ITEM | 2018/12/10

毎日見ているのに実態は誰も知らない。「コンビニ外国人」の実態を鋭く描き出したルポ【ブックレビュー】


神保慶政
映画監督
1986年生まれ。東京都出身。上智大学卒業後、秘境専門旅行会社に就職し、 主にチベット文化圏...

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神保慶政

映画監督

1986年生まれ。東京都出身。上智大学卒業後、秘境専門旅行会社に就職し、 主にチベット文化圏や南アジアを担当。 海外と日本を往復する生活を送った後、映画製作を学び、2013年からフリーランスの映画監督として活動を開始。大阪市からの助成をもとに監督した初長編「僕はもうすぐ十一歳になる。」は2014年に劇場公開され、国内主要都市や海外の映画祭でも好評を得る。また、この映画がきっかけで2014年度第55回日本映画監督協会新人賞にノミネートされる。2016年、第一子の誕生を機に福岡に転居。アジアに活動の幅を広げ、2017年に韓国・釜山でオール韓国語、韓国人スタッフ・キャストで短編『憧れ』を監督。 現在、福岡と出身地の東京二カ所を拠点に、台湾・香港、イラン・シンガポールとの合作長編を準備中。

日本人とガイジンの大きな溝

コンビニ店員のネームプレートを見て「どこの国から来たのだろう」と思うことが最近多くなったのではないだろうか。芹沢健介『コンビニ外国人』(新潮社)は、世界第5位(OECDの統計では最近第4位になったらしい)の外国人労働者流入国である日本のこれからを論じる。

「コンビニ外国人」というタイトルからこの本のトピックがいくらか類推できるほど、外国人労働者は身近な存在となっている。しかし、コンビニ外国人の「コンビニ店員」としての表情以外は一般人には知り難い。本書は外国人労働者の働く選択肢の少なさ、労働条件の悪さ、日本に来るために抱えた負債、日本語学校の闇などといった負の側面だけではなく、共存の可能性もしっかり模索しているルポルタージュだ。

本書に登場する「外国人」には留学生、移民、技能実習生などがいる。留学生が取得する留学ビザは、学問に集中するという名目のため労働(アルバイト)は週28時間までと定められている。著者がインタビューしたウズベキスタン人留学生は、違法だが週に48時間勤務している状況だった理由をこう話している。

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「学費を稼ぐには働かないといけないし、進学できずに留学生でなくなれば、(在留資格がなくなってしまい)国に帰らされる。それに僕がシフトに入らないとほかにアルバイトがいませんから、店長も困る」(P25)

この言葉からは留学生の苦労だけではなく、日本の深刻な労働者不足も読み取ることができる。従来コンビニを支えていた日本人の若者の確保が難しくなり、外国人労働者はコンビニにとって不可欠な働き手となった。実際、全国の大手コンビニで働く外国人は4万人で、従業員20人に1人の割合だという。ドラックストア、スーパー、ファストフード店などのサービス業では、外国人・経営者双方が望むかたちで違法な就労状態が常態化してしまっている。中には留学生を引き止めるために毎月1万円の「お小遣い」を渡しているコンビニオーナーまで現れるほどだ。

世界第4位の移民大国で、存在しないかのように扱われる移民たち

国連では1年以上外国で暮らす人は「移民」として定義されている一方、就労目的での受け入れは日本では「移民」にあたらず、入国時点で永住権を有していなければいけないという定義がされている。これは世界的に見ても奇妙な定義だという。

圧倒的な労働者不足が生じていてそれが既に移民によってカバーされている現状にも関わらず、政府は「移民」という言葉の使用を避けて世に響かせないようにしている。1993年に導入された技能実習生制度の名目にもそのスタンスは表れている。

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そもそも技能実習制度は建前としては日本が“国際貢献”するために作られた制度である。日本の優れた技術や制度を途上国の若者に習得してもらい、技術移転を図ることで自国の発展に役立ててもらう。決して農業や漁業の現場で人手が足りないから外国人を呼ぶわけではない。(P101)

期限付きで来日して労働し、日本の高度な技術を本国に持って帰ってもらう。こうした上下関係、そして仕組みの存在そのものをもって恒常的な国際貢献とする姿勢である。しかし、実際は少子高齢化と人手不足をひとまず応急処置する、一方的な都合が核にある制度だ。本書の題名との関わりでいえば、現在技能実習生に認められている70強の就労業務の中にコンビニが加わる可能性もあるというが(そのために業界団体である日本フランチャイズチェーン協会が熱心にロビー活動を進めている)、コンビニでの勤務経験の提供が「国際貢献」となるかどうかも本書で検証されている。

