、あらゆるテーマを掲げた多様なフェスティバルが開催されている。そのひとつである「Silent Disco」は、参加者全員がヘッドフォンを装着し、DJブースから流れる音源を楽しむスタイルが特徴だ。

その「SilentDisco」を「サイレントフェス®」というブランド名で日本で初めて始動し、独自のフェスティバルプロジェクト「ソーシャルフェス®」をプロデュースするのが、今回紹介するOZONE代表の雨宮優氏だ。ダンス風呂屋に屋台ディスコ、こたつフェス、サイレント花見、マッドランドフェスなど、これまで数々の斬新な人気イベントを手がけてきた。

さらに、26歳ならではの生き方や感性を活かした、ミレニアル世代向けプロモーション事業を展開して注目を集める雨宮氏に、企画力やそのベースにある哲学について話を聞いた。

雨宮氏が企画するフェスティバルのあり方から、広告やPRをはじめ、若い世代に響く情報発信の新しいかたちとは一体どのようなものなのか。

聞き手・文:庄司真美

雨宮優

OZONE合同会社

ソーシャルフェスデザイナー、ファシリテーター

1992年生まれ。学生時代にファシリテーターの資格を所得し、マネジメントに関する独自のプログラムを開発して企業や学生団体の研修を展開。日本初の“サイレントフェス”プロデュース事業「Silent it」を開業。全国で企画プロデュースを手がけ、2016年にOzone合同会社を創業。国連本部で合意された17のアジェンダ「SDGs」をフェスとして表現していく独自のプロジェクト「ソーシャルフェス®」を始動。銭湯フェス「ダンス風呂屋」や量子力学をコンセプトにしたフェス「Quantum」など、計50回以上のフェスを開催し、注目を集める。

ミレニアル世代は“ナチュラルボーン・オーガニック”で“ネオヒッピー”的な思考がある

—— 雨宮さんは現在26歳なので、OZONE設立以前というと学生時代ですよね。どんな学生生活を送ってきたのですか?

雨宮:大学は文学部だったのですが、少年ジャンプくらいしか読んでいなくて、個人で心理学や脳科学を勉強し、独自にマネージメントや自己分析のプログラムを作って企業で研修をしたり、学生団体に呼ばれてファシリテーターをしたりしていました。

プログラムは、人によってどんな部分が優位に働いているかということをセグメントして、それぞれのマネージメントのあり方を考えていくものです。今後、組織において多様性こそ持続可能性とされる中で、誰に対しても画一的な対応ではなく、それぞれに応じたコミュニケーションをとる方法について教えていました。

—— 雨宮さんは、92年生まれのミレニアル世代ですが、バブル経済が崩壊し、景気が低迷する中で、将来に希望を見出しにくい時代に育ったという意識はありますか?

雨宮:社会としての寿命というよりも、個人的にはいつ死んでもおかしくないなということは、小さい頃から考えていましたね。僕より2〜3歳下は特に顕著なのですが、“ナチュラルボーン・オーガニック”的な思考の人が多いように思います。歴史的にみれば、60年代のヒッピーブームがそれに近いのかなと考えています。市政がゆらぐと、市民が自立してなんとかしようとする。国に頼っても仕方ないので、自分たちでコミュニティを作る意識があって、それが表面化せずともはびこっていて、ネオヒッピー的なものに回顧しているのではないでしょうか。

—— イベント事業をするようになったきっかけは?

雨宮:教育の領域で活動を続ける中で、始めは学校を創立しようと思っていましたが、学校というハードに持つ一般的な意識だとソフトをいくら捻らせてもやりたいことを表現しにくいと感じるようになりました。カフェやコワーキングスペースなど形態を色々考えてみたのですが、最終的には“フェスティバル”というかたちに行き着きました。

ワークショップの延長線上にフェスティバルがあったイメージです。教育とは感性に宿るものだと思っていて、その感性が、より鮮やかにエッジィになる環境は何かということを考えると、「自由でいられる」「楽しい」といった要素がそもそも大前提だと思ったのです。

自分の経験から一番その感覚にフィットするのは何かと考えたときに、最適だったのが、フェスティバルという場でした。フェスティバルなら、エンターテインメントと教育の境目をもっと曖昧にして結びつけることができるのではないかと考えました。

ということで、とりあえずエンターテイメントを勉強してみようと、DJイベントを企画し始めたですが、ハコが高くてほとんど見つからなかったのです。そんなとき、たまたまヨーロッパで「サイレントディスコ」が流行っていることを知り、日本でもそのスタイルでまずはエンタメの可能性を広げてみようということで始めたのが、サイレントフェスのイベント事業「Silent it」でした。

コミュニケーションが活発になるサイレントフェス

—— 「屋台ディスコ」や「ダンス風呂屋」、それから今年7月27日〜28日に開催される「Neo盆踊り」など、参加者全員がヘッドフォンを着けて音楽を楽しむサイレントフェスでは、どんなコミュニケーションが生まれるのですか?

