EVENT | 2020/06/01

公立校の教員も評価する「偏差値で測れない才能」を伸ばす新サービス。CINRAのオンライン教育事業「Inspire High」の何が10代に刺さっているのか

聞き手・文:神保勇揮

杉浦太一
CINRA, Inc. / Inspire High, Inc. 代表取締役
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テストで測れない能力をいかに引き出すか

谷川俊太郎さん回でのアウトプットの提出とフィードバックの様子

―― YouTubeにはお試し版として詩人の谷川俊太郎さん回がアップされていますが、何より驚くのはコメント率の高さです。加えて「生電話で質問しませんか?」と番号を画面に表示するとすぐにかかってくる。「日本人はセミナーで全然質問しない」みたいなことがよく言われる中で、これはすごいことだなと。

杉浦:コメントのしやすさはとても意識しています。常連のメンバーが雰囲気を作っていて、コミュニティの質がすごく良いんです。自分自身のことを素で言える、深い悩みも話せる。中高生は大人以上にコミュニケーション能力を持ってる場合もあるんです。軽井沢高校ではどうでしたか?

川上:、あまり勉強が得意でない生徒がInspire Highでは面白い作品をつくったり、鋭い視点を持っているということに気づけたことは嬉しい発見でした。

杉浦:勉強ができるというのもひとつのスキルですけど、生きる力という意味はいろんな側面があるはずですよね。学校教育ではどうしても数値化しやすいところにスポットライトが当たりがちですが、そうでない場所にも光を当てられるようにしたいです。

―― 話は変わりますが、コロナ禍を受けてオンライン学習の意味合いが決定的に変わり、「サブ」から「メイン」にすら変わる可能性も出てきました。Inspire Highだからできることは何だと思いますか?

杉浦:確かに教員・生徒全員がオンラインと向き合う必要が出てきたという意味ではこうしたサービスへの理解が早まることもあるでしょうが、今は「そもそも通常やるべきだった勉強をオンラインベースでどう進めるか」の構築を優先させるべきだと思いますし、そのためのツールやコンテンツも日々新しいものが無料で出てきたりしています。

そうした現状で「Inspire Highいいですよ」と勧めて無闇に選択肢を広げすぎてしまうのもどうなのかな、と正直逡巡もしています。なので、まずは無理なく、Inspire Highに共感いただき、前向きに取り組んでいただける先生・学校と取り組みを広げさせていただきたいと考えています。

川上:現場はようやくオンラインを取り入れて試行錯誤を進めている状況ですが、教員が一生懸命オンライン授業をしたとしても、どうしても一方通行になりがちで、オンラインの「双方向」というメリットを活かせない部分があります。

僕自身も生徒とオンラインで繋がってみて、何か上手くいかないなと思ったことがあります。その時にInspire Highのことを思い出して「結局、子どもたちが表現する手段・場がないということなのか」とハッとしたんです。オンラインというツールを使って、そういう機会を増やしていきたいなと思います。

杉浦:ありがたいお話です。まずはオンラインの壁を超え、これまでの教科学習をどう復活させるか、あるいはより良いものにするかが喫緊の課題ですよね。そして一方で主体的な学び、自己表現をしていくことをどう推し進めていくか。まずもって生徒全員の家にネット回線があるわけじゃないですし、そういう意味では主体的な部分について「今はそれどころじゃない」となってしまう部分もあります。我々もどう支援していけるのか考えたいところです。

教室って黒板があって皆がそれに向かうっていう一方的な空間でしたけど、オンライン授業は極論すれば寝転がっていても受けられる。それは不適切な態度かもしれませんが、生徒からすれば自宅だと安心安全が担保されてリラックスできていて、主体的に学ぶモードに入りやすい可能性もあるんです。だからInspire Highではコメントが盛り上がるのかもしれないという部分もありますね。

Inspire Highのガイド陣

川上:あと課題と言えるかどうかわかりませんが、生徒自身が「オンラインでカリキュラムをこなすこと」にまだ慣れていない気がします。自宅では誘惑も多く、継続的に勉強するのは難しいようです。

―― 部活すら満足にできないところも多いでしょうし、自分が今中高生だったら確実にゲーム漬けになっていたと思います(苦笑)。

川上:部活だけでなくバイトもできない。生徒のストレスはかなり溜まっています。

―― そうした中で、Inspire Highはこれからどうなっていくのでしょうか?

杉浦:全日制の学校とのリレーションはもちろんですが、通信制の学校だと以前からオンライン活用が当たり前になっていたりするので、そことも連携していきたいですね。あとは今や大学入学者の半分ぐらいがAO・推薦入学になっているんですが、そういったところでも「偏差値じゃないところでいかに自分をアピールするか」が重要になってきます。そうしたサポート的なことはやっていきたいと思っています。

手前味噌ながらコンテンツはなかなか良いものができていると思いますし、ユーザー満足度のアンケートもほぼ100%満足したと回答をもらえています。先日資金調達もしたので、アプリの開発にも力をいれていきたいです。2020年は「これは面白い」と思ってもらうための作り込み期間だと思っています。

川上:教員の立場からリクエストをさせいただくと、隔週日曜日の放送時間以外でも何かできるコンテンツが欲しいですね。また、授業との連携も考えていただけるとありがたいです。平日昼間にやってしまうと録画放送になるのでどうしても一方通行になってしまいますし。

杉浦:日曜日以外の体験を作っていかなきゃとはずっと思っています。ただ「平日昼間に放送する」といっても全国の学校で同じ時間に授業してるわけではないので、一斉で揃えるのは難しいんですよね。加えて、放送内容だけではなくて受講者同士のコミュニケーションが面白いとなってくれればいいし、そういう流れにしていきたいです。

本当に川上先生みたいな人がいて助言してくださると、自分たちの思い込みで突っ走っているわけではないとわかって希望になります(笑)。「これで人生が変わった」「楽しくなった」という経験が世界中のティーンから生まれてくるということを目指しています。


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