思わず働きたくなる魅力ある企業の要素として、今春から始動した働き方改革関連法案は重要な役割を担っている。そんな中、“エンプロイヤーブランド”を推進する取り組みとして、世界最大級の総合人材サービス「ランスタッド」が主催するアワードが、「エンプロイヤーブランド・リサーチ〜いま最も働きたい企業2019〜」だ。
今回紹介するのは、その受賞企業の一社である、株式会社湖池屋。同社は日本で初めてポテトチップスの量産化に成功し、カラムーチョ、スコーンなど数多くの人気商品を世に送り出してきた。
2016年からは新生・湖池屋としてリブランディングし、真のおいしさを追求した「KOIKEYA PRIDE POTATO」や「じゃがいも心地」といった、これまでの市場にはない画期的な商品をリリースして話題となっている。
新生・湖池屋となった現在の社風、そして働く人のやりがいに迫った。
取材・文:庄司真美 写真:多田圭佑
スナックにイノベーションを起こすことで成長してきた歴史
近年、老舗スナックメーカー・湖池屋の進化はめざましい。日本産のじゃがいもを100%使用し、理想のおいしさを追求した「KOIKEYA PRIDE POTATO」は、グッドデザイン賞を受賞。また、近年、東京都美術館で開催されたムンク展と「カラムーチョ」のコラボ商品「ムーチョの叫び」やB'Zと「KOIKEYA PRIDE POTATO」のコラボ商品「B'z PRIDE POTATO ULTRA NORISIO」がネットで話題に。
数々の革新的な商品企画や製造を仕掛け、近年グローバル展開も強化する同社管理本部人事部 部長の八代茂裕氏、管理本部人事部次長兼人材マネジメント課課長の田畑健太郎氏に話を伺った。
湖池屋管理本部人事部 部長の八代茂裕氏。
―― ロングセラー商品に甘んじず、新しいものを生み出せる企画力の源泉はどこにあるのですか?
八代:そもそも弊社では、「湖池屋 ポテトチップス のり塩」を1962年に発売し、その後日本で初めて量産化に成功し、激辛ブームの火付け役と言われた、辛くておいしいポテトチップス「カラムーチョ」というブランドを1984年に立ち上げて大ヒットさせました。これまで世の中になかった商品を市場に提供することで会社が大きくなってきた経緯があります。
その中心にいたのは社員であり、当時から今でいう“イノベーション”を市場に興し続けるかたちで人材も成長していきました。当然、社員だけでは世界観に限界があるので、昔からいろいろなパートナー企業を巻き込み、共創することで事業を大きくしてきたからこそ、今もイノベーションに近いことが起こせていると考えています。
2016年のリブランディング以降、新生「湖池屋」として、お客さまに喜んでもらえる商品を作り、応援される会社になるというビジョンがまとめられた冊子。
少数精鋭で若手のアイデアが生きる商品開発
―― 他ジャンルに興味のアンテナを張ったり、得意分野があったりする多様な人材が多いのですか?
八代:確かに弊社にはユニークな人材が多いですね。今、流行しているASMRに注目し、スコーンを食べた時の咀嚼音を「スコ音」と名づけ、スコーンをかじるだけで気軽に音楽づくりが楽しめるウェブサービス「スコ音BEATMAKER」のプロモーションを企画したのも若手社員です。社員1人1人のアイデアが反映されやすいコンパクトな組織(海外のグループあわせて従業員数720人)なのが、弊社の特徴でもあります。
あまり上下関係を意識しない社風もありますね。2016年に社長に就任した佐藤は常にオープンで、執務室のドアはいつも開かれ、社内ではフランクなコミュニケーションがあります。社員にはたとえば、プロに近い音楽家がいたり、かつてパイロットを目指していた人がいたりします(笑)。
基本的には、学生時代に何かを突き詰めてやりきった人が多いですね。企画会議についても、1人1人が個性の塊のような感じなので、個性を持つ者同士が議論し合うことで、新しい価値が生まれやすい社風だと感じています。
湖池屋管理本部人事部次長兼人材マネジメント課課長の田畑健太郎氏。
田畑:新卒採用のスタンスとしても、学生時代に何かをやりきった人を評価する部分は大きいです。弊社のビジョンとして、「挑戦」がひとつのキーワードとしてあり、全包囲網的というよりは、何かに特化し、局所的に攻めていくスタンスが必要だと考えています。何かに特化して深堀りし、挑戦し続けることができる人材は常に求めているところです。
トライ&エラーを積み重ねてほかにはない商品開発へ
―― 挑戦の数が多いほど失敗は付きものですが、失敗について会社はどんなスタンスですか?
