EVENT | 2025/06/04

生成AIは教育をどう変える?!
現場のリアルと未来へのヒント

Interop Tokyo 2025 特別企画 「教育AIサミット」 が開催

文・写真:カトウワタル (FINDERS編集部)

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株式会社ナノオプト・メディアが運営する国内最大級のインターネットテクノロジーイベント 「Interop Tokyo 2025」 が、2025年6月11日(水)から13日(金)の3日間、千葉・幕張メッセで開催される。今年のInteropのテーマは 「社会に浸透するAIとインターネット」。ビジネスの現場では急速に普及している生成AI。しかしながら、教育の現場では一部の学校では先進的な取り組みが進められているものの、普及という意味ではまだまだ導入に大きな差が見られるという。

そこで今回、Interop Tokyoの特別企画として教育現場での生成AI研修を行ってきた一般社団法人教育AI活用協会(AIUEO)と連携し、 「教育AIサミット」 が開催される。一般の来場者が 「教育×AI」 にふれる場をつくり、生成AIへの正しい理解を促進、すべての人がその力を活かせる未来の教育の実現を目指す場だ。

本記事では、「教育AIサミット」 の実施にあたり、教育AI活用協会代表理事の佐藤雄太氏に、Interop Tokyoプロデューサー/株式会社ナノオプト・メディア代表取締役社長の大嶋康彰氏が話を聞いた様子をお届けする。

佐藤 雄太 氏

一般社団法人教育AI活用協会(AIUEO) 代表理事/株式会社みんがく 代表取締役

筑波大学卒業後、大手予備校勤務を経て10年以上にわたり学習塾を経営し、全国規模フランチャイズ塾で最優秀オーナー賞を5年連続受賞した教育分野の実践者。2021年に株式会社みんがくを設立し、オンライン自習室 「みんがく」 や教育現場向け生成AIプラットフォーム 「スクールAI」 を開発。教育機関向けAI研修や大学との共同研究も推進し、2024年には教育AI活用協会を設立、日本最大級の教育×AIイベント「教育AIサミット」を主催するなど、生成AIと教育の融合を牽引している。

大いなる可能性を秘めた教育現場への生成AIの導入

大嶋:今回Interopの特別企画が実施されますが、昨年8月にも国会議員会館で 「教育AIサミット2024」 を開催されています。こうしたイベントを始めたきっかけを教えてください。

佐藤:生成AIが登場し、はじめてチャットGPTを使った際に、教育現場を大きく変える可能性を感じました。学校教育の現場では、先生が全ての生徒に細かく対応するのは難しく、「生徒一人ひとりに合わせた指導」 や 「個別最適な学び」 を実現するためにはAIは役立つと確信しました。生成AIは先生の負担を減らしつつ個別対応を可能にしますが、現場ではその価値や使い方が十分に理解されていません。新しいものへの抵抗感や、実際に触れる機会が少ないことが理由です。そこで、生成AIの魅力や活用方法を伝える場として 「教育AIサミット」 を開催しました。

大嶋:ありがとうございます。一方で政府のGIGAスクール構想の第2弾が進められていますが、ここには生成AIも含まれているのでしょうか?

佐藤:コロナ禍ではじまったGIGAスクール構想では、全国の生徒にデバイスが配布されました。現在はその入れ替え時期(セカンドGIGA)で、どんなソフトを導入するかが議論されています。AIを活用したソフトも注目されていますが、AI導入が直接の理由ではありません。また以前は私立と公立でデジタル利用の差がありましたが、デバイスの支給という点ではその差はほぼなくなりました。ただ、ソフトへの投資や活用は私立の方が進んでいる部分もあると思います。

大嶋:現在のAI普及率はどうでしょうか?

佐藤:文部科学省が指定した 「生成AIパイロット校」 ではAI活用が進んでいますが、多くの学校では導入が限定的です。子どもたちは家庭でチャットGPTなどを使いこなしている一方、学校現場では先生の方がAIの活用に遅れている場合もあります。ただ、子どもたちはAIの使い方を十分理解しないまま利用していることも多く、宿題の答えをそのまま聞いたり、悪用したりするリスクもあります。だからこそ、教育現場で 「AIの正しい使い方」 と教えることが重要で、その仕組みづくりが急務だと感じています。

大嶋:「教育AIサミット」 の印象はいかがでしたか?

