かつて流行した“ヌーベルシノワ”という中華のスタイルを牽引し、東京人になじむ中華を25年近くも提供してきた老舗「メゾン・ド・ユーロン」。ミシュランで星を獲得したこともある名店として赤坂の地に佇むこの店は、どんな方をお連れしても失敗しない、接待レストランの条件をパーフェクトに満たす存在だ。
トップ画像デザイン:大嶋二郎
チェリー先生
食べ歩き部・部長
東京生まれ東京育ち。10代では外食好きな家族と、20代では目上の方々にあまたの東京レストランガイドをしていただき、30代以降は自分で開拓するのが楽しくなり、あらゆるスタイルの「外食」を楽しんできたグルメ女。プロならではのこだわりが見える瞬間、女王様気分を味わえる接客、味というよりも人に惹かれる瞬間などに魅力を見出し、レストランの楽しみ方を広げている。
1990年代に流行した“ヌーベルシノワ”は色々な解釈があるが、平たく言えばフレンチの様なスタイルで楽しむ中華のこと。大皿から取り分けて円卓を囲むのではなく、ひと皿ずつサーブされ、ワインを合わせることも。素材の持ち味を活かす味付けで油分もライト目な、洗練された中華と言えよう。
アラカルトメニューはなく、夜のコースは1万2960円~、昼のコースは3240円~。昨年の秋までサービスランチを提供しており、お手頃価格で高級店の味を楽しみたい近隣のビジネスマンで賑わっていたのだが、現在はコースのみに。気軽に立ち寄れなくなったと言えば残念なのだが、裏を返せば、ランチタイムも落ち着いた雰囲気になり、より接待向きのレストランになった印象だ。
前菜のクラゲ(前菜盛り合わせ写真の上部)は、麺かと見紛うような細切りになって供される、ユーロンならではの一品。
こんなに細くても食感はしっかり残り、細くすることで味わいがより上品に感じられる。良質なクラゲに出会えると、高級中華に来たな、と実感するものだ。ワインも豊富に揃い、紹興酒もワイングラスで提供されるのはヌーベルシノワならでは。
同店のシグネチャーはいくつかあるのだが、中でも印象に残っているのが、「里芋と葱のとろとろ煮」だ。スープの器に入って出てくるそれは、まるでお粥のようなビジュアル。
とろとろになるまで煮込まれた里芋の中にネギのシャキッとした食感がアクセントになっている。あっさりとした里芋の甘みと滋味深い旨味の余韻を残し、舌を転がって行く。和食を食べた時のホッとする感じに似た、安堵感さえ感じる一品だ。高級食材でもない芋類をここまで上品に仕上げることができるのは、長年ここの料理長を務める阿部さんの成せる技なのだろう。
コースの締めは担々麺か炒飯から選べるのだが、お勧めは担々麺。サービスランチをやっていた時、客の大半が担々麺を頼んでいたほどの人気メニューである。あまり辛いタイプではなく、胡麻の香ばしい薫りが鼻を抜ける風味重視のスープが絶品だ。
こう言っては何だが、「今っぽさ」を強く感じる中華ではない。だが、赤坂という好立地、高級感あるインテリア、間違いのない接客、という接待レストランにマストな三拍子が揃い、安定感のある美味しさを常に提供してくれるレストランは、いつの時代も貴重な存在だ。
undefined
undefined
メゾン・ド・ユーロン