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阿曽山大噴火
芸人/裁判ウォッチャー
月曜日から金曜日の9時~5時で、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。パチスロもすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。
「申し訳ないことして、ゴメン」超フランクな反省文
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本題の前に、前回と前々回の被告人にアルファベットを書き忘れていましたね。E被告人ということで。ちなみに、E被告人は判決後にイベントの司会をやっていたようなので、ファンは一安心という感じでしょうかね。
罪名 傷害
F被告人 ホストの男性(23)
起訴されたのは、今年の10月17日午後7時50分。東京都新宿区歌舞伎町のカラオケボックスの室内で、堀井サラ(25・仮名)の顔面に複数回頭突きをして、全治1カ月のケガを負わせたという内容。ニュースだと、知人に「音痴」と言われてケンカになって、仲裁に入った女性に頭突きしたと報じられてたんだけど、事実はどうだったのか? 報道内容が必ずしも正しいとは限りませんからね。
検察官の冒頭陳述によると、F被告人は高校を中退して職を転々とし、犯行時はホストクラブで働いていたという。前歴は1件あるものの前科はないので、今回がはじめての裁判ということになります。
そして、犯行当日午後一時過ぎ。F被告人は後輩ホストのリョータ(仮名)、常連客の堀井サラ(仮名)、そして、堀井サラの友人である森川あゆみ(仮名)の4人で公園で待ち合わせをして、居酒屋へ。4人で飲酒したあと、犯行現場であるカラオケボックスに移動したという。歌を歌っているうちに、F被告人は眠ってしまい、森川あゆみにお酒をかけられたらしい。すると、F被告人は「ふざけるなよ」と立腹し、リョータに対して暴力をふるったという。そんなF被告人を止めようと、堀井サラが仲裁に入ったところ、F被告人が頭突きをした、というのが事件の流れになります。
お酒をかけたのが、森川あゆみなのに、なぜ、リョータに殴り掛かったのか不思議ですよね。一体、何があったのか。
取り調べでF被告人は、「記憶があいまいだが、被害者が言うのであればその通りで間違いない。前日は朝まで仕事していて、眠かった」と供述しているそうです。職業的に朝方までお店にいて、寝不足だったんでしょう。もしかしたら、犯行の前の時点で、お酒も残っていたかもしれませんね。
次に、弁護人の立証です。持ってきた証拠は2つ。1つ目は、F被告人のお姉さんが書いた上申書で、母の看病があるので今日は出廷できないという内容です。もうひとつは、F被告人が書いた反省文。それが、
弁護人「反省文は朗読させていただきます。えーー、“サラちゃんにもあゆみちゃんにも申し訳ないことして、ゴメン。オレが楽しませなきゃと思って、キャパも考えず飲みすぎてしまってこんなことになって。もう、外では飲まない。オレは問題を起こす時はいつも飲んでいて……”」
反省文で一人称をオレ、被害者を下の名前でちゃん付けって。反省文の中に、キャパなんて言葉が入ってくるのも珍しいですね。でも、被害者は常連客なわけで、急にかしこまった文章になるよりは、普段の言い方で口語体の反省文の方が伝わるものがあるのかもしれませんね。逆にアリかも。
ズボンとパンツを下ろされて、お尻にお酒を3回かけられる
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そして、被告人質問。まずは、弁護人から。
弁護人「被害者とは今年5月、お客として来店して、知り合ったと。その後は?」
F被告人「ホストと客というよりは、友達みたいなかんじでした」
弁護人「男女の関係は?」
F被告人「ありました」
元常連の彼女ってことなんですかね。
弁護人「なぜ4人で飲むことになったんすか?」
F被告人「リョータにお客を一人増やしてほしいと思って、サラの友達の森川あゆみを紹介しようと」
弁護人「どんな性格の女性と聞いてました?」
F被告人「酔うと暴言吐いたり、ちょっかい出してくると」
