Photo By Shutterstock
2018年11月19日、突然、日産自動車元会長のカルロス・ゴーン氏の逮捕が報道された。逮捕の理由は、有価証券報告書に虚偽の数字を載せて、実際の報酬の半分に見せていたとのこと。その額、なんと約50憶円!
その後も、個人用の住宅を世界4カ国に不正に提供を受けていたなど、次から次へとゴーン氏を取り巻く不透明な資金の流れが明らかにされていった。
やまどじん
フリーライター
ミレニアル世代、東京都出身。父の海外転勤により帰国子女として育つ。エンジニアとして自動車メーカーに就職し、グローバルに商品開発を幅広く担当。関心の高いテーマは、「イノベーション」「交通」「教育」など。
全社員の所得を管理するメーカーでの不正に違和感
私は自動車メーカーに勤務して10年以上経つ身だが、最初にこのニュースを聞いて感じたことは、大企業でこのような不正ができるとは到底思えないということだ。
メーカーでは、毎年全社員の所得が管理されており、企業のトップとは言え、経理をごまかして個人的な利益を得るということは難しいはず。さらに、有価証券報告書などという対外的なモノに対してはさらに慎重に扱っており、一体なぜこんなことが?と違和感を隠せなかった。
そこで、ゴーン氏の逮捕から感じた日産の動きを自分なりに解釈し、過去から現在までの自動車業界の動きから、今後の自動車産業で必要なことについて考察してみた。
そのとき、日産内で何が起きていたのか?
ご存知の方は多いと思うが、日産は1999年にバブル崩壊後の継続的な販売不振で多額の負債を抱えてしまい、フランスのルノーと資本提携を結び同社の傘下に入った。早期の経営更生を目的に当時ルノー副社長のゴーン氏が最高経営責任者に就任。ゴーン氏は徹底的なコスト削減を行うと同時に、車種のラインアップを整理し、新車を積極的に投入することで2003年には負債を完済し再建に成功した。
この資本提携では、ルノーは日産に43.4%、日産はルノーに15%を相互に出資しており、日産が株主総会で議案の賛否を決める議決権を持つことができない内容だった。さらに、フランス政府がルノーの筆頭株主であることから政府の意向がルノー、さらには日産の経営に影響を及ぼす可能性がある状況が続いていた。
今回の事件の背景に、このような資本提携関係にあったことから、日産の一部の幹部が不測の事態に備えた準備をしていた可能性は十分にあり得る。そしてそのひとつが、ゴーン氏の不正を黙認していたことなのではないだろうかと私は想像する。
また、すでに報じられているように、今回の逮捕劇の裏には、フランス政府がルノー・日産の経営統合に本格的に動き出し、日本の大企業である日産が、フランス企業となることを防ぐための切り札として不正を明るみにする動きがあったように思えてならない。多少企業イメージを悪くするかもしれないが、日産幹部が日本企業であることを守り抜いた事件だったのではないかと考えている。
20世紀を代表する欧州自動車メーカーは次々と中国、インドの傘下へ
一方、欧州の自動車・二輪メーカーでも、これまでに経営危機や吸収・合併を経験してきた歴史がある。かつて自動車の発展を引っ張ってきたイギリスやイタリアのメーカーは現在、中国やインドの巨大企業の傘下に入っているケースが多い。たとえば、19世紀から続く最古のオートバイメーカーのロイヤルエンフィールドは、1955年にエンフィールドインディアを設立。1970年にイギリス本社が倒産し、エンフィールドインディアのみが残り、その後1993年にインドのトラックメーカーのアイシャーに買収されている。
日本でも有名なイギリスの高級車メーカーのジャガーは1922年に設立し、2002年にアメリカのフォードに買収され、その後2008年にインドのタタ自動車に買い取られた。また、1923年に設立されたイギリスのスポーツカーブランドのMGもMGローバーを経て、現在、中国の上海汽車の傘下になっている。
レースで有名なロータスは1986年にアメリカのGMや数社を経て、2017年には同じく中国の吉利汽車の傘下に。ほかにも、1927年にスウェーデンで創業したボルボは1999年にフォードの傘下となり、その後、2010年に浙江吉利控股集団(吉利汽車の親会社)の子会社となっている。
ここで挙げた以外にも、欧州メーカーの買収例は多々あるが、20世紀を代表する多くの車メーカーが欧州メーカー同士、または中国・インドといった外国の資本傘下となっているのがこれまでの事例である。このような流れができたのも、そもそも第二次世界大戦後、日本の目覚ましい経済発展の立役者となった日産のような日本の製造業が、高い品質の商品で買いやすい売価で海外に進出したことが発端となっているのだ。
今後の日本の自動車業界の行方は?
このような過去の事例は、今まさに日本の自動車メーカーが直面している危機と類似しており、今後の日本の自動車業界は大きく変動の時期を迎えると言われている。そこで、今後の自動車業界が直面している危機についてあらためて考えていきたい。
前述の通り、中国・インドのような経済発展が目覚ましい国の企業が欧州メーカーを買収するケースや技術提携するケースが増えてきている。その中で、今まで安かろう悪かろうであった中国メーカーも製造業として力を付けている。また、インドでは、欧州のBMWやKTMといった老舗二輪メーカーとローカルメーカーが資本提携し、欧州レベルの品質のものをインドの安いリソースで商品化している背景もある。
さらに、グーグル、ウーバー、ダイソンなどといったこれまで競合ではなかったメーカーが自動車業界に参入してきており、電気自動車や自動運転の領域で主権争いが激化していくことが予想される。
これまで日本が得意としてきた、既存製品の改善だけでは競合との差別化が難しく、市場に埋もれていってしまう可能性が高い。自動車業界は100年に一度の大改革の時代と言われており、今後も生き残っていくためには、日本企業にしかできないモノづくりを再構築し表現していく必要に迫られている。