佐藤:新しいツールを知り、体験してもらうことが教育を変えるきっかけになると感じました。全国から多くの方が集まり、体験や情報を広げる動きが少しずつ広がっています。これが今回の取り組みの最大の目的であり、実現できていると考えています。

一般社団法人 教育AI活用協会 代表理事/株式会社みんがく 代表取締役 佐藤 雄太 氏

現場の熱意がカギ!生成AI導入をめぐる教育現場のリアル

大嶋:日本で先進的な事例はありますか?

佐藤:新しい取り組みにチャレンジしている学校が増えていますが、学校ごとに差があります。英語の分野では英作文の添削や英会話の練習、社会科では歴史上の人物と対話できる機能を取り入れている学校もあります。対話を通じて歴史的な背景や当時の人々の考え方を学ぶことで、生徒たちの知識がより身につく工夫も増えています。一方、塾ではAIの誤回答が責任問題となりうるため、小論文の添削専用AIや問題作成の参考として講師側で使われることが多いと感じています。学校では表現力や探究的な学びのためにAIが使われており、生徒が自分の考えを深める「壁打ち相手」として活用されています。

大嶋:教育AI活用協会で生成AIの活用調査を実施されたそうですが、少しご紹介いただけますか?

佐藤:多くの教育委員会がアンケートに回答してくれました。89.9%の方が生成AIを活用した新しい教育への関心を持っていますが、導入には慎重な姿勢が目立ちます。現場で役立つ具体的な事例や安全な運用方法の情報が不足していることが主な理由です。そこで、私たちは具体的な事例や安全な使い方、専門家と現場をつなぐネットワーク作りに力を入れています。教育サミットや先生方が体験できるイベントも企画し、直接AIに触れてもらう機会を増やしたいと考えています。

教育AI活用協会、全国の教育委員会・学校288団体へ生成AIの活用に関する調査を実施 
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000132.000079497.html

大嶋:政府も生成AIの導入目標を設定していますが、現状についてどうお考えですか?

佐藤:政府は今年度末までに50%の学校で生成AIを活用するというKPI目標を設定していますが、実際の達成は難しいと思います。「使ったことがある先生が1人でもいればOK」 なら可能かもしれませんが、多くの先生がしっかり使いこなしている学校はまだ少ないです。今は一部の意欲的な先生だけが活用していて、多くの先生は様子見の段階です。

大嶋:現場ではキーマンとなる先生の存在が大きいのですね。

佐藤:はい。どの学校にもICT担当者はいますが、その先生のスキルや熱意で活用度合いが大きく変わります。管理職の理解も重要です。テクノロジーは目的や思いがなければ活用されません。熱意ある先生が担当になると、課題が一気に解決することもあります。

大嶋:現場に熱意ある先生を増やすために、政府は何か対策をしていますか?

佐藤:政府はAI活用のガイドラインを用意しています。最新のガイドラインではあくまで 「人間中心」 が前提ですが、AIを先生や生徒の可能性を広げるツールとして積極的に活用する方針です。教育委員会がAI利用を一律に禁止してはいけないとの記載もあります。英語教育でのAI活用実証事業など、文科省予算での具体的な取り組みも進んでいます。

大嶋:私たちも生成AIを活用していますが、今後は 「人がやること」 と 「AIがやること」 が両輪になると考えています。AI時代だからこそ、何をどう学ぶか、正しい情報の見極め方など教育の役割が重要ですね。

佐藤:日本は少子高齢化で人手不足が深刻化しています。今後はAIやロボットに任せる業務が増え、AIを使いこなせないと将来的に仕事の選択肢が狭まります。初等・中等教育でAIリテラシーの差が生じると、その後の人生にも大きな影響が出ます。全ての子どもがAIを使いこなせるようにすることが重要です。

大嶋:海外での普及状況はいかがでしょうか。

佐藤:中国やアメリカはAIの開発や導入に積極的で、自国主導で技術を発展させています。特にアメリカの教育現場ではテクノロジーの活用が進んでおり、家庭教師の仕事がAIに置き換わる動きも見られます。一方、ヨーロッパは人間の尊厳や倫理を重視し、慎重な姿勢です。

