商品やサービスを売るビジネスならば、どの業界でもそれらをブランディングし、育てるためのノウハウ「デザインマネジメント」が不可欠だ。
しかし、日本企業はこれまで、経営者が「デザイン」を有効な手段として認識してこなかったため、グローバルでの競争力が弱いと言われてきた。
そこで、去る昨年10月17日に行われた「FINDERS SESSION VOL.5」では、過去記事でも紹介したブランディングデザイン界のトップランナー、エイトブランディングデザイン代表の西澤明洋氏をお迎えし、ブランドを創り、育てていくための方法について開示いただいた。
自社の商品やサービスをブランド化し、大きく育てるための具体的なノウハウとは? イベントの内容から抜粋し、改めて紹介したい。
聞き手:米田智彦 取材・文:庄司真美 写真:立石愛香
西澤明洋
株式会社エイトブランディングデザイン代表
1976年滋賀県生まれ。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行っている。「フォーカスRPCD®」という独自のデザイン開発手法により、リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手がける。主な仕事にクラフトビール「COEDO」、抹茶カフェ「nana’s green tea」、ヤマサ醤油「まる生ぽん酢」、賀茂鶴「広島錦」、芸術文化施設「アーツ前橋」、料理道具店「釜浅商店」、手織じゅうたん「山形緞通」、草刈機メーカー「OREC」、博多「警固神社」、iPhoneアルバムスキャナ「Omoidori」、ドラッグストア「サツドラ」、新電力「erex」など。グッドデザイン賞をはじめ、国内外100以上を受賞。BBTオンライン講座「ブランディングデザイン」講師。著書に『ブランドをデザインする!』(パイ インターナショナル)など。大学、企業などでの講演やセミナーなども多数行う。NHKworld『great gear』出演。
デザインを経営に活かす「デザインマネジメント」とは?
――「デザインマネジメント」とはどのようなものなのですか?
西澤:「デザインマネジメント」は日本では90年代くらいからには使われ始めていたワードですが、近年ようやく、デザイン業界でホットキーワードになり始めていて、昨年は経産省による「デザイン経営宣言」が発表されました。これの主旨は、知的財産としてデザインをいかに活用しようかということです。ただ、「デザイン経営宣言」はかなりざっくりしていて、デザインを経営に生かす方法として、“イノベーション”と“ブランディング”の2系統の話から始まるのですが、厳密に言えばそれは少し違っていると思っています。
デザインマネジメントとはもっと奥が深い。端的にいうと「デザインは経営資源になる」という幅の広い考え方です。デザインという知恵や技術を用いて、経営を革新させたり、効率を上げたりするすべての活動を「デザインマネジメント」というのです。僕が大学を卒業した当時は、専門の実務としてデザインマネジメントの仕事ができる企業はそう多くはありませんでした。でも、実は日本の電機メーカーや車メーカーではデザインマネジメントを80年代後半頃から取り入れ始めていて、僕は現場で活用されているその方法論を知りたいと考え、東芝に入社しました。東芝のデザインセンターで事業部と渡り合いながら、いかにしてデザインを経営資源として活用していくか?ということを考える実務経験を通じ、“イノベーション”や“ブランディング”だけで語れる話ではないと実感しています。
―― 「デザインマネジメント」には“イノベーション”や“ブランディング”の意図も一応含んでいると考えていいのでしょうか?
西澤:含んではいますが、たとえば僕がいた東芝など電機メーカーでは、それまでデザイナーはパソコン事業部や家電事業部などのラインごとに縦割りで組織に属し、形を作っていました。でも、僕が入社した頃には組織改革が進み、“センター制”に移行していったのです。それは、会社全体にデザインや周辺のナレッジを活用するためにデザイナーを起用する方針があったからです。
他社電機メーカーには、社長秘書室にデザイナーがいるところもありました。経営者が会議でプレゼンするためのレポートにデザインを用いて会社の知恵を見える化し、いかにわかりやすく図やロジックで伝えていくか、といったところにもデザインが使われていたわけです。そういう作業も含めてデザインマネジメントだと考えています。
「社外デザイン部長」として、企業の経営方針に寄り沿う
―― 西澤さんは「デザインマネジメント」を用いてコエドビールやヤマサ醤油などさまざまなお仕事を手がけていますが、具体的な仕事の領域について教えてください。
西澤: コエドビールさんの案件ひとつを例にとっても、僕らが手がけるのはパッケージデザインだけではありません。商品にまつわる市場調査をしたり、ネーミング開発をしたり、その上でパッケージをデザインしたり、包装資材からウェブサイト、広告まで、この会社にとってデザインが必要なところは全部お手伝いします。経営の中でデザインがリソースで使えるところは全部担当するイメージです。僕はコエドビールさんの“デザイン部長” 的存在で動きたいと思っているのです。
―― 社外のデザイン部長というわけですね。ほかにはどんな案件がありましたか?
