文:湯浅大輝
極寒の地、ロシア・シベリア。最低気温がマイナス60度にもなるこの地において、猫の凍傷は決して珍しいことではない。時には悲劇に襲われることもあるだろう。
そんな中、九死に一生を得た一匹の猫がSNS上で注目を集めている。
凍傷の猫、安楽死させず命をつなぐ
2018年の冬、シベリア・ノヴォグズネツク市で車を運転していた女性が、雪の中に灰色の猫を見つけた。後にディムカと名付けられるこの4歳の猫は、その女性に連れられ、獣医の元に届けられた。
ディムカは脚、耳、尻尾に凍傷を負っていたが、獣医のセルゲイ・ゴルシコフさんは安楽死させるのではなく、すべての脚を切断し生かそうと決断する。
『The Moscow Times』によると、ディムカは家から逃げ出したか、窓から落ちたとゴルシコフさんは考えているという。「残念ながら、動物の凍傷はシベリアでは非常に現実的な問題です」とも。
新たな脚、誕生の軌跡
ゴルシコフさんと彼の同僚は、トムスク科学技術大学の科学者たちに掛け合い、ディムカの義足を作ることにした。
まず科学者たちは、リン酸カルシウムのコーティングを施したチタン製のインプラントを開発。このコーティング剤は、脚の骨にしっかりと固定し、感染症のリスクを抑える効果がある。また、CT検査の結果を元に、3Dプリンタで義足を制作した。
2019年7月、ディムカは最初の手術を受け、新たな脚を手に入れた。そして同年12月、ゴルシコフさんは、ディムカは器用に前脚を使ってストレッチをし、元気に歩き回っている姿を、YouTubeに投稿した。この動画は、ロシア国内外38万回以上再生され、ゴルシコフさんは称賛を浴びている。
発見時から約1年で脚を取り戻したディムカ。現在は、凍え死にそうなところを救ってくれた第一発見者の女性と一緒に暮らしている。ディムカの奇跡には、テクノロジーの発展が貢献していることも確かだ。しかし、第一発見者の女性や、ゴルシコフさん、科学者たちの助けがなければ、どうなっていただろうか。
極寒の地でひっそりと花咲いた心温まるエピソード。教訓は「愛こそすべて」だ。