EVENT | 2020/06/01

公立校の教員も評価する「偏差値で測れない才能」を伸ばす新サービス。CINRAのオンライン教育事業「Inspire High」の何が10代に刺さっているのか

聞き手・文:神保勇揮

杉浦太一
CINRA, Inc. / Inspire High, Inc. 代表取締役
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ポイントは「自分のやったことが受け入れられた!」という喜び

―― そうした中のテスト運用として、軽井沢高校の生徒さん有志にもサービス開始前から利用してもらっているということから、今回担当である川上先生をお招きしました。この取り組みはどんな経緯で決まったのでしょうか?

川上:杉浦さんとの最初の出会いは、2019年5月に長野県教育委員会が主催した「未来をつくる、アート思考」というSTEAM教育(科学・技術・工学・芸術・数学を教科横断的に学ぶ手法)を体験するワークショップです。

ワークショップではファッションデザイナーの山縣良和氏による「個性って何だろう?」という講演が行われたのち、絵本づくりを行った

そこでCINRAさんの取り組みと山縣さんのワークショップに感銘を受け、ワークショップ終了後に話をさせていただきました。その出会いがきっかけで今回、CINRAさんから声をかけていただき実現しました。新しい価値観に触れ「この経験を生徒にも体験してほしい」という衝動に駆られたことを今でも覚えています。

―― 軽井沢高校は公立校ですが、「ちょっと試しにやってみたい」と申し出てすんなりGOサインが出るものなのでしょうか?

川上:Inspire Highの良さが伝われば、先生方も協力してくれます。内容を丁寧に説明し、生徒にとって良いものだという話をしました。あとは配信が隔週日曜なので、休日のイベントとして興味ある有志は参加してね、というかたちで進められるのも良かったと思います。

―― 受講する生徒さんはどう集め、どんな風に受けているのでしょうか?

川上:僕自身も生徒と一緒にスマホを使って受けました。生徒たちにとってスマホはあくまで「遊び道具」だったので、スマホを使って学ぶことはすごく不思議な体験だったようです。

―― 生徒さんたちの反応はいかがでしたか?

川上:始めは勉強と遊びの中間という印象で不思議がってもいましたが、徐々に慣れてくると全員が「面白い!」と言っていました。ガイドに自分のコメントが読まれたり、作品提出をしてフィードバックをもらったりした時に「自分のやったことが受け入れられた!」という喜びが大きかったようです。

ただ、配信が日曜日のため、オフという感覚が強く、気持ちの切り替えが難しかったようです。「学校に集まるかたちでやってほしい!」という要望もありました。

―― 今の子は「オンラインで他人とコミュニケーションを取る」という意味ではLINEやSNSなどでつながってる実感はあるのでしょうが、それとは違う体験だったということですか?

川上:それらとは違う雰囲気を感じたため、メリハリをつけたかったのかもしれません。Inspire Highの場合、テストの点数では測れない部分を評価するので自分の価値観が変わり新鮮だったと思います。

オンライン上で様々な10代の子と繋がり、自分を表現して、フィードバックをもらえるという経験は「新しい世界を知った喜び」に似ていると思います。音楽で例えると「ギターが弾けるようになってきた時の喜び」みたいな感じでしょうか。

―― 「できるようになったから、誰かに聴いてもらいたくなる」というか。

杉浦:なるほど。Inspire Highのガイド陣には自信を持っていますが、単に有名人をブッキングしたら喜んでもらえるというわけではないんですよね。同じスマホを使ってYouTubeの有名人動画がいくらでもタダで観られるわけで。

自分でも最初はセッションに参加してみたんですけど、ワークショップで課題を提出する行為は「答えがない問い」なので、それをポンと出すのは大人でもドキドキする。1つのツイート、インスタ投稿とはまたちょっと違う自分自身の表現をすることになるんです。

以前、中学生から「親と一緒に観ているんですが、課題提出を通じて自分の考えを親に理解してもらえたような気がします」というコメントをもらってすごく嬉しかったということがありました。親子とはいえ本音が言えなかったりすることもあるけど、深い問いの答えを通じて「この子はこう感じていたのか」というコミュニケーションもあるんです。

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