雨宮:会話ができないので、アイコンタクトやボディランゲージといった非言語的なコミュニケーションが活性化するのが特徴です。そもそも海外のカルチャーということもあって、参加者には外国人も多いのですが、言語の壁を越えたコミュニケーションが起こり、通常のフェスやライブにはないような強烈な一体感が生まれやすいのです。

心理学的にも「類似性の法則」といって、みんなで同じものを身につけることで、より一体感が強まると言われています。同時に、いつもは味わえない場所で音楽を楽しむことで、ある種の背徳感を伴います。学校で不良グループが仲良くなるのと同じで、仲間うちで背徳感を味わうと仲良くなりやすいということも心理学では言われています。

個であり全であるという世界観は僕が表現したい空気感にも近くて、サイレントフェスを教育寄りに転用した、“サイレントラーニング”というプログラムを作り、学校でワークショップもさせていただいています。

楽しい遊びの中から学びを得るフェスプロジェクト「ソーシャルフェス®」

—— 現在、広告関連など、あらゆるイベント制作のオファーが多いと思いますが、企業からの反響はいかがですか?

雨宮:OZONEでは現在、「エンターテイメント」「エデュケーション」「デザイン」の3つの領域におけるさまざまなクリエイティブの事業を展開しています。その中で独自のプロジェクトとして、OZONEでは、「ソーシャルフェス®」というプロジェクトを展開しています。

これは、2015年国連本部で合意された“持続可能な開発のための17のグローバルゴール”「SDGs」をフェスティバルとして表現するプロジェクトです。具体的には、それぞれのゴールよりターゲットを1つ選び、課題に取り組む活動家と共に「その課題が終わったあとの未来」を想像し、その未来をフェスティバルとして1日限りで創造します。課題の斥力ではなく、希望の引力からムーブメントを生めるのがフェスの1つの機能なので、SDGsと身体的な感覚をミックスして想像機会を最大化しています。

現状、ビジネス的にはサイレントフェスのご依頼が多いですが、たとえば、「この場所をどうにかしたい」というざっくりした依頼もあって、“一人広告代理店”のような仕事も多く発生しています。フェスティバルの観念の1つは、「こうあったらいいね」という未来を表現することだと思っているのですが、企業のビジョンを楽しい未来として表現していくにはどうするかということを一緒に考えて、プロデュースする案件です。それだけでなく、既存の企画のリブランドやコンセプトの立て直しもやっています。

—— 「ダンス風呂屋」は銭湯を会場にしたサイレントフェスですが、銭湯でのイベント事例には、10年以上前に東京・吉祥寺の銭湯で開催されたライブ・イベント「風呂ロック」などがあります。イベントを企画すれば銭湯に限らず、近隣への騒音問題は避けられませんが、ライブではなくサイレントフェスなら、どんな場にもフィットしやすいですよね?

雨宮:銭湯は近隣との関係性が特に重要な業態なので、サイレントである意味はあると思います。また銭湯は生活導線から地域コミュニティの醸成に繋がる機能があります。衛生管理の側面よりむしろ「繋がる」ことを1番の体験価値として設定し、クラブの繋がる機能と掛け合わせ、「風呂とフロアを沸かすフェス」としたわけです。銭湯もクラブも場が温まるからこそ繋がれますので、クラブカルチャーと銭湯の環境は相乗効果があると考えました。

ダンス風呂屋では男湯と女湯の2フロアに分け、それぞれのフロアで別のDJが回し、フェスのように好きな音楽を選んで踊れます。演出としては風呂ジェクションマッピングで彩ったり、着物を着たダンサーに入ってもらったりしてます。DJの時間が終わったあとはロビーに参加者が集いワークショップを通して参加者同士の会話を促す機会も設けました。その間にお湯を入れ、最後にみんなで風呂に入って仲良くなり、上がって牛乳を飲みながら談笑するというような流れです。“コミュニティ醸成”を魔法の体験のように表現するイメージでデザインしています。

「ソーシャルフェス®」が今必要な理由とは?

