筆者の自宅近くのスーパーでも食料品が軒並み売り切れに
吉田和充(ヨシダ カズミツ)
ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director
1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
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今回は事態が事態だけに、いつものスロージャーナリズムではなく、もはやWHOも言うところの「コロナウィルスの震源地」と化してしまったオランダ/ヨーロッパより、現地の様子を緊急レポートします。
はじめに言っておきたいのは、このレポートで「ヨーロッパは危険である!」と煽りたいわけではまったくありません。しかし、先週から各国で学校の休校や、レストランなどの飲食店の閉鎖など自粛要請が相次ぎ、ついに日本時間の3月17日には「EUへの域外からの渡航が30日間禁止」(時事通信)というニュースが流れ、ヨーロッパでは緊張が非常に高まっています。
そこでオランダに在住する筆者が日本の状況と比べながら、オランダ/ヨーロッパの実態をレポートします。なお現在、まさに感染者数の激増、そしてそれに対しての緊急対策も各国でなされているため、記事執筆時点(2020/3/16夜@アムステルダム時間)での情報だということにご留意下さい。
もはや「アジア人差別」すら言っていられない状況に
オランダ・ユトレヒトで3月16日に撮影。本当に街から人が消えています
筆者は、2月上旬に数日間日本に帰国していました。今から1カ月半前のその時期、日本では例のクルーズ船の話題で持ちきり。ちょうど、「クルーズ船を横浜に接岸させるか、させないか」で、朝からワイドショーなどで大騒ぎしていたのを覚えています。
その頃ヨーロッパでは「アジアで流行している感染症だ」という認識がなされ、完全に対岸の火事という認識でした。
普段は差別がないと言われるオランダでも、当時はアジア人を見ると悪気なく「あらやだ、コロナウィルスじゃないわよね?」といった視線を感じることもありましたし、電車内で「黒人の若者が奇声を上げてるなあ」と思ったら、筆者の方を指さして口元をおさえ、ニヤニヤしながら何か言っているということもありました。あるメディアが、「アジア人は危険だ」的なことを言って、大顰蹙を買い、大きな抗議行動などが起こったりもしていました。
当時、筆者も日本に帰る際、少し身構えていたことを覚えています。マスクやアルコール消毒液をしっかり持って飛行機に搭乗しました。アムステルダムのスキポール空港では誰1人としてマスクをしてなかったものの、乗り継ぎ地のソウルではほぼ100%の人がマスクをしていて驚きました。
この頃でもやはりヨーロッパでは対岸の火事のまま。この後に意外なところから、ヨーロッパでの大流行をもたらす一つの原因となった時期を迎えます。それが、2月の最終週のバケーション。毎年、このタイミングでキリスト教由来のフェスティバルを行ったり、ヨーロッパアルプスへのスキーに出かけたりするのがオランダ人(ヨーロッパ人)のお決まりパターンなのです。多くの人は、1年前とか半年前からスキー場のホテルを予約して、このバケーションを楽しみにしているのです。
ここで盲点だったのが、イタリアでの大流行。この時点ですでにイタリア北部を中心に広がりを見せていたコロナウィルス。それでも大勢の人が、イタリア北部のアルプスのスキーリゾートへ出かけて行ったのです。実は、我が家も今年は念願の初ヨーロッパアルプススキーに出かけたのですが、たまたま予約したのがイタリアの隣にあるオーストリアアルプス。雪不足だったため、たまたまオーストリアにしたのですが、最初はイタリア行きも考えていました。
そして、実はこのオーストリアアルプスに滞在中に、その地でも初のコロナウィルス感染者が確認されたのです(これもイタリア人旅行者と、その旅行者に接したホテルのレセプションの人でした)。それを受けて、オーストリアはイタリアからの電車をすべてストップさせたというニュースがありましたが、現地ではまだまだ、「コロナウィルスはアジアの感染症」という認識が強くありました。その証拠に、スキー場では自分がリフトや、カフェ、レンタルショップなど行く先々で、子どもが口を抑えて逃げて行ったり、大人にも露骨にカフェで席を代られたりという区別というか、差別を受けていました。おそらく、そのスキー場自体にはアジア人はほぼ皆無。一緒にいったファミリーと、筆者たちだけが日本人(アジア人)だったので、目立っていたのでしょう。
しかし、このバケーションから各地に戻った人たちが触媒となって、それぞれの自国に大きく広がるきっかけの一つになってしまったのです。オランダでも、2月下旬から3月頭の感染者の多くが「イタリア帰り」という人たちでした。そして、もうこの時点ではイタリアの感染者数はうなぎ登りに。この時期を境に、アジア人のみを対象とした差別が消えていった印象があります。
