文:岩見旦
日本の不動産業界に黒船襲来
スマートフォンひとつで物件探しから住まいの契約、退去まで手軽に行えるサービス「OYO LIFE」が3月上旬に登場する。
「OYO LIFE」は敷金・礼金・仲介手数料が0円で、初期投資を抑えることができる。また、すべての部屋が家具・家電付きで、Wi-Fiも完備しており、面倒な手続きが不要。3日間の「住み試し」もでき、実際に住んで契約を検討できるのもメリット。「旅するように暮らす」をコンセプトとしている。
部屋は、家賃4万〜6万円の「シェアハウスタイプ」、10万円〜15万円の「マンションタイプ」、25万〜45万円の「戸建てタイプ」の3種類。まずは東京23区でサービスを提供し、以降順次拡大予定とのこと。
孫正義も出資するインドのベンチャーが運営
このサービスを提供するのはインド発のホテル運営ベンチャー「OYO Rooms」。2013年に当時19歳だったリテシュ・アガルワル氏が起業し、ホテルビジネスにデジタル革命を起こし、創業から2年で客室数がインド最大手になった。
現在は1万3,000以上もの物件を運営し、中国やマレーシアなど8カ国で500の都市に展開。孫正義率いるソフトバンク・ビジョン・ファンドも出資する急成長企業だ。
日本での運営は、OYOとヤフーが設立した合弁会社「OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN」が担う。なお、日本で行うサービスはホテルではなく、あくまでも「ホテルのように借りられる賃貸住宅」である。
ITを駆使した運営戦略で急成長
同社の成長の武器は、ITを駆使した運営戦略だ。日経新聞の2018年10月20日付け記事によると、約8,500人の社員のうち、700人以上がデータサイエンス、人工知能、ソフトウェアなどのIT技術者。宿泊需給データをAIで常時分析し、ホテル全体の稼働率を最大化している。
OYOはAIを活用した需要予測と、需要に応じて価格を変動させるダイナミックプライシングにより、従来3~4割だったホテルの稼働率を7~8割まで高めたという実績がある。
日本の住まい方が、もしかすると変わるかもしれない
このニュースが報じられると、SNS上には「これは住んでみたい!」「なんで今まで無かったんだろう?」「日本の古い不動産サービスに外資が今、求めらているもので殴り込んでくる感じか。素晴らしい」など、サービスを称賛するコメントや旧態依然とした不動産業界への不満の声が寄せられたが、日本でも以前から敷金・礼金・仲介手数料が0円で、家具付き・ネット回線無料が珍しくない賃貸住宅サービスは存在している。それはウィークリーマンション、マンスリーマンションである。
これらの物件は1週間~1カ月単位で利用可能で便利だが、一般的な賃貸住宅と比較すると物件の総数は少なく、また家賃も割高になりがちだ。OYO LIFEのサービス正式ローンチに先駆け、すでにGoogleマップ上に掲載されたサービス登録物件一覧を見ることができるが、例えば京王線・笹塚駅前のある物件の家賃は築19年・1Rで11万9,000円となっている。
だが物件の位置や建物・部屋のグレードがどうか、そして各人の好みなどもあるし、これだけをして「割高で良くない」と指摘できるわけではまったくないが、一般的な賃貸住宅も容易に選択可能である立場からすると「探せば同等の条件でもっと安い物件もあるかもしれない」と思ってしまう人は少なくないだろう。すべての登録物件は建物名も記されているので、賃貸情報サイトで別の部屋の家賃もすぐに検索できてしまうのも事実だ。
それでもなお「実は半年ぐらいで住む家を変えてみたかった」「敷金・礼金とかを払うの、どうしても勿体なく感じちゃうんだよなあ」という人にはむしろ割安である可能性があるし、そうしたライフスタイルの需要を増やせればエポックメイキングな出来事である。また一般的にホテル経営では賃貸住宅よりも高度な運営能力が求められるが、そのフィールドで培われてきた運営ノウハウが賃貸住宅の世界に入ってくると「住まいの困り事を何でも気軽に聞けるチャットサポート」「利用者が集まりづらい閑散期には家賃が大幅値下げされる」といったサービスも立ち上がってくるかもしれない。さらにOYOはグローバルなサービスなので、不動産オーナーにとってはAirbnbのように日本人だけでなく外国人の集客もできるようになる、新ビジネスチャンスも見込めるかもしれない(民泊は年間で最大180日しか営業できなくなったことを思い出そう)。
日本の住まいをめぐるライフスタイルが“黒船”の到来によって変化するのかどうか。今後の推移がとても楽しみなサービスだ。