CULTURE | 2019/09/18

「蟻地獄のような生活」覚せい剤漬けの文科省キャリアに忍び寄る密売人の魔の手【連載】阿曽山大噴火のクレイジー裁判傍聴(5)

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詐欺や窃盗、暴行など、日々巻き起こる事件の数々。大手メディアが追わない事件のその先を、阿曽山大噴火...

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詐欺や窃盗、暴行など、日々巻き起こる事件の数々。大手メディアが追わない事件のその先を、阿曽山大噴火が東京地裁から徹底レポート。先の読めない驚天動地な裁判傍聴記を、しかとその目に焼きつけろ。これが法廷リアルファイトだ。

今回は、覚醒剤取締法違反と大麻取締法違反で起訴された文部科学省キャリア(44)の裁判レポートの後半戦です。

トップ画像デザイン:大嶋二郎

阿曽山大噴火

芸人/裁判ウォッチャー

月曜日から金曜日の9時~5時で、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。パチスロもすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。

出会い系SNSで知り合った人と覚せい剤を使って

Photo By Shutterstock

早速、前回の続きから。

検察官「大なり小なり嫌な思いをしたり、ストレスがあったり、誰でもあると思いますけど、覚せい剤は普通使いませんよね?」
D被告人「そこは不徳の致すところで、出会い系SNSで知り合った人に解消の道を求めてしまってました」

この辺に関しては深く追求されなかったけど、覚せい剤はセックスドラッグなんて言い方をされることもあるし、出会い系で会った人とそういう使い方をしてたんだろうな、と想像です。

検察官「職場に置いておく抵抗感はありました?」
D被告人「対極の、薬物撲滅の職場なのに反省しています」
検察官「そんな部署に置くって、なぜ出来てしまったんでしょう?」
D被告人「判断力が低下してたのかなと。バカなことをしたと思います」

ただでさえ所持しているのがアウトで、場所が場所だけに上乗せで怒られてる感じですね。被告人も必要以上に申し訳なさそうにしてたのでフォローしておくと、文部科学省は小・中・高校と大学での薬物乱用防止教育を推進しているんであって、文科省含め官公庁内での薬物乱用防止を推進してるわけじゃないので、そんなに謝らなくても。

検察官「発覚したら騒ぎになると思いませんでした?」
D被告人「有名人が捕まった後どうなるか分かってましたので、逮捕されて、これでご破算になると」
検察官「それが分かっててもやめられないのは覚せい剤の効果と言えますかね?」
D被告人「そうかもしれないです」
検察官「今後、仕事でストレスが溜まったらどうしますか?」
D被告人「家族に相談してるので…。体動かしたり、趣味やったり」
検察官「上申書提出してあるけど、お母さんはどんな監督してくれるんですか?」
D被告人「共に暮らすので、家事分担して、色々話したり」

ってことは、母親とは別々で暮らしてたってわけですね。

検察官「犯行時は違法薬物のこと、同居人にも隠してたんでしょ?」
被告人「これからはしっかり明らかにしていきますので」

冒頭陳述で結婚してるか独身かは普通言うもんだけど、この裁判では省略されてたんです。誰かと一緒に生活してたけど、その相手は覚せい剤が家の中にあることを知らなかったとういうことなんでしょうね。ホント、ちょっとずつしか物事が明らかにならない被告人質問です。

密売人が集まる異常な環境

Photo By Shutterstock

最後は裁判官から。

裁判官「外国行くのと違法薬物の使用は直結しませんけど?」
D被告人「クラブ…あの、踊るとこで、流れで知り合った人にもっと仲良くなろうって」
裁判官「韓国行くたびに使ってたんですか?」
D被告人「何度かそうなりました」
裁判官「日本で買わなかったのはなぜですか?」
D被告人「単純に購入ルートを知らなくて。その人が日本に来た時に、この人からならと(密売人を紹介された)」
裁判官「紹介された密売人って今は?」
D被告人「逮捕されたと聞いてます」
裁判官「その人以外の入手ルートってあるんですか?」
D被告人「以前はありました。それは警察の方に伝えました」

取調べで洗いざらい喋ったということなんでしょう。報復があるからという言い訳で、入手先を明かさない被告人もいる中、本件以外のルートも伝えてるってのは反省の表れではないかと思われます。

裁判官「さっき弁護人からの質問で、連絡先を消してケータイも変えるんだと。今、消しても安易につながれる社会で、もうやらないと言い切れるのはなぜですか?」
D被告人「蟻地獄のような生活で。ドンドン誘いがあって、普通の生活に戻りたいなと以前から考えていたからです」
裁判官「いろんな関係者が寄ってきてたと?」
D被告人「はい」
裁判官「自分でもマズいと思ってた?」
D被告人「そういう人と切りたいなって。やめるきっかけが逮捕でした」
裁判官「逆に言うと、逮捕というおおごとじゃないと関係が切れないってことですか?」
D被告人「正直そういう側面が」

密売人も稼ぐためにやってるのに、誰もが買ってくれるモノじゃないですからね。買ってくれるヤツがいると聞きつければ、いろんな人が近寄ってくるというのは自然な流れなんでしょうね。薬理効果としてやめられないってだけじゃなく、やめにくい環境作りがされてしまうってのもありそうですね。それを被告人は蟻地獄と。

覚せい剤だと金銭的に厳しいからと大麻のプレゼント

Photo By Shutterstock

裁判官「あと、快楽の面もあった?」
D被告人「はい」
裁判官「性的な部分もあると?」
D被告人「はい」
裁判官「ん~…まぁ、その辺は犯罪じゃないんですけども、出会い系のSNSで知り合った人と使ってたというのもあるのでね。その辺は?」
D被告人「内面から沸いてくるモノに関しては相談してみようかと思います」

なんとも含みのある言い方で、全く具体的じゃないから何を訊いているのかサッパリ。プライベートな話だからあいまいに質問したんだろうけど、無理にしなくても。

裁判官「今後は何をしようと考えてます?」
D被告人「資格を取って働けたらなと。社労士とか、具体的に絞れてないですが」
裁判官「尚更、再犯できませんね」
D被告人「自分を追い込んで、他から見られているというのも大事かなと」

そうなのか、社会保険社労士って文部科学省職員よりも覚せい剤やっちゃいけないのか!“尚更”なんて言われるってことはそういう意味でしょ。国家資格は厳格だ。

裁判官「あ、あとですね、大麻も使ってたの?」
D被告人「いや。逮捕の2日前が私の誕生日でプレゼントが葉っぱだと言われまして。何かは本当に分かってなかったんですけど、覚せい剤だと経済的に厳しいから何かに変えていかないとねって言われてからの誕生日プレゼントだったので、違法なモノだろうなとは思ってました」

大麻は一緒に使ってた人からのバースデープレゼントだったようです。金銭的にキツいからって逮捕されるようなモノを人に渡すって。ずっと一緒に使用してた2人ゆえの会話なんだろうけど、ここだけ切り取るとなんとも変なやり取りですね。相手のせいで罪が一個上乗せになっちゃってるというね。

この後検察官は、D被告人はさまざまな密売人から覚せい剤を入手し、職場に置くほど依存性親和性が高いとして、懲役2年と覚せい剤6袋大麻1袋を没収という求刑をしていました。

これに対し弁護人は、被告人は取調べで裏づけできないものまで正直に話しているし、大きく報じられ懲戒解雇されて社会的制裁を受けているので執行猶予にして欲しいと弁論です。被告人は最終陳述で、

「裁判まで至りましたし、文科省の信頼を失墜させてしまいました。親戚友達にも迷惑かけましたし、2度と手を出さないと誓います」

と述べて閉廷でした。

そして、2週間後の8月19日。D被告人に判決が言い渡されました。結果は、懲役2年執行猶予4年、覚せい剤6袋大麻1袋没収。

初犯なので実刑じゃないのは分かるけど、執行猶予4年って! 他と比較すると重めです。大麻も所持してたからかなぁと思いきや、

裁判官「1.2gと量も多く、持っていた場所も問題なので重くしてあります」

と、最後に付け加えていました。場所次第だったみたいですね。もし自宅のみだったら、執行猶予3年だったのかなぁ。省庁勤務の人は“尚更”気をつけないといけませんね。


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