西澤:同様に、ヤマサさんの「まる生ぽん酢」や「鮮度生活」という商品も担当させていただいています。どんな戦略で市場に出すか、ネーミングはどうするのかということを社内の方と喧々諤々やりながらデザインし、プロモーションまで持っていくのが仕事です。商品の売り上げが伸びれば後継商品が出たりしますが、それも含めて商品ブランドを育てるプロセス全体にデザイナーとして関わっています。
空間系の仕事も増えていて、抹茶カフェ「nana’s green tea」については、“和カフェ”というジャンルを当時初めて作りました。今は国内約80店舗、海外にも進出しています。あとは北海道の人なら知らない人はいないドラッグストア「サツドラ」。「サッポロドラッグストアー」を「サツドラ」という店名にリニューアルしました。ここでは、コンセプト開発からCIの変更、店舗デザイン、オリジナルのPB品開発、グループ全体のロゴも作らせていただきました。
―― 福岡・博多の「警固神社」をリブランディングしたのも西澤さんですよね? 僕の地元なので「神社のブランディングまで手がけるんだ!」と驚きました。
西澤:米田さんはご存知かと思いますが、警固神社は天神のド真ん中にある神社で、約400年ぶりに社紋変更をしたのですが、方々からさまざまな反響がありましたね。これも社紋デザインだけではなく神社運営の戦略づくりからお手伝いしています。要は、僕らがデザインで手がけるのは経営なのです。デザインを経営のリソースにしてブランディングを仕掛けていくことで会社の状態が良くなるお手伝いをしています。
福岡の中心街・天神にある警固神社
―― 企業中心のブランディングを手がける中で、なぜ神社から依頼が来るのか、不思議ですよね。
西澤:警固神社は人からご紹介をいただきました。あくまでこちらからは営業しないスタンスなんです。将来、独立すると公言していた学生時代の僕に、恩師が「デザイナーというのはホステスと一緒やぞ。お客さんにちゃんとプライドを持って『私はこんな女なのよ』と、自分の専門領域を明示して、それをきちんとリスペクトしてくれるお客さんと付き合っていかんと長続きせんし、お互いダメな関係になるよ」と教えてくれたのです(笑)。僕はそれに妙に納得して(笑)、独立当初から一切営業していません。営業や宣伝に近いことを強いていえば、セミナーに出演させていただいたり、本を書いたり。そんな機会のない新人の頃は、飲み会で会った人にひたすら熱く語っていました(笑)。
コエドビールの成功要因は、日本で初めて“クラフトビール”を名乗ったから
―― 意外にアナログですね(笑)。コエドビールのブランディングの成功の理由はどこにあると考えていますか?
西澤:いくつかポイントはありますが、デザインが良かったからとか、そんなに単純なことではありません。「ブランディングデザインの3階層」と呼んでいる考え方の手順があって、一種の思考の整理術でもあります。1番上がマネジメント、2番目がコンテンツ、3番目がコミュニケーションという課題の整理になっています。
デザイン領域におけるコミュニケーションはいろいろあって、あくまで一例ですが、ロゴやパッケージ、ウェブ、広告、インテリアなどがあります。
日本でデザイン業界が発達したのはたかだか70年程度の歴史です。この70年で、デザインの業界は縦割りで細分化されてしまいました。でも、コエドビールのブランドを作るためにデザインを必要とするお客様からしたら、窓口が細分化した状況は厄介でしかないのです。
だって、企業が伝えたいことはひとつですから。「コエドビールっていいでしょ?」というメッセージを、デザインを通じて伝えたいだけなのに、そこに専門家がうじゃうじゃいたら“船頭多くして船進まず”で、バラバラになるでしょう?