大嶋:ヨーロッパは規制も厳しそうですね。教育ビジネスにおいても、AIによる代替が進む可能性がありますね。

佐藤:AIは知識を伝える点では人間より優れている面もあり、何度でも丁寧に教えることができます。そのため、教育ビジネスの代表格、学習塾では、人間にしかできないことは何かを運営を展開する塾が増えています。生徒の目をしっかり見ながら対面で話すことでモチベーションを高めたり、将来について一緒に考えるなど人間ならではの価値を重視する塾も増えています。知識の伝達はAIでもできるかもしれないですが、先生から直接励まされることで得られるやる気はAIには難しい部分です。こうした人間的な関わりを重視する塾は、生徒数が増えるなどの逆転現象も見られます。

Interop Tokyoプロデューサー/株式会社ナノオプト・メディア代表取締役社長 大嶋 康彰 氏

大嶋:佐藤さんは 「みんがく」 も経営されていて、生成AI活用プラットフォーム 「スクールAI」 も展開されていますが、どのような取り組みなのでしょうか。

佐藤:スクールAIは教育現場向けのAIプラットフォームです。不適切な語彙の自動フィルタや学年ごとの漢字調整、答えをすぐには教えずヒントを出し生徒自身に考えさせる設計など、安全性と使いやすさなど教育的な配慮をしています。質問例を提示するボタンなどサポート機能も充実し、誰でも直感的に使える設計です。学校ごとの教育目標や学習指導要領を読み込ませることで、学校や先生ごとに教育方針や指導スタイルを反映したオリジナルAIも作成できます。現場ごとの多様なニーズに柔軟に対応し、子どもたちが主体的に学べる環境を実現する新しい教育支援サービスです。

先生とIT業界出会う場所-Interopが拓く新しい教育の可能性

大嶋:InteropにはIT業界の方が多く来場されますが、どのような期待をお持ちですか。

佐藤:教育現場では最新テクノロジーの導入が遅れがちで、こうしたイベントでIT業界の方々と交流したり、最新プロダクトを知ることは、先生や生徒にとって大きな刺激になると思います。また、教育に関わる人や、関わりたい人が実践を語り、仲間と出会う場をつくる場になって欲しいと願っています。教育分野に関心のある企業の方は、ぜひ気軽に声をかけてほしいです。

大嶋:今回は安河内先生の基調講演など、毎日さまざまなセッションがありますが、IT業界の方々にも教育の現場を少しでも知っていただけると嬉しいですね。

佐藤:そうですね。今回お招きした先生方は、実社会と教育のつながりや、子どもが社会に出た後を見据えた実践的な視点を持っています。ビジネスパーソンやIT業界の方にも分かりやすい内容ですし、今の教育の現状を知る良い機会になると思います。ぜひご参加ください。

大嶋:ありがとうございます。最後に今後の展望について教えてください。

佐藤:新しい取り組みを広げるには、保守的な先生方にも納得してもらえるエビデンスが重要です。東京学芸大学や玉川大学と共同研究を進め、その成果を現場に示して導入を促したいと考えています。また、学校では昔のパソコン部のようにAI部の活動も徐々に広がっており、将来的には甲子園のような全国大会イベントを開催し、子どもたちがAIを活用して課題解決に挑む姿を大人も学べる機会にしたいです。さらに、企業がスポンサー活動などを通して社会課題に関わる場をつくることや、AIに関心のある学校と専門家をつなぐマッチングプラットフォームを作り、良い教材なども紹介しながら、学びのエコシステムの中心的な役割を担っていきたいと思います。このような活動を一緒に創っていきたい、携わっていきたいと想っていただける方は、ぜひお声がけください。

大嶋:ありがとうございます。ちなみに、甲子園のようなAIコンペティションはすでにあるのでしょうか?

佐藤:中高生向けのイベントはまだ小規模ですが、IT業界主催のものはいくつかあります。ただ、中高生が主役の全国規模のイベントはまだありません。今後そういったイベントが盛り上がれば面白いですね。ぜひ一緒に取り組めたら嬉しいです。

大嶋:ありがとうございます。ぜひよろしくお願いします。


Interop Tokyo 特別企画 「教育AIサミット」https://www.interop.jp/2025/exhibition/educationai/

Interop Tokyo 2025

会期:2025年6月11日(水)~13日(金)
会場:幕張メッセ(国際展示場 展示ホール4~8 / 国際会議場)
主催:Interop Tokyo 実行委員会
運営:(一財)インターネット協会 / (株)ナノオプト・メディア
参加費:無料(展示会・講演) WEBからの登録制・会期3日間有効

公式ホームページ
https://www.interop.jp/