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文:岩見旦
4月に入り、多くの会社で開催されている新入社員の歓迎会。お酒を飲みすぎてハメを外し、次の日は二日酔いで仕事に身が入らない経験をした人もいるだろう。
しかし、5年以内には人類は二日酔いから解放されるかもしれない。
肝臓や脳には負担をかけない夢のお酒
英国インペリアル・カレッジ・ロンドンの神経精神薬理学の教授のデビッド・ナット氏は、二日酔いのない合成アルコール「Alcarelle」を開発した。
通常、アルコールを飲むと脳内のGABA受容体が刺激され、ほろ酔いや二日酔いなどの反応が起こる。このGABA受容体には15種類に細分化でき、それぞれ異なる作用を引き起こすという。酩酊状態など、良い作用を持つものだけを人工的に作り出したのがAlcarelleだ。
アルコールのメリットを残しつつ、肝臓や脳には負担をかけない夢のお酒だ。
アルコールの危険性を懸念し開発
精神科医としてこれまで多くのアルコール・薬物依存症の患者を治療し、その研究に携わってきたナット氏。10年前、政府の諮問委員会に所属していたナット氏は、多くの研究結果が公表されているにも関わらず、アルコールの危険性が低く判断されていると疑問を投げかけた。しかし政府はそれを認めず、ナット氏は解任された。
その後、ナット氏は「アルコールがヘロインやコカインよりも社会的に有害である」と医学雑誌に寄稿し、Alcarelleの開発を始めた。
「業界はアルコールが有毒物質であることをみんな知っている」とナット氏。「もし今日アルコールが発見されたら、違法になるだろう。食品の安全基準に照らし合わせると、アルコールの安全な摂取量は1年にグラス1杯のワインになる」とも。
しかし、ナット氏自身は禁酒しているわけではない。就寝前に少量のシングルモルトを嗜んでいる。さらに、娘とともにワインバーを経営している。ナット氏は「私はアルコールに反対しているわけではない。むしろ好きだ。しかしより良い選択肢があればいいでしょう」と語っており、Alcarelleをメニューに追加することを望んでいる。
5年以内に販売予定
ナット氏とビジネスパートナーのデビット・オレン氏のチームは、5年以内の一般販売を目指している。安全性を実証するため、科学者とタッグを組んでテストを行っている。
Alcarelleは、酒造メーカーの目の敵にされていると思われるかもしれないが、実際はアルコール業界の投資家の方からアプローチを掛けられているという。ナット氏は「2050年までにAlcarelleは普通のアルコールに取って代わる」と自信を見せる。
下戸の人もアルコールを楽しめる時代がもうすぐ来るのかもしれない。