―― 確かにそうですね。だからこそ、コミュニケーションを含めたトータルデザインが必要ということですね。
西澤:はい。そこが一番求められます。だから僕らができるデザイン領域であれば何でもデザインします。これはブランディングにおける初歩中の初歩です。
コエドビールの成功の秘訣ですが、「ブランディングデザインの3階層」でいうと、上のレイヤーに差異化要因があればあるほどブランディングの成功率は高くなります。ですから、デザインがいいだけでは成功しにくいのです。
となると、一番大事なのは味かなと思いますよね?それも当然大事なのですが、本当に一番重要なのはマネジメントです。この場合は売り方にポイントがあったかと思います。コエドビールはリニューアル前は地ビールのブランドでした。昔のデザインは、いかにも地ビールらしい素朴なパッケージ。でも、中身はめちゃくちゃおいしいビールだったのです。まず、僕らがしたことは、“脱地ビール”。地ビールをやめて「クラフトビール」であると宣言したのです。
実は日本で“クラフトビール”を最初に打ち出したのはコエドビールでした。クラフト的な食のトレンドは世界的な流れで、コエドビール代表取締役・CEOの朝霧さんはそれを肌で感じていらっしゃいました。コエドビールのビール職人によるものづくりを省みるに、地ビールではなく本質的には「クラフト」だと直感され、最初に“クラフトビール”というポジショニングを仕掛けたのが、一番の成功要因だったのではないかと思います。中身がおいしかったこと、デザインが良かったことはもちろん、ビールそもそもの存在意義を変更した戦略が、コエドビールが躍進した理由だと考えています。ちなみにコエドビールのポジショニングは現在さらに進化していて、クラフトビールから本来の意味での「地ビール」にもう一度戻っていこうと、地域密着した新しいものづくりのあり方を提言されています。
ブランドリニューアル後は、日本初のジャパニーズクラフトビールを打ち出してヒット。
―― お話を伺っていると、デザイナーというよりも、ビジュアルコミュニケーションができるコンサルタントであり、アドバイザーのイメージですよね。
西澤:僕の仕事はたぶん、経営コンサルとデザインのディレクションとデザイン実務全般を担う役目ですが、意識してハイブリット型のビジネスにしようとしたわけではなく、もともとデザイナーとはそういう仕事だと思っていました。
それは僕のバックボーンに起因していて、大学時代は建築を専攻していました。建築設計の場合、これくらいは普通にやることなのです。建物を建てるのに、図面を書くだけ、形を考えるだけということはあり得ません。敷地の調査から入り、お客様の使い勝手をヒアリングして予算を聞きながら法律遵守で作らないといけません。家を建てるという行為において、戦略づくりから具体的な形づくりまでを建築家が一気通貫してやる仕事だからです。僕のブランディングデザイナーとしての働き方のイメージは建築家と同様のイメージがあります。
「マーケティング」と「ブランディング」を混同する企業は多い
―― 西澤さんは、ブランディングとはそもそもどんなことだと捉えていますか?