そして、3月に入ってからは、感染者数の増加はイタリアだけではなく、スペイン、フランス、ドイツ、オランダ、デンマーク、スイス、ノルウェーなど、ヨーロッパ全土に広がり、もはや歯止めが効かなくなっていきます。
この時点になってようやく、「手洗いをするように」、「挨拶の時には握手やキスはしないように」などと盛んに言われ出します。そうなのです。オランダ人は普段、あんまり手を洗いません。目に見える汚れがあれば洗う程度です。挨拶では必ず握手します。ハグすることもあれば、キスだって普通にあります。濃厚接触が多いわりに、衛生観念が日本人に比べると低いと感じます。こんなことも感染拡大の要因の一つかもしれません。
そうこうしているうちに、感染者がヨーロッパ各国で1000人に、そして2000人を超えるようになってしまったのです。オランダでも原稿執筆時時点で、すでに1000人を超えてきています。オランダの全人口は1700万人なので、日本と比べるとその発症率の高さが分かるのではないでしょうか。
そして、ここに至ってついに、緊急対応がなされることになったのです。
学校は休校、大麻ショップも営業停止で行列に
新聞の一面が「ガラガラの街並み(左)」と「コーヒーショップの行列(右)」という対比。
先週後半あたりから、各国で軒並み外出自粛要請が出され、レストランなどの飲食店の閉鎖、学校の休校などが通達され始めました。オランダの場合は、15日・日曜日の夕方に自粛要請が発表され、その日の18時からレストランの営業停止が言われました。
オランダの場合、レストラン・カフェなどと一緒に、飾り窓(風俗店)やコーヒーショップ(大麻の小売店)などの営業停止が言われたことから、コーヒーショップの閉店前に長蛇の列が出きたりしていました。なんとなく、こういう意識が感染を蔓延させてしまっているような気がしてなりませんが。
あとは先週からスーパーでの買い占めが酷いです。ほぼすべての食料品が棚から消えました。宅配スーパーなどは、最短でも1週間先しか配達予約ができません。
「供給面は問題ないのでは?」とも思いますが、とにかく不安からか、広く買い占めが起こっています。消費スピードが異様に速いのです。生鮮食品までもが売り切れています。16日・月曜日にユトレヒト市内中心部に行ってみましたが、街はガランとしていました。企業からもリモートワークをします、という案内が多数来たりして、交通機関もガラガラ。月曜はもともと休みの店が多いものの、飲食店以外も閉店しているところが多かったようです。実は今、セール時期中なんですけどね。
雑貨屋の軒先でトイレットペーパーの在庫を強調。こんな風景、初めて目にしました
16日の夜に行われたルッテ首相のテレビスピーチ(こうした首相からの呼びかけは1973年のオイルショック以来だったそうです)では、感染者への配慮や、医療従事者への感謝を述べた後、「国民みんなでこの危機を乗り越えよう」という気持ちに溢れた素晴らしい会見でした。「感染のピークを遅らせて、重篤な状態に陥るような患者への感染をみんなで防ぐ必要があり、そのためには数カ月にわたる長い戦いになるかもしれない」と述べていました。オランダでは、当面4月6日までの自粛要請が出されています。
数日前には英国では、ジョンソン首相が「あなたの愛する人をコロナで失う可能性があるかもしれない」と英国でも感染が広まっている状態に言及し、フランスではマクロン首相が「衛生上の戦争状態だ」として、外出を禁止するなどしています。またいくつかの国が国境を封鎖したり、イタリア、スペインなどは非常事態宣言を出していたりもします。
今では、オランダの日本企業の駐在員には、「日本へ一時帰国をするかも?」という話も出ているようで、ここまで来ると、あまり実感のない方でもヨーロッパの大蔓延状態が分かってもらえるのではないでしょうか。
KLM(オランダ航空)が2000人を解雇するという発表は日本でも話題になりましたが、その他にも「今週中には飲食店などの倒産が始まるのではないか?」と言われています。またオランダでは、すでに2万社が解雇する従業員への支給金の申請をしているようです。このように、甚大な経済への影響も出始めています。
ヨーロッパではサッカーの各国リーグや、大きなスポーツ大会などもすでに延期しています。こちらでも「自粛が数カ月続くのではないか」「サマーバケーションまでのイベントが全部キャンセルになってしまうのではないか」というムードが広がっており、こうした世界的な状況から、各国でオリンピックの予選を行えない、選手選考ができない状態が続くと、東京オリンピックは開催できない状態に近づいていくと思われます。
日本でもヨーロッパ帰りの感染者が増えており、かなり厳しい視線に晒されているということも聞いていますが、ここまで厳しい状況を知ってもらえていれば、旅行や出張を延期してもらえていたのかもしれません。
今後も状況は刻一刻と変わるとは思いますが、おそらくみなさんが想像しているより、ヨーロッパではコロナウィルスが蔓延しています。日本のみなさんも「対岸の火事」と思わず、ヨーロッパの状況は常にチェックしておいてもらった方が良いかもしれません。