CULTURE | 2019/06/24

請求額は約1億円!盗撮犯を恐喝する「盗撮ハンター」の仰天供述【連載】阿曽山大噴火のクレイジー裁判傍聴(2)

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詐欺や窃盗、暴行など、日々巻き起こる事件の数々。大手メディアが追わない事件のその先を、阿曽山大噴火...

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詐欺や窃盗、暴行など、日々巻き起こる事件の数々。大手メディアが追わない事件のその先を、阿曽山大噴火が東京地裁から徹底レポート。先の読めない驚天動地な裁判傍聴記を、しかとその目に焼きつけろ。これが法廷リアルファイトだ。

トップ画像デザイン:大嶋二郎

阿曽山大噴火

芸人/裁判ウォッチャー

月曜日から金曜日の9時~5時で、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。パチスロもすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。

盗撮犯に超高額請求の新事実。ケータイの中にはさらなる盗撮ハンターも

前回の続き、盗撮ハンターの裁判傍聴記です。詳しい内容は、前回分の記事を読んでいただくとして、A被告人への検察官の質問から。

検察官「スカート内を撮られた女性に30万円を渡したと。連絡先は確認しました?」
A被告人「そこまで訊くのは変かな、と」
検察官「どう渡したんですか?」
A被告人「慰謝料として渡しました」
検察官「すぐ受け取ったんですか?」
A被告人「半ば強引に渡したので」

目撃者の立場であるA被告人が、盗撮された女性にお金を渡すのはあまりに不自然なので、検察官も疑っている感じに見えます。ただ、具体的な証拠も根拠もないからか、これ以上その女性に関する質問はありませんでした。そしてこの後、驚きの新事実が明かされたのです。

検察官「あなたが単独で行った、3000万円を要求した未遂の方について訊きますけど、最初は被害者に対して9500万円を請求したと取調べで答えていますよね。これは誰が言い出した金額?」

前回書いたけど、盗撮の示談金を臭わせた入院費3000万円でも桁違いで驚きの金額なのに、元々はその3倍以上の9500万円も要求してたなんて。弁護人が「千万単位じゃ逮捕されると思わなかった?」なんて質問してたけど、はじめは億だったんですね。この問いに対して、

被告人「私です」

単独でやったことなんだと返答です。さらに、

検察官「あなたのケータイに、他の盗撮ハンター2人が登録されているけど、何か知ってますか?」
被告人「いいえ」

皆さんのケータイに盗撮ハンター登録されてますか? そもそも盗撮ハンターなんて犯罪自体を知らない人も多いだろうけど、A被告人のケータイには2人も登録されてるんですよ。これってもう組織的な犯罪でしょ。それでも検察官は、「そうですかー」なんて言って追求せず。最後に、

検察官「今後、自分の何を変えていこうと思ってますか?」
A被告人「金銭に執着していて、いかに稼げるかと考えていました。これからは地道に働いて稼いでいきたいです」

と今後の仕事に対する向き合い方について質問して、終了。

最後は、裁判官からの質問です。

裁判官「2つの事件での実害が750万円と。働いて稼ぐのがどれだけ大変か考えてください」

と、質問というよりはアドバイス。この一言だけで、被告人質問終了です。

「本件以外をキッパリ断れたのは進歩」なぜか自信につながる誓い

続いて、共犯のB被告人への被告人質問。

弁護人「やろうと思ったきっかけは?」
B被告人「裕福になったことがなく、サラ金の借金や役所から督促状が来ていて、追い込まれていたので引き受けてしまいました」
弁護人「分け前についてはなんて言われてました?」
B被告人「見張りはリスクがないって言われて、それで1回につき1万~2万だと」

違法行為までやって得られるのが1万円って。それなら全うな普通のバイトでも稼げそうな気もするけど、1回の拘束時間が短ければお得と思ったのかもしれませんね。

弁護人「借金はいくらあったんですか?」
B被告人「170万円くらいありました」
弁護人「じゃあ170回やるつもりだったの?」
B被告人「返済の足しになればと」

あくまでも副業で臨時収入みたいな感覚なんでしょう。

弁護人「西口公園に移動した後ですけど、あなたは何をしましたか?」
B被告人「被害者との交渉には一切口を挟まなかったんですが、A被告人が誰かと電話をしている間に被害者の方と話しました」