西澤:ブランディングの語源は、そもそも牛に焼印を押すことが起源と言われています。昔、放牧をしていたときに自分の牛をほかと区別できるように焼印を押したのが始まり。プラダのバッグに関しても、ブランドロゴを入れることで「うちはプラダやで」と焼印を押しているわけです(笑)。
それが転じて現在のブランディングの意味合いになっていますが、「弊社では、いいモノを作っているのに売れません。何とかして下さい」といった相談を受けることが多いのです。だから、僕にとってのブランディングを実務的な定義でいうと、「ブランディングとはある商品、サービスもしくは企業全体としてのイメージにある一定の方向性をつけることで他者と差異化すること」だと考えています。
「ブランディング」は伝言ゲームのようなもの
―― 一見当たり前のことのようで、それをしっかりやるのがブランディングなのですね。
西澤:はい、そうです。ただ、「マーケティング」と「ブランディング」がごっちゃになっている人が結構多いんですよ。でも、その2つは大きく異なります。もちろん、手法としてマーケティング的なロジックを使うこともありますが、考え方の根っこが違うのです。マーケティングは語弊を恐れずに言いえば、「売るためのゲーム」です。売れないものをいかに効率よく売るための方法をテクニカルに考える技術です。
マーケティングとブランディングが根本的に異なるのはゴール設定で、マーケティングのゴールは売ることです。でも、ブランディングのゴールは売ることではなく、伝言ゲームみたいなもので、いかに伝わるかどうかが重要なのです。
実はどの案件でも、マーケティングマインドからブランドマインドに変わっていただくことにかなりの時間を要します。なぜなら企業において「売ること」に関する考え方のバイアスは予想以上に強いからです。ブランディングする上でデザインはほんの1フェーズに過ぎません。たとえば容器の包材の選定に3案あったとして、どれを選択するのかもブランディング上の決断とマーケティング上の決断で異なります。部門が細分化されたときの判断基準として、きちんとブランディングが重要だということが全体的に理解できていないと事が進まないのです。
―― そういう状況は日本企業ではありがちですよね。
西澤:マーケティング主体の考え方だと、最終的には数字がいい方が判断基準になってしまうんです。日本企業はみんなまじめな人ばかりなので、自分の仕事をほめられたい。だからそのための基準が欲しい。そうすると、マーケティング的な数字の基準に安易に頼ってしまうのです。
ブランディングにはトップの熱意が不可欠
―― ブランディングに必要な要素はどんなものだと考えていますか?
西澤:オファーを請ける一定の判断基準がありまして、もっとも重視するのは、トップの考え方です。コエドビールの場合、朝霧社長は「日本初の“ジャパニーズクラフトビール”にしたい。それを世の中に広めたい」という熱い思いを持っていて、僕はそれに共感してお手伝いしました。ベースにこうした企業側の思いがないと、どんなにスペックで説明してもブランディングはできません。
―― 人はスペックでは心を動かさないですからね。
西澤:はい。結局、僕はプロジェクトの真ん中に熱い思いを持つ人がいるかどうかで、ほぼ成功が決まると思っています。その上で商品が良いものかどうか。僕の感覚でいうと商品が80点以上ったらものになる。それ以下の場合、ブランディングをやめた方がいいとさえ思っています。
たとえば、よくあるご相談が地方のお菓子のパッケージリニューアル。パッケージデザインの依頼をいただいたとしても、試食してみて何の特徴もない、美味しいとも思えないお菓子であれば、本質的なブランディングを仕掛けることはできません。ただ、パッケージを変えることで、短期的に売上を上げることはできますよ。でも、本来ブランディングが成功している状態を考えてみると、買った人が満足したからほかの人にも同じものをあげて、もらった人がその土地に行ったときに同じものを買うといったリピートが起こることなのです。そのためには、どんなにパッケージが良くても、お菓子自体がおいしくないと絶対にそういうことは起こりません。
―― 確かに見かけ倒しの商品は世の中に溢れていますよね(笑)。
西澤:そうだと思います(笑)。どんなにデザインをがんばっても、コンテンツやマネジメントと切り離されていると、はっきり言って意味がないと思っています。重要なのは、マネジメントからコンテンツ、コミュニケーションまでが一気通貫デザインされているかどうかです。僕が思う本当のブランディングは経営とデザインとの融合。だから僕は、自分なりに経営リテラシーを持ってお客様の思いを具現化する伴走者として立ち振る舞うことを信条としています。