弁護人「そう聞いて被害者に何か言いました?」
F被告人「リョータのために設けた会だったので、早く止めてと」
後輩に紹介する女性は酒癖が悪いと事前に聞いていて、何かあったら制止しようと話し合ってたみたいです。
弁護人「カラオケではどれくらい飲みました?」
F被告人「結構な量、レモンサワー10杯くらい」
弁護人「なんで、そんなに飲んだんですか?」
F被告人「森川あゆみが人見知りで話せないということで、盛り上げるために飲んでました」
酒を飲まないと話せなくて、飲みすぎると暴言を吐く女性か。なんか、面倒くさい……。
この会をセッティングしたので、F被告人は盛り上げ役に徹したということでしょうかね。
弁護人「酔った森川あゆみさんが、ちょっかいを出してきたんですね?」
F被告人「はい。うつぶせで寝てたら、ズボンとパンツを下ろされて、お尻にお酒をかけられました」
弁護人「それで怒った?」
F被告人「いや、2回目、3回とお酒をかけられてもガマンして、歌ったりしてて。あゆみから、あの……ちゃちゃ入って、ガマンできず」
お尻にお酒をかけられたのは3回あったんですね。その後のちゃちゃで爆発したと。裁判では明かされなかったけど、これが「音痴」発言だったのかなと。
弁護人「それがなぜリョータに暴力なの?」
F被告人「4人が合流する前に、何とかしろって言ってたのに、お酒をかけられても止めなくて」
弁護人「サラさんに暴力ふるったのはなぜ?」
F被告人「リョータに怒ってる時、サラに向かって、“お前もお前だ”ってムカついてて」
なかなかの地獄絵図。質問されなかったけど、この時、森川あゆみはどんな様子だったのやら。
弁護人「示談の方はどうなりました?」
F被告人「金がないから分割でと。でも、支払いのたびに事件を思い出すからと拒否されました」
相当怒ってて、一括支払いを望んでいるようです。
弁護人「家族とあまりうまくいってなかったみたいだけど、面会には?」
F被告人「ニュース見て、来てくれました」
弁護人「今後家族とはどうしていきますか?」
F被告人「定期的に会ったり、連絡とりたいです」
本件で唯一良い方向に動いた事柄と言えましょう。そして、今後は仕事を探すと約束して質問終了。
お酒をやめる宣言をしない正直すぎる被告人
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続いて、検察官からの質問です。
検察官「堀井さんにムカついてたのはなぜですか?」
F被告人「サラに止めて欲しかったので」
検察官「あなたの暴力は自分では止められない?」
F被告人「ムカつきと酔いで正常な判断ができませんでした」
検察官「以前、酔って元カノに暴力ふるったという事件を起こしてますよね」
被告人も酒癖が悪いようです。なので、検察官が確認です。
検察官「今後お酒は?」
F被告人「外では飲まずに。イライラしたらその場を離れます」
検察官「ん? 酒は断たない?」
F被告人「やめようという気持ちはあります」
酒をやめるとは宣言しませんでした。やめる気がないのに断酒するってウソつくよりは正直だけど。
最後は、裁判官からの質問。
裁判官「堀井さんにはいくら払うの?」
F被告人「自分の中じゃ定かじゃないですけど、一生かけて払っていきます」
一生かけてって。一括で払ってほしがっているのに。
裁判官「あなたの今の住所って何処?」
F被告人「ホストクラブの寮です」
裁判官「ホスト辞めたら出なきゃいけないよね。どうするの?」
F被告人「実家は戻るの厳しいって言われたので、友人宅に居候です」
後輩にお客を紹介する立場だったのになぁ。
この後、検察官が懲役1年6月を求刑して閉廷でした。
そして、初公判から6日後の12月12日判決が言い渡されました。
結果は、懲役1年6月執行猶予3年保護観察付き。執行猶予にした理由は、前科が無いこと、まだ若いので社会内での更生が期待出来ること。そして
裁判官「現実味はさておき、被害者に分割で弁済すると約束していることも考慮しました」
だと。現実味はさておきって!心意気は信じましょうって意味なんですかね。そして、少年時に事件を起こしてるってこともあって保護観察付きにという結論に至ったようです。
保護司さんに逐一連絡するのも大変らしいって聞くけど、あゆみに3回もお尻にお酒掛けられてガマン出来た被告人だから心配ないでしょう。