寮費や食費などが給料から引かれて実質最低賃金以下で働き、ブローカーなどに騙されて大きな借金を抱えて来日する場合も多く、「現代の奴隷制度」とまで揶揄されている技能実習制度。もちろんその制度内で将来につながる有用な交流が生まれ、満足いく労働が行われる場合もあるだろう。しかし、制度自体に根本的矛盾をかかえていては、社会に良いサイクルは生まれない。

目先の利益に走る日本語学校と悪徳ブローカーが生みだす闇を知れば、そのデメリットは自明だ。例えばネパールでは「海外で勉強したい、働きたい」と夢を抱いている若者が多く、日本を行き先に選ぶ場合も少なくない。西日本新聞の記者・古賀氏によると、日本語学校に一人留学生を送るごとにブローカー側には3〜7万円が入る仕組みとなっているという。

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おおざっぱに五万円で計算しても五十人送り出せばそれだけで二五〇万円ですよね。仮に年二回送り出せば五〇〇万円です。ネパールは公務員の月収がだいたい三万円なので、留学ビジネスで一山当てようと新規参入組も跡を絶たない感じでした (P154)

「日本語が話せなくてOK」「学費後払い」など、ブローカーによる安易な釣り文句や時に虚偽の情報に同調するように、生徒を増やしたい受け入れ側の日本語学校は書類偽造をし、頭数を増やすだけのために来日させられた若者が結局犯罪に走ってしまうケースが多発した。

政府が「移民」という言葉の使用を避け続けていれば、どうしても外国人労働者に対して偏見がつきまとってしまう。ただ稼ぐためにやってきて日本自体に興味はない、悲惨で暗い過去、テロリスト…著者が「移民アレルギー」と表現しているイメージがチラつく方もいるかもしれない。

一方、移民が作り出す経済循環から良い流れを生み出そうとする試みとして、スタートアップビザ(外国人創業活動促進事業)制度が紹介されている。東京・福岡など国家戦略特区で開始されているが、うまく外の力を利用して労働力の奪い合いを避けて、有機的な環境を生み出すのが現代日本の課題なのだ。

日本にとって定められた運命と、変えられる運命

専門家によると、日本の人口減少の現状は「ジェットコースターの下り坂にさしかかったところ」と本書で述べられている。つまり、急速な降下はこれから始まるのだ。

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日本はかつてどの国も経験したことのない猛烈なスピードで少子高齢化している国だ。しかも、ただの高齢化ではない。すでに四人に一人は六十五歳以上で、二〇三五年には三人に一人が高齢者という超高齢化社会になる。
つまり、このままいけば、今後、日本の人口が右肩上がりに増えていくことはないし、国が若返ることは絶対にない。(P197)

だからといって闇雲に外国人を受け入れればいいというわけではない。日本には日本が培ってきたものがあるし、受け入れの態勢を整えなければ混乱が生じるだけだ。

だが、本書では「悲惨な外国人労働者の現状」だけが記されているわけではない。ごくわずかではあるが前向きな動きもある。留学生として来日したベトナム人兄弟が飲食ビジネスで成功した事例に加えて、広島市街から車で約一時間の安芸高田市は、先行き見えない未来を勇敢に切り開いていっている地域として紹介されている。市長が2010年に改革に着手。2004年に3万4千人だった人口が10年強で1割以上減少。市役所に多文化共生推進室をつくり、定住支援に向けて英語・中国語・ポルトガル語の通訳を配置したという。期限付きで来日している技能実習生も「いつか帰ってしまう人」という認識ではなく、「町を支えるピンチヒッター」として接する姿勢を育んできた。

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まずは、これまでの十年で三〇〇〇人減っていたものを半分の一五〇〇人減に止めたいと思っています。いま大事なのは外国人の数を増やすというよりは、ひとりでも安芸高田のファンを増やすことだと考えているからです。国に帰った実習生が『広島の安芸高田というところはよかったよ、住みやすかったよ』と口コミで広めてくれることが大事。(P207-208)

日本の人口減少は避けることができない。しかし、コンビニにいる外国人をはじめとした「やってきた人々」との関わり方を考え、お互いを高め合い、より良い未来を共に模索していくことは可能だ。本書は、コンビニで働く外国人に商品を温めてもらうだけでなく、「なぜ日本に来たのだろう」と彼ら一人ひとりの人間性に温度を通わせる想像力を読者に与えてくれる。