文:岩見旦
物事は多様な見方をすることで、潜在的な問題がグッと浮き上がるということがある。
イギリス人女優のトレイシー・ウルマンがホストを務めるテレビ番組『Tracey Ullman's Show』で披露されたコントを紹介したい。
強盗被害に遭った男性が女性警察官に掛けられた意外な言葉
コントの内容は、取調室で強盗被害に遭った男性が、女性警察官に被害状況を説明するというもの。強盗は男性の首元にナイフを当て、携帯電話と時計を渡すように脅してきたと明かす男性。常識的に考えれば、この男性は一方的に被害に遭っており、非があるとはまったく思えない。
しかし、女性警察官の返答は予想外なものだった。「強盗被害に遭った時、今と同じような服装でしたか?」。そして「いかにもお金持ちであると言わんばかりの格好をしていたんですね。少しはあなたの服装に問題があったんじゃないですか」と言い放ったのだ。
男性は「どんな服装であったかは問題ではないでしょう」と反論すると、女性カウンセラーが入室。そして「事件当日、お酒を飲んでいましたか?」「お酒は事件を引き起こしやすくなります」と、男性にも落ち度があったと攻め立てた。さらには、「高価なスーツを着て携帯電話まで持って、土壇場になったら強盗に遭いたくないだなんて」と呆れた様子。「どうして叫んで助けを求めなかったんですか?」「あなたにも責任の一端はあると認めなければなりません」と、畳み掛けた。
最後に別の男性警察官が入室し、女性警察官に「嫌がらせメールを受けている男性が相談に来てている」と伝えると、「彼はどんなフォントを使っていたか聞いて。思わせぶりなフォントを使っていたら、彼自身に責任はあるわ」と答えるという落ちだ。
セカンドレイプを風刺したコントが世界中で話題に
『BBC Comedy』のFacebookページに掲載されたこのコント4000万回も再生され、大きな話題となった。また、日本語字幕をつけたこのコントを投稿したツイートは5万6000件のリツイートを記録している。
このコントは言うまでもなく、性犯罪の被害に遭った女性に対する世間の声が、いかに不条理であり馬鹿げているかを、風刺したものだ。「誘うような振る舞いをしたのだろう」「そそるような洋服を着ていたのが悪い」「枕営業だったのではないか」といった見当違いな批判に常に晒されている。
性犯罪の被害者の心の傷に塩に塗り込む「セカンドレイプ」は、コントが放送されたイギリスだけでなく日本でも蔓延している。視点を変えると、その本質がよく把握できる。