文:佐郷顕
急速に進化しつつある顔認証技術。AppleのiPhone Xのロック機能に採用されたことでも記憶に新しい。街中に張り巡らされた監視カメラは、犯罪抑止へ絶大な成果を挙げている。その一方、海外では個人のプライバシーの問題が浮かび上がっている。
670万カ所に設置された顔認証ソフトウェア
国際人権団体の「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると、新疆(シンキョウ)での中国政府による顔認証ソフトウェアは、モスクや私有住宅に加え、空港、鉄道、バス停など670万カ所に設置されているという。地域内の250万人以上が毎日監視され、追跡されているのだ。
超監視社会の様相を呈してきた中国では、そのような社会へ抵抗する意思を持つ人たちがマスクを着用したり傘をさしたりし、顔認証カメラから顔を隠す対策を取っている。また、顔認証カメラを備えたとされる街灯柱を電動のこぎりで切り倒されるという事件も発生した。
ポーランド生まれのメタルジュエリーがプライバシーを保護
監視社会への不安を世界中が抱える中、ポーランド人のデザイナー、エヴァ・ノワクさんは画期的なメタルジュエリーを開発し、話題を呼んでいる。
そのメタルジュエリーは、眉間と両頬を覆う3つのパーツがワイヤーでつながり、眼鏡のように耳に掛けられる作りになっている。名前はIncognito。真鍮で作られており、非常に洗練されたデザインで、美術工芸品だと言われても遜色ない。
このIncognitoを装着すると、顔認証システムに識別されなくなる効果がある。公共の場やSNS上での顔認証システムの追跡からプライバシーを保護することが出来るのだ。
ノワクさんはIncognitoを制作するにあたり、長期間にわたって形状や大きさ、パーツの位置などについて研究を重ねた。そうして完成したIncognitoの実力は、Facebookのディープラーニングを使用した顔認識アルゴリズム「DeepFace」による識別を回避するテストにも成功するほどだ。
Incognitoは、ポーランド最大のデザインの祭典、ウッチ・デザイン・フェスティバルにおいてマツダデザイン賞を獲得した。
抑圧的な監視社会の到来というSF映画で描かれていた未来は今や現実のものとなりつつある。Incognitoのようなスマートな商品を身に着けることも選択肢に入れつつ、私たち一人ひとりが顔認証システムや監視社会との向き合い方を考えていく必要があるのではないだろうか。