八代:少数精鋭の企業なので、緻密にプランを練る時間もなかなかとれないし、時には失敗もあるということに関しては、相対的に寛容な方だと思います。ただしその際、会社からは「いつまでも挫折せず、エネルギーを出し続ける」「同時に学び続ける」という2点は求められます。
今後、弊社では海外進出を強化していくこともあって、グローバル展開に興味を持って入社する社員も多くいます。いずれにせよ、現地でゼロから立ち上げる事業ですので、そこから作り上げていく気概が求められます。弊社は売り上げ規模の割には社員数がそれほど多くないので、1人当たりの裁量は大きいです。若いうちから失敗を恐れず重責を担って成長を促す社風なので、やりがいがある仕事でキャリアを積めるという点では、非常に魅力的な会社ではないかと思います。
―― 今回、「働いてみたい成長企業2019」を受賞し、評価された点をどのように捉えていますか?
八代:2017年2月にリリースし、大ヒットした「KOIKEYA PRIDE POTATO」の影響もあって、イノベーティブな仕事ができる会社という点で評価をいただいていると考えています。この時代にこれだけいろいろなチャレンジができて、それが市場でも評価いただいていることに関して、興味を持っていただけたと思っています。
「KOIKEYA PRIDE POTATO」は、ひとつの商品を通じてすべてを改革するという新生・湖池屋のスタンスを象徴する商品です。構想も作り方もパッケージも価格もすべてこれまでとは違うので、マーケティングも営業も工場も全部署がこれまで経験したことのないチャレンジをしていますが、結果、みんながひとつになって成功したと考えています。
新卒採用時には、「弊社は大企業ではありません」ということをまずは説明します。それにも関わらず、世間では採用は売り手市場ですが、おかげさまで弊社には、「人と違うことをやりたい」「ぜひ働いてみたい!」ということでエントリーしてくれる人が、年々増えています。
―― 働き方改革関連法案が4月から施行されましたが、これまで注力してきたことは?
八代:もちろん法令は遵守していますし、働き改革プロジェクトを立ち上げて話し合いもしてきました。手始めにやりやすいところからということで、週に2回、スーツを着ないで出勤する「カジュアルデー」を設けて、プロジェクトごとに分けられたチームを超えて、オープンな輪を広げる取り組みをしています。
それから一昨年、人事制度自体を見直しました。まだ課題は残っていますが、社員1人1人が自身の能力を主体的に開発し、それがいかにイノベーションにつながるかという取り組みを始めています。
―― 御社が考える、働きがいのある環境とはどのようなものだと考えていますか?
田畑:弊社の経営理念には、お客様の満足度の高い商品やサービスを提供することを一番上に掲げていて、そうしたものを世の中にアウトプットできる仕事がやりがいにつながるのではと考えています。少数精鋭の組織の中で、1人1人がその理念に携わっている実感を持てる職場だと思います。社会貢献しながら、自分の活動がそのまま自身の表現にもつながる点も、やりがいとなります。
―― 最後に、御社にとっての大きな節目である2016年のリブランディング以降に定まった今後のビジョンについてお聞かせください。
八代:営業やマーケティング部門、製造部門がそれぞれプライドを持って仕事をしていることは、メーカーではよくあると思いますが、以前は「自分たちの領域に関しては他部署の人に立ち入ってもらいたくない」という面がありました。そこで、“3本部連携”という考え方を導入し、部署の垣根を壊して、すべての本部が連携してお客様により良いものを提供できる組織にシフトしました。
弊社ではもともと難しいことにチャレンジする社風であるため、確固たるバリューチェーンを構築することが求められてきました。これまで以上に風通しのいい方針を打ち立てたことで、社内の士気が一層高まった経緯があります。具体的には、連携をとるための部門を設置して、会社全体をコーディネートするイメージです。日々変化する世の中に合わせて、3本部が連携することで、お客様に満足度の高い製品やサービスを提供できるよう努めています。