恐喝しているときにたまたま電話がかかってきたのか、それとも誰かに報告や金額の相談をしていたのか。ここも組織の臭いがする部分ですね。

弁護人「A被告人から他にも誘われたけど断ったと。やらなかったのはなぜですか?」
B被告人「2つの理由があって、借金や未納金がなくなったので、やる必要がありませんでした。あと、750万円のことを冷静に考えて自責の念が……」
弁護人「取調べで最初から正直にしゃべったのはなぜですか?」
B被告人「A被告人が恐喝未遂で逮捕されたニュースを見て、警察が自分のところに来るかもしれないなと。別件なので知らないふりをしようと思いましたけど、受け入れて正直に話さないと何も変わらないと思ったので」

あくまでもB被告人は誘われただけの立場で、分け前もA被告人と比較して少なめ。しかも、取調べでは素直に供述して罪を認めてるんだとアピールです。悪いことはしたけど、それで得た230万円をすべて借金返済に回すって本来マジメな人間なんじゃないかと。こういうお金の一部をパーッと散在する被告人も多いので。

次は検察官から。

検察官「西口公園に移動してからのことを訊きますね。被害者に対して“反省しな”ってどんな気持ちで言ってたんですか?」
B被告人「あなたが盗撮しなきゃハンターなんかやってないのに、と自分を正当化しながら言ってました」

お金さえ要求しなけりゃ、スカート内を盗撮してる男を叱責するって正義の行動なんですけどね。なんとも言えない、この事件の可笑しさの部分です。

検察官「あなたたちと被害者、どっちが悪い?」

おぉ、これは難しい問題だ。被告人2人が起訴されている恐喝罪は最高刑が懲役10年。被害者がやっていた盗撮行為は、東京都の迷惑防止条例違反に該当するだろうから最高刑が懲役6カ月。ま、常習性が認定されればダブルアップで懲役1年。この2つを比べて、どっちが悪者なのかと問いかけているわけです。その答えは、

B被告人「罪に大小はないので、同じくらい……」

どっちも悪いので異論はないけど、より重い罪を犯した方がそれを言うのどうか、と。

検察官「弱みがあるんなら警察に相談に行かないだろうと思ってた?」
B被告人「そういう心理はわかってました」
検察官「取ってもいいじゃん、と」
B被告人「いや、そこまでは……。見張りでもよくないと思います」
検察官「さっき報酬は1万円だと思って参加したと。それが分け前230万円だったんですよね。どう思いました?」
B被告人「A被告人の口から750万円という金額が出たときに止めたんですが、借金の額を確認されて……」

まさか750万円もゆする犯行だとは思ってなくて、ビビッたようですね。そんなB被告人も170万円の借金を確認されて、ある意味脅されているというか。そして、最後の質問。

検察官「こういうことをやった人としての弱さをどう克服していきますか?」
B被告人「立派な人間になれるかはこれからだと思いますが、本件以外をキッパリ断れたのは進歩があると思っているので、周りに胸張って生きていけるようにしたいです」

と、1回しかやらなかったことを自信につなげたいという、ちょっと珍しい誓いを立てて質問終了。

最後は、裁判官から。

裁判官「750万円はかなり大きい金額というのは覚えておいてくださいね」

と、どこかで聞き覚えのある一言で終了。

この後、検察官は、A被告人に対して懲役4年、B被告人に対して懲役3年を求刑して閉廷でした。

そして、判決の5月29日。A被告人には、懲役3年未決拘留日数30日算入。B被告人には、懲役2年未決拘留日数20日算入という判決が言い渡されました。振り込め詐欺とかの組織的犯罪って、騙す側・犯罪をやる側が悪いのは言うまでもないんだけど、騙される側・被害を受ける側が存在するから成立する犯罪なわけです。だから、様々なところで注意喚起してるんですよね。それでも防ぎきれないようですが。

盗撮ハンターに関しては、単純。スカート内の盗撮をしなきゃいいだけ。一気に2つの犯罪がなくなるんですよ。イヤな思いをする女性もいなくなるし、悪い組織も儲からない。正確な数字は知らないですけど、スマホの普及に比例して盗撮の裁判が増えてる気がするんですよね。あくまでも体感。

スマホを売る方も、スマホを真上に向けたときに撮影できなくすればいいのに。頭上の空や天井を撮影する機会ってなかなかないでしょ。このままだと、パンチラ専用撮影機ですよ。


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