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取材・文:6PAC
昨年12月に販売開始し、SNS経由で即大ヒット
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SNSの時代となり、世界中の企業がマーケティングツールとしてSNSを活用している。だが、使いこなせている企業はそれほど多くないのではなかろうか。TwitterやYouTubeなどを活用した企業マーケティングでは、たびたび炎上案件が登場し、世間を騒がせる。一方で企業側が意図していなかったにも関わらず、SNS経由で商品やサービスに火が付くケースも非常に多い印象だ。
静岡市に本店を構える「わさび」の総合メーカー、株式会社田丸屋本店。140年前から、わさび漬を主体に様々なわさび加工食品を開発・販売している会社だが、昨年12月22日に『わさビーズ』という新商品を一般向けに販売開始した。一見緑色のイクラのようなビジュアルのわさビーズは、田丸屋本店が狙っていたわけではないのに、“映える”ということでSNSから火が付いた商品だ。
定価550円(税別)の『わさビーズ』だが、品薄状態が続いたことでオークションサイトやフリマサイトでは定価の約2倍、1000円程度で転売される事態にまでなった。「12月22日に発売してから生産体制が追いつかない状況になっていましたが、6月初旬に施設を増設しました。製造した分だけお買い求めいただいている状態なので、売れ行きは生産能力次第です。6月以前の販売数量は発売した当初より衰えていません」、「生産ラインを増設したことで、実際に供給不足をどれくらいまで解決できるかわかりませんが、従業員一同、生産業務に励んでいます」と語る同社のR&D部 開発課 係長の松永悠佑氏に、今後の展開などについて話を伺った。
甘いものと一緒に食べてもおいしい!?
株式会社田丸屋本店 R&D部 開発課 係長の松永悠佑氏
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10年前から構想があったというわさビーズ。“映え”を意識していなかったため、発売当初はここまで爆発的に売れるという自信や確信はなかったという松永氏。「開発とし“リピータブルに買ってもらうこと”と“ありそうでなかったもの”を常に目指しているので、そこが消費者の皆様に合っていたのだと実感しました」ともいう。わさビーズに対する引き合いは、テレビ・ラジオといったマスメディアを通じてを知った個人客、ホテルや飲食店、コンビニなどからが多いそうだ。
属性別だと、もともと同社のわさび漬けの顧客である50~60代の人が多いが、わさビーズ発売以降は30~40代の顧客がわざわざ来店して購入するようになったという。そうした来店客の多くは、従来の主力商品であるわさび漬けも購入していく。わさビーズを購入した客からは、「見た目がおしゃれ」、「この発想はなかった」、「見た目がおしゃれだけど、しっかりわさび味」、「着色料を使っていないのはすごい」、「和食シーン以外にもフレンチ、イタリアンに使える」といった声が挙がる。
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ちなみに、わさビーズの使い途は“映え”目的で和食・フレンチ・イタリアンなどのおしゃれな一皿に添えるだけに留まらない。意外すぎるが、「甘いものと一緒に食べてもおいしいです。すべてがわさび味でなく、噛んだ部分が辛くなるので、甘さと辛さを別々に味わうことができます」という予想外の組み合わせによる食べ方も出来る。「なんなら、シュークリームやショートケーキでも」と同氏は言うが、なんともチャレンジャーな食べ方ではないか。
“映える”ということで火が付いた『わさビーズ』だが、開発者側の視点では、「わさびの使い方が無限に広がるものなので、今までわさびを使用してこれなかった、もしくはできなかった食シーンにわさびが使うことができます。和食シーンのみならず、イタリアンやフレンチなどでも見て楽しむほかに、しっかりとしたわさびの味がします。噛んだときにわさびの香りが口の中で広がるので、食材本来の味とわさびの味が両方楽しめるものとなっています。静岡県産に限定したわさびを使用し、着色料を使わず天然そのままの色に仕上げています」という強みがあると語る。
海外進出も準備中。1年で3億円の売上目指す
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パンケーキなどいわゆる“映える”食べ物は、世界中で需要がある時代だ。日本食が当たり前になりつつある海外でも、圧倒的な存在感のある脇役としてわさビーズの潜在的ニーズはあるはずだ。この点について訊ねてみると、「海外では、マカオ、台湾などに出荷しています。翡翠のような輝きをしているので、海外での受けは非常に良いですね」という答えが返ってきた。今年5月には「世界を驚かせろ!ニッポン企業のドッキリ大作戦」というテレビ番組で、何も知らない寿司好きのアメリカ人にわさビーズを食べさせるドッキリ企画が放送されたが、この番組でも非常に好評だったそうだ。
わさビーズは、冷蔵商品であり、かつ賞味期限が2カ月ということで、空輸可能な国や地域であれば販売が可能とのこと。「社内事情により詳細はお伝えできません」とのことだが、海外からの引き合いはかなりあるそうで、3月には英語版のInstagramの運用も始めており「課題を乗り越え、世界に広げていきたい」と同氏は話す。
「1年で3億円の売上を目指しています」と同氏は語るが、強い需要にどう供給を追いつかせていくのか、需要と供給のバランスをどうやって取っていくのか、ヒット商品になったが故の悩みは尽きないだろう。果たしてアメリカの日本食レストランで、当たり前のようにわさビーズが提供される日が訪れるのか、楽しみではある。