取材・文・写真:赤井大祐
2019年12月17日、SHOWROOM株式会社による、「ショールーム エンタメテック・カンファレンス2019」が行われた。会場は先月オープンしたばかりのSHIBUYAスクランブルスクエアの15階にある、渋谷QWS(キューズ)。これからのエンターテイメントを考えていくにはピッタリの場所だ。
まずはCEOの前田裕二氏が登場。現在、日本の余暇市場は72兆あると言われているにも関わらず、映画、TV、ライブ興行などのエンタメ市場は5兆円にも達していないという。しかし、「エンタメ市場はまだまだこんなもんじゃない。もっと世界に感動を発信していける」と前田氏は語り、『すべての人生に、夢中を』という新たなコーポレートスローガンとともに、現在をSHOWROOMの第二創業期であると位置づけた。
これからのSHOWROOMは、単なるライブ配信プラットフォーマーではなく、優良なコンテンツとテクノロジーの力を持った『エンタメテックカンパニー』へと成長させていくことを説明し、そしてそのために柱となる3本の事業についての発表が行われた。
新規事業その1:“プロが作る”縦型動画プラットフォーム
新たな動画コンテンツについて自ら発表を行う前田氏
今まで、プロによって制作されたいわゆるプロコンテンツとの接触は、テレビや映画、Netflixといったサブスクリプションサービスなど、基本的にまとまった時間で、なおかつ自宅でリラックスした状態で行われていた。一方、移動中やちょっとした待ち時間など、スキマ時間に楽しまれていたのは、TikTokやYouTubeに投稿されたかわいい動物の動画など、いずれもアマチュアによって作られたコンテンツが中心だった。
それでは、そのスキマ時間市場にプロが本気で作ったコンテンツを当てたらどうなるのか?そんな発想から生まれたのが、プロによる縦型動画のコンテンツプラットフォームだ。
コンセプトは「Short, but Deep」。サービス名などはまだ未発表とのことだったが、隙間時間にサクッと楽しめる尺で、プロによるコンテンツのみを配信していくとのことだ。「文字通り、短い時間の中で、深く感動できる作品を提供していく」と語った。
そしてこれを可能にするのが5G回線の登場だ。今までのスマートフォン上で行われる通信量ではプロの満足のいくコンテンツを提供するには心もとなかったが、5Gの登場によってそういったハードルも取り払われるとのこと。「5Gの登場を本当に楽しみにしている」と前田氏は嬉しそうに語った。
なお、サービスは2020年3月までの正式な発表を予定しているとのことだ。
新規事業その2:忙しくても楽しめる「耳密度の高い」プロ制作の音声コンテンツ
スキマ時間に楽しむプロ作成の動画が「手が空いているとき」に楽しむものだとすると、「手が空いていないとき」に楽しめるのが音声コンテンツだ。
今までの音声コンテンツといえばラジオが主流であったが、それはマスに向けて制作されたいわゆる「耳密度が低い」ものだと前田氏は話す。さらに言えば、ラジオはフロー型のモデルであり、基本的に手元にストックしておけるものではない。
「耳密度」が高くなおかつストック型のものと言えば、個人が自分の趣味の中で聴いている音楽だが、音声コンテンツではpodcastなどはありつつも代表的なものが無く、その市場を狙っていくと発表した。
こちらもサービス名などは発表されなかったが、すでにニッポン放送との提携が決定しており、ニッポン放送が持つコンテンツ開発力と、SHOWROOMのもつテクノロジーをかけ合わせた「耳密度の高い」音声コンテンツを提供すると話した。
なお、こちらもローンチは未定だが、動画コンテンツよりも後の発表になるとのことだ。
新規事業その3:AR/VRを活用したライブ3.0の時代へ
次に登場したのはCTOを務める佐々木康伸氏だ。佐々木氏は、SHOWROOMが展開する次なるライブの形=ライブ3.0となる「SHOWSTAGE」というサービスを発表した。
現在のライブ市場自体は順調に右肩上がりだが、興行の少ない地方在住者などの移動距離・コストの問題と、会場不足によるキャパシティの問題があると佐々木は指摘。そしてそれを解決していくサービスが、AR/VRを活用した『SHOWSTAGE』となる。
SHOWSTAGEは3DのキャラクターをARで画面上に映し出し、その場でライブ配信を楽しむことができるものだ。角度はもちろん、対象の大きさなどをタッチ・ピンチをつかって自由に変えていける。
そしてここでも5G回線による超大容量の通信が重要となってくる。現在は通信量の限界などもあり、デモンストレーションでは既存のデータを用いたものだったが、ゆくゆくはアイドルやミュージシャンなど、生身の人間を撮影した映像がライブ配信され、どこにいてもより臨場感のあるライブを楽しめるようになると語った。
会場に設置されたデモンストレーションの様子。現在はすでに撮影されたものをARとして映しているが、5Gが実用化されていくことによって、リアルタイムでのライブ配信も可能になってくるという。
SHOWROOMによるプロデュース事業
マイクは再び前田氏へ。ここでは先に紹介した3つの事業と、すでにある「SHOWROOM」とのシナジーこそが最も重要であると強調し、SHOWROOMによる「プロデュース事業」を発表した。
この事業については6年間SHOWROOMを続けていく中で得た2つの「気づき」が鍵になったという。1つは、SHOWROOM内である程度のファン、知名度を手に入れた演者もその状況に100%満足はしておらず、テレビなどに出演する芸能人のように、一般人ではなりえなかった「スター=偶像」となることを望んでいること。2つ目が、SHOWROOM内での人気と実力は必ずしも比例しないということだ。
そこで、SHOWROOM内で人気はあるが、プロの世界でやっていけるほどの実力を持っていない演者に対してプロデュースを行うことで、誰かの偶像となれるよう、より高いクオリティで、さらなるステージへと上がっていく手助けをするというわけだ。
DeNAとの連結を外し、上場を目指す
最後に登場したのはCOO(最高執行責任者)唐澤俊輔氏。
SHOWROOMの会員登録者数は330万人にものぼり、現在も右肩上がりを続けているという。そしてSHOWROOMがKPIとして掲げる2つの数字が、「パフォーマー」と「サポーター」の数だ。現在配信を行うパフォーマーは27万人。コメントやギフティングで支援を行うサポーターは17万人に達し、こちらも順調に増えているとのことだ。
そして、単なる量的な指標だけでなく、ルーム内においてどれだけコメントがついたか、どれだけギフティングが行われているのかという数値も照らし合わせることで、SHOWROOM内での熱量はたしかに上がっている、と質的な評価もすることができたと語った。
そして最後は質疑応答の時間に移り、再び3人が登壇。上場への道のりを尋ねられた前田氏は「今年度内には親会社であるDeNAの持ち株比率を下げることで、連結を解消し、来年度からは会社、コンテンツともにフレッシュな状態で再出発していく」と語った。
日本中の強力なコンテンツを結集し、自社の持つテクノロジーの力でそれをドライブしていく。今回発表された動画・音声コンテンツ、SHOWSTAGEの発表を通して、SHOWROOMは『エンタメテックカンパニー』としての歩みを確かに進めていると感じた。