—— 次世代エネルギーの未来を表現したイベント「Quantum」は、社会性のあるテーマが特徴です。「SDGs」を含む教育やエンタメの要素を取り入れた、こうした「ソーシャルフェス®」が、今の時代に必要な理由をどのように考えていますか?

雨宮: OZONEが考える「ソーシャルフェス®」は、良さそうな未来はとりあえず表現して身体感覚をもって楽しみながら考える、ソーシャルデザインの亜種のようなものだと位置づけています。たとえば原発反対運動や種子法改正に反対する動きなど、社会性のあるメッセージというものは、想いの強さから「こうあるべき」というような強い言葉、答えの提示になりがちです。健全な批判を態度として表現し続けることは重要だと思うのですが、それだけだと主義、思想を持ち合わせた一部の人にしか響かず、特に、一般的なミレニアル世代はそういう強いメッセージに対して引いてしまいます。

複雑な社会構造だからこそ、変革ではなく創造の方がスムーズで良さそうな未来像が見えるのであれば、新たに社会を作るよりも、仮想現実としての「フェス」をつくることで、インスタントにとにかく量を出して試していこうという考え方です。それには、「楽しい体験がしたい」「美しいものがみたい」「美味しいものが食べたい」といった普遍的な快楽を前面にしないと広がりがないので、したたかに優しい詐欺をしています(笑)。

「ソーシャルフェス®」では、課題を啓蒙するのではなく「私はこう考えているけど、あなたはどうですか?」と問いを投げるだけです。あくまで「ソーシャルフェス®」は入口なので、それを作る側の責務としては、まずは敷居を下げて、間口を広げることが大切だと思っています。

「ソーシャルデザインとしてのフェスづくり入門」というワークショップも定期的に開催していて、参加者の中から興味を持ってくれた人は実際に「ソーシャルフェス®」を作ってみようという流れにもしてあります。こちらは言わば、優しい詐欺のノウハウをどんどん広げていく“平和のねずみ講”のような事業かもしれません(笑)。

—— 「SDGs」を「ソーシャルフェス®」事業の基盤に置いたのはなぜですか?

雨宮:1つはSDGsの明確さと多業種で協働できる可能性において、プロジェクトとして指針を示しやすく、かつフェスティバル的に横断的展開ができるという機能面。もう1つはフェスティバルカルチャーを持続可能にしていくために、もう少しソーシャル・ブランディングが必要だと考えたことにあります。フェスという言葉自体に対して、お酒やドラッグが蔓延するやかましいイベントという印象も根強くあるため、フェスティバルに内包される社会的、教育的な価値をリブランディングしていく上で、今もっとも世界で合意されている課題とも関われることを表現していきたいと思いました。

—— これまで反響が大きかったイベントの事例は?

雨宮:今年も7月8日に開催予定の「マッドランドフェス」は、今年で2回目となり、千葉県山武市の有機野菜畑で開催します。「野菜が生まれた場所に埋まりに行こう」というコピーで、名前の通り畑を泥だらけにして埋まることができます。泥まみれになって音楽と、収穫したての野菜が楽しめる都市と農家を繋ぐフェスなのですが、参加者の満足度が高かったので今年も開催に至りました。昨年の倍の参加者を見込んでいます。

千葉県山武市の有機野菜畑で開催される「マッドランドフェス」は今年で2回目。都市部からの参加者が多い。

また、3年前から開催している量子力学を共有する世界観に据えた「Quantum」では、持続可能なエネルギー供給の未来として、独立型の発電装置で音響を取り入れたり、昨年は、経済格差の緩和の未来として、ベーシックインカムとフェス内だけで使える独自の通貨を組み合わせた「ローカルベーシックインカム」という仕組み考え、フェスティバルの中に取り入れています。

ベーシックインカムについてよく議論されるのは、財源の問題はもちろんですが、その使い方として、単に浪費するだけで終わってしまうのではという疑念の声が多くあります。その解決策として、消費先や使い方を限定した通貨を組み合わせて、流通以外の付加価値を加えられればと思いました。Quantumではフェスティバルの中だけで使えるQuantumマネーというものを作り、そのお金の使い道にルールを設けました。条件は、誰かのために使うこと。誰かにおごってもらったら、その人ではなく、別の人におごってあげるというルールも設け、コミュニケーションを活性化させます。

これに則って、たとえば新潟であれば、お米にしか使えない通貨をベーシックインカムすることで最低所得保障、中央のスリム化のみならず、特産品の市場が拡大し、より強固なブランディングができるようになります。地方分権が進む中でコンセプチュアルな街づくりは必須です。地域での実験導入として、まずは小さいモデルケースである「フェス」に落とし込み、どんどん実験して、事例を作れればと思ったのです。

これからの時代は、小さいコミュニティで肌感覚の幸福が求められる。

—— 「ソーシャルフェス®」もプロモーション事業も、そのときどきの世相やその先の未来をイメージする力が重要だと思いますが、今後の時代の流れをどのように捉えていますか?

雨宮:まだ全部読んでいないのですが、ユヴァル・ノア・ハラリの著書『サピエンス全史』(河出書房新社)によれば、これまで人類は大きく3つの革命があったと言われています。まずは、「認知革命」。たとえば、それまで人は、ライオンが来たときに隣の人に「ライオンが来た!」と伝えることはできたけど、「ライオンが来そうだぞ」ということは理解できなかったわけです。ところが、ある日人類はそれを理解できた。そうした共同幻想(神話)が認知できるようになると、集団で何かを作ることができるようになって、社会が構築されていきました。

その次は「農業革命」。狩猟採集から固定した土地で農作を行うことで、安定した食料生産と未来への見通しが立つようになり爆発的な人口増加につながりました。近代だと、「化学革命」により無知の知を得て、神のお召しめしで止まっていたさまざまな現象が化学され、資本主義体制の発展にもつながりました。そして今、グローバル資本主義の真っ只中に私たちはいます。

それでは次の革命として何が起きるかを考えたときに、「生命革命」だと僕は考えています。今後、バイオテクノロジーが発展して人が人工的に人をデザインし、作ることができるようになったり、記憶をクラウドに保管できるようになり、意識が科学できるようになったりしたとき、生死や時間、個を超えた人類の価値観は大きく変わっていくことでしょう。もはやホモサピエンスという種ではなくなっているかもしれません。そのような倫理問題に向けても進みつつある現代は、構造から内観へ、物理宇宙から体内宇宙へ、グローバルからグローカルへ、中央から分権へと進んでいる感覚があります。音楽フェスにおいてもチルアウトなスタイルが流行ってきていますよね。

中央集権の限界とは、結局のところ「よくわからなくなってしまうこと」にあると思います。これまでもそうでしたが、拡大しすぎた社会には人の認知が追いつかず、構造と直感的な幸福感との間にひずみが生まれてしまいます。それでは次は分権化してというふうに日本は進んできましたが、次もまたアートや文化、人文学を育てるフェーズへ進むのだと思います。そこで必要な想像力は、心身を整え、無意識、自然と向き合い、よく遊ぶことから生まれてくるのではないでしょうか。

「SDGs」の課題が当然のごとく叶うコミュニティをいかに広げられるか

—— 26歳とは思えないような知見の広さと深い洞察力をお持ちですね。最後に、「ソーシャルフェス®」などのイベント事業をする上での経営理念について教えてください。

雨宮:今後、フェス作りのノウハウは、体系化してオープンソースにして、オーガナイザーのリスクを減らせるようなエコシステムとなるコミュニティを作れたら、どんどん手放れさせていきたいと思っています。その一方で、中米のグアテマラで開催される「コズミック・コンバージェンス・フェスティバル(Cosmic Convergence Festival)」や昨年オレゴン州で開催された「オレゴンエクリプス」などで感じた、ガチなフェスティバルカルチャーは日本でもじっくりと醸成していきたいと思ってます。

これはSDGsの達成にも繋がる話で、社会課題とは、いかに家族感を越境していけるということだと思うんです。SDGsはどこまでのレイヤーに家族感を持てるかという意識の中間テストのようなもので、1世帯を世界とするならば、その中での達成はそんなに難しくありません。

フェスティバルカルチャーは、それを一時的に空間全体まで広げていける文化です。たとえば、見知らぬ人が喉の乾きで苦しんでいたら当然水を渡すし、苦しんでる人がいなくても、いかにみんながハッピーでいられるかということを態度で表現し続ける世界がそこにはあります。僕の経営理念としてもそういうところがありますね。100年後には同じく死ぬ仲間たちですから、せっかくなら幸せに死んで、共に命をロンダリングしていきたいと思っています。


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