―― 西澤さんの話が頭の中では理解できても、自社でコミュニケーションを取りながら、ブランディングができるかどうか不安に思う人もたくさんいると思うのですが、いかがでしょうか。
西澤:確かにそういう人は多いです。だから、契約前に何回も面談します。「うちの会社は実はこんな組織体制ですが、どういうふうに座組みを組んでくれるんですか?」といったデザイン以前のご相談もいっぱいあります。また次期社長や社長に就任されて間もない方が、会社の方針を大きく変更したい時に、ブランディングデザインを活用されるという事例も最近は増えていきています。
僕らの立ち位置として主領域はクリエイターで、コミュニケーション全般のデザインを担います。もちろん、関与できるレベルがあって、たとえば、コンテンツレベルだと50%くらいが限界。マネージメントレベルになると10%くらいでしょうか。ただ、僕らの立ち位置として重要なのは、あくまでプロフェッショナルとして、ブランディング全体の流れを知っている人材であること。実はそういう人材はクライアントの社内には社長も含めてほとんどいないからです。
だからこそ、僕らが一番重宝がられるのは実は“行司役”です。社長と現場の意見が割れたときにどっちが正しいか、「ハッケヨイ」とやる係をやりつつ、プロジェクトをどんどん進行していく。そこで決まったことを仕事として持ち帰って一生懸命作る。ちなみに、この行司っぷりの腕がいいんですよ、僕は。かなり空気を読みますから(笑)。
―― それは西澤さんにしかできない属人的なコミュ力ですね。
西澤:そうかもしれません(笑)。デザインもそうですが、コンサルも優秀な人ほど属人的ですよね。僕の場合、相手と腹を割ってわりと泥臭いお付き合いをする方です。
経営者目線で戦略を組めるデザイナーを育成
―― エイトブランディングデザインでは、西澤さんを筆頭に役職のレイヤーはどんな形になっていますか?
西澤:うちでは、一番上にブランディングデザイナーという役職があって、次にデザイナー、その次にアシスタントデザイナーという階層になっています。これは、広告業界などでよくある業務の細分化ではありません。カバーできるデザイン領域の範囲の広さ順です。すべてを束ねる能力があるのがブランディングデザイナーで、それに準じるのがデザイナー。うちのデザイナーは、僕のディレクション下でやる仕事について、プランニングからコピーライティング、グラフィックデザイン全般、外部のパートナーと協業するときはそのディレクションまで、かなり広い領域を担当します。
―― もはや「デザイナー」ではないですよね。
西澤:そうだと思います。広告業界に当てはめれば、アートディレクターとプランナーとコピーライターとグラフィックデザイナーが混ざっていますよね。僕の場合は、それにクリエイティブディレクターと経営コンサルがプラスされているイメージです。
―― 何役も兼ねられるようにするための、スタッフ能力の引き上げはかなり大変だと推察します。どんな社員教育をされていますか?
西澤:一時期は本当に怒ってばかりいましたね。根本的に何がダメなのかを考えた結果、社員がお客様の経営を理解できないことに怒っていたんです。そしてその原因は僕にありました。「それはこれぐらいわかるだろう」と高をくくって、僕が経営の考え方をちゃんと指導していなかったからなんですね。そこでここ数年は、「全員経営全員デザイン」という教育活動を行っています。経営者視点のデザイン力を鍛えるための課題図書を出したり、自分のプロジェクトを振り返り、なぜその決断をしたかということを話し合ったりしています。
さらに学びたい有志向けには、「経営リテラシー」という勉強会を開いています。経営者やコンサルタントの人が読むような課題図書をひたすら読んでみんなでディスカッションする会です。
―― 最後に、西澤さんの「仕事の流儀」みたいなものはありますか?
西澤:ブランディングの話が中心でしたが、結局、最終的に作りたいのは“ブランド”なんです。「ブランドとは何ぞや」と問われたら、「約束」と「生き様」と答えるようにしています。
―― 尾崎豊の歌詞みたいですね(笑)。
西澤:結局は人間だと思っていて(笑)。会社や個人が、まずは自分がどのように生きるかを宣言し、有言実行することが大事だと思っています。僕らはデザイナーなので、お客様の生き様にふさわしい鎧兜や武器、刀や金棒を作ってあげる係。ひと揃い作ったら、それをお客様にブンブン振り回して戦ってもらわないと意味がないので、最後はお客様の生き様に帰結します。これがすなわち、ブランドであり、生き様ですね。僕はデザインでお客様の生き様に貢献したいと思っています。
―― 最終的にはアナログなところに集約されるのですね。ブランディングデザインの話を聞いていると、編集の仕事と似ているところもたくさん発見できました。興味深い話をありがとうございました。