文:大塚ちえ
最愛の子どもの言葉というのは、親の生き方をまるごと変えてしまう威力があるようだ。
15年もの間、ドラッグで刑務所を出入りしていた男性を変えたのは、4歳の息子だった。
息子と離れ離れの日々
4年前、米国ウェストバージニア州マウントホープの自宅で、覚醒剤のメタンフェタミンを製造していたとしてジェイソン・ウィックラインさん(41歳)は逮捕された。それと同時に、4歳の息子クリスティアン君を育児放棄したとし起訴され、児童保護サービスにより親子は引き離されてしまった。
別れ際、クリスティアン君は振り返り、「お父さん、愛してるよ。決して忘れないよ」と叫んだ。「彼は4歳だったし、きっと彼も二度と父親である私に会えないと思ったんでしょう」と、ジェイソンさんは『TODAY Health』の取材に当時を振り返る。
20代の時からドラッグに手を出して、15年間も刑務所を出入りしていたジェイソンさん。実は、幼少期に虐待に遭っており、その辛い過去から、周囲の人間が自分に対して気の毒に思うべきだとずっと感じてきたという。どこか馴染めず、世界が不平等であると思ってきたのだった。
しかし、裁判所でドラッグ依存症の長期治療の機会を与えられたジェイソンさんは、そのチャンスに自らの人生を掛ける決意を固めたのだ。
依存を克服し、親権を取り戻す
13カ月の依存症の治療を受けた末、ジェイソンさんは適切な住居を見つけることなどを条件に30カ月の執行猶予を宣告された。
ジェイソンさんは自分が引き起こした事件で結果的に、家も友人も、そして息子の親権も失った。しかし、現在はジェイソンさんは依存症を克服し、見事クリスティアン君の親権を取り戻すことに成功した。
2人の関係も非常に良好で、先日もクリスマスにプレイステーションを買ってほしいと頼まれたのだそう。しかし、クリスティアン君は「でももしプレイステーションが手に入らなくても、お父さんという世界で最高のプレゼントがあるんだよ」と話したという。
依存症の希望のシンボルに
ジェイソンさんは、依存症からの回復を目的とした団体「More than Addiction」に参加。そして「#RecoveryChallenge(リカバリー・チャレンジ)」で、自らの経験談をSNS上でシェアしている。ジェイソンさんは、依存症の人たちにとっての希望のシンボルとなった。
今年7月、ジェイソンさんは、自らの依存症の前後の写真を公開した。この投稿が最近になり、大きな反響を呼んでいる。ジェイソンさんは依存症の時の自らの写真を「空の貝のようだ」と語る。それもそのはず、ジェイソンさんは173センチも身長があるにも関わらず、当時54キロしか体重がなかったのだ。
父親を信じ続けて待っていたクリスティアン君と、自分自身と闘い依存症を克服したジェイソンさんは、今後もずっと深い絆で結ばれ続けることだろう。