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伊藤僑
Free-lance Writer / Editor
IT、ビジネス、ライフスタイル、ガジェット関連を中心に執筆。現代用語辞典imidasでは2000年版より情報セキュリティを担当する。SE/30からのMacユーザー。著書に「ビジネスマンの今さら聞けないネットセキュリティ〜パソコンで失敗しないための39の鉄則〜」(ダイヤモンド社)などがある。
巨大IT企業GAFAへの懸念が世界中で高まる
世界中でGAFAを問題視する声が高まってきている。GAFAとは言うまでもなく、米国のIT大手であるGoogle、Apple、Facebook、Amazonの4社のこと。それぞれのビジネス分野で強大になりすぎた4社の力を削ごうと、様々な規制や分割論が各国で議論されているのだ。
例えば米国では、司法省が7月23日に、日本の独占禁止法にあたる反トラスト法への違反が疑われるとして「検索」、「ソーシャルメディア」、「ネット小売り」の各分野に対する調査を開始したと発表した。検索はGoogleを、ソーシャルメディアはFacebookを、ネット小売りはAmazonを念頭に置いたものとみられている。
FTC(米国連邦取引委員)も、Facebookに対するプライバシー侵害に関する調査を実施し、その結果に基づき同社と50億ドル(約5400億円)の和解案で合意したと7月24日に発表した。
また、民主党の有力議員で米大統領候補の1人であるエリザベス・ウォーレン上院議員が3月に、テクノロジー業界における競争を促進するためには、巨大テック企業であるGAFAの力を弱める必要があると、GAFAの会社分割を公約に掲げたことも話題となった。
欧州で昨年5月に施行されたGDPR(EU一般データ保護規則)には、GAFAによるデータビジネスの独占を牽制する狙いもあるとみられる。新時代の「石油」ともいわれる重要な資源「データ」を、ビジネスで先行するGAFAが独占し、個人のプライバシーすら軽視されてしまう恐れがあることに欧州各国は危機感をつのらせているのだ。
欧州でビジネスを展開する企業は、EEA(欧州経済領域)内で取得した個人データをEEA外に持ち出すことを制限するGDPRを遵守しなければならず、これを破ると重い制裁を科せられることになる。GAFAとて例外ではない。すでに今年1月には、フランスのデータ保護当局CNIL(情報と自由に関する国家委員会)がGDPR違反を理由に、Googleに対して5000万ユーロ(約62億円)の制裁金支払いを命じている。
日本でも動き始めたGAFA規制の新法案
日本でも、個人情報や通信サービスで影響力の大きな国際的なIT企業に対して、不当な取引を防ぐために規制を強めるとする、GAFAを念頭に置いた新法案を整備する動きが進んでいる。
国際IT企業は、シェアの高いサービスを提供することによって、膨大な量の利用者の購買や嗜好、傾向などのデータを収集し、最新のAIで分析することで開発・販売戦略などを有利に立てることができるとされる。日本では電気通信事業法に基づく「通信の秘密」の規制(電話やメールなど通信の内容や相手を第三者に知られない権利)が、海外に本社のあるGAFAには適用されておらず、厳格な規制を受ける国内IT企業に比べて不公平ではないかとの意見が新法案整備の背景にあるようだ。
自民党の競争政策調査会も、今年前半にGAFA各社の幹部を招いてデータ独占問題に関する意見を聴取するなどして、個人情報保護や不公正取引防止のためのルール作りを進め、戦略会議までに提言をまとめるとされる。
また、8月29日には、公正取引委員会が「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」に対する意見募集を行うことを発表した。
これは、昨年12月18日に取りまとめられた「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」において、「サービスの対価として自らに関連するデータを提供する消費者との関係で優越的地位の濫用規制等の適用等、デジタル市場における公正かつ自由な競争を確保するための独占禁止法の運用や関連する制度の在り方を検討する」とされたことを踏まえたもの。
公正取引委員会が作成した資料によると、消費者がプラットフォーマーから不利益な扱いを受けても、他に代替サービスが無いなどの理由で利用を続けざるを得ない場合を「プラットフォーマーは消費者に対して優越した地位にある」と認定し、独占禁止法違反のおそれがある事例として
・個人情報の利用目的を知らせずに取得すること
・規約に書かれていない情報を取得したり、同意を得ずに第三者に提供すること
・安全管理のために必要な措置を講じないこと
・サービス利用継続の条件として、サービスの対価以上の要求をすること
といったケースを掲載した。
公取委の資料より
中国のデジタル・プラットフォーマー「BAT」も躍進
実は、米国のGAFA以外にもデジタル分野におけるデータの独占を懸念されているデジタル・プラットフォーマーがある。それは、中国のBATだ。
BATとは、中国におけるインターネット業界を代表する3企業、百度(Baidu:バイドゥ)、阿里巴巴(Alibaba:アリババ)、騰訊(Tencent:テンセント)のこと。GAFAの場合と同様に、百度は検索エンジン、阿里巴巴はEC、騰訊とはSNSと、それぞれ異なるサービスを主力事業として成長を遂げてきた。
BATはGAFAのように世界中でビジネスを展開しているわけではなく、主な市場は中国国内とされる。
だが、百度のアクティブユーザー数は4億人(月)を超え、全世界の検索エンジン市場においてGoogleに次ぐ2位に躍進。阿里巴巴の流通総額は、4850億ドル(2016)と米ウォルマートやコストコを上回り世界最大の小売・流通企業となった。騰訊は登録アカウント数が11億を超え、2017年にはアジアの企業で初めて時価総額が5000億ドルを突破したことでも知られる。
データの独占・活用と言った意味では、GAFAのように国際的に様々な規制を受けることもないためBATの優位性は揺るぎそうもない。今後はIT業界の将来を展望する上でも、GAFAと同様、BATの動向にも注